とある駅前の、噴水の側のベンチ。
「いきなり彼女になってくれっていうから、何かと思った」
「そりゃそうだよな」
隆敏は隣に座っている少女を見た。
シンプルな水色のワンピース。
『出た』時は学生服だったけど、隆敏が『着るように』と買い与えた。
「友達に彼女とられて、あきらめた頃に自慢されたからって、幽霊に彼女役頼む?」
「だって他に手がないし。人に見えるんだし、物動かせんだし、その上実体化できるし」
「そうだけど。あ!」
紀子が突然立ち上がる。
「アイスクリーム屋さん」
屋台に向かってワンピースをはためかせて、駆け出す。
「買ってよ、あれ」
「お前食うつもりかよ」
追って隆敏。
「あ」
立ち止まる紀子。
「食えないのか」
「試してない」
怖いから、と紀子。
隆敏は、見下ろさないと彼女を見れない。
小さな体が震えている。
「やっぱり買わなくっていいよ」
そういった時には隆敏はもう屋台にいて、アイスクリームを買っていた。
一つだけ。
戻ってきて落胆と安堵の入り交じった瞳を向けられながら、隆敏はアイスクリームを食べる。
中程まで来たところで、
「ほら」
紀子に差し出す。
「あ」
「一口だけな」
おそるおそるなめ取る。
甘くてひんやりした味。
「食べれる」
「食事でもすすめられたら困るしな」
にかっと笑う隆敏。
「うん」
そのまま紀子の笑顔が花開く。
そして紀子はアイスクリームを持ったまま走り出す。
「こら、返せよ」
隆敏は紀子を追いかける。
見上げれば、夏の空。
目の前を走るのは、
彼女の意外と小さい背中。
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