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握った拳

「で……意外と、何にもないなあ」
隆敏はそう言いつつ、ごろりと床に転がる。
あれから十日。
けれど、何の音沙汰もなし。
「真、どうしたんだろ。
 あれから会ってない」
「……おそらく、こちらの出方を窺っているのだろうね。
 一応、阿部の血筋は入っているみたいだし……。
 強力な奴だから」
「そんな凄い奴だったんだな。至って普通だと思っていたのに」
家が神社だと知ってはいたが、それ以外は怪しい点などなく、霊能力など垣間見せもしなかった。
「……ちょっと不快だなあ。
 親友だと思ってたんだ。どうして教えてくれなかったんだろう」
「君が自分の『敵』に狙われてはいけないと思ったんだろ。
 おおかたその『敵』とやらも、壮大な誤解だろうね。被害妄想さ。
 よくあるだろう? 一部の若者がたまたま狂って大事件を起こしただけなのに、若者全体が危険視される。それと一緒だよ」
「ああ……成る程」
「極論に走ってみるとね、人殺しを含むのだから人類全体が危険だ、っていうのと同じ。
 こっちにしてみると、たかが十年程で、僕らの努力も虚しく鬼に成れる様な魂を生み出す人間の方がよっぽど恐い」
「凡人はそうじゃないって言ってたんじゃあ?」
「凡人は、ね。
 凡人以上の狂った奴なんかは鬼に成るのだよ。その狂い方が半端じゃないから」
そういう奴はこっちの世界でだって犯罪者だよ、とトムが愚痴る。
「あー……連続殺人鬼とか?」
「うん。それと、加害者側じゃなくて被害者だね。人の尊厳を根底から奪われた者達とか」
どうやら色々あるようだ。『本当に恐いのは人間』とはよく言ったことだと思う。
「……それが分かったら、真は見逃すでしょうか」
「さあね。性格によるよ。頑固な奴だったら、ペテンだと思ったりするかも」
「嫌だなあ、それ」
玄関から、食料の買い出しと、気晴らしの散歩から帰った紀子の声がする。
透き通った跳ねるような声。
これを、真は消し去るのだ。
「……本当に、嫌だ」
ぎりりと痛みに軋むのは、
強く、強く握った拳。



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