てのひら

そして、夕方。
「じゃ、もう俺ら帰るから」
隆敏は駅が見えてきた所で真達に別れを告げた。
「おう」 真が答える。
バイバイ紀子ちゃん、と玲奈が紀子の手を握って握手する。
「隆敏、いい子だね、紀子ちゃん。手が冷たかった」
「手が冷たい人はいい人、ってやつか?」
苦笑する隆敏。内心はひやひやもの。なにせ『彼女』は幽霊だ。冷たいに決まってる。
「さようなら」
紀子が挨拶する。
「じゃあな」
隆敏も手をあげた。
そのまま駅構内へ直行し、
「さあ、トイレに行け」
「なによそれ」
「俺はお前の分の電車賃を払うつもりはないし、ついで言うとここで消えても目立つ」
「ああ、トイレに行って『消え』ろって? ならそう言いなさいよ。行きしなもそうだったけど」
そうして姿を隆敏にしか見えないようにした紀子を連れて改札へ。
紀子がトイレにいる間に買っておいた切符を自動改札に通す。
隣で中年の駅員が改札を修理していた。
そして目的の上りの快速電車に乗る。
穴の時間に乗れたらしく快速電車にしては人が少ない。
ちょこんと紀子が隣に座った。
手のひらが触れる。
「冷たいって言ってたよな」
そのままさりげなくぐっと握る。
隆敏の手の温かさか、
それは何故か少しだけ、
あたたかいてのひら。



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