「ご免、突然すぎた」
翌朝、完璧に準備を整えてアレックの部屋に揃った5人に、アレックは素直に謝った。一応自分も、出来るだけの準備はしてある。
昨晩部屋に帰って冷静に考えてみたら、変な発言だったという反省がどっと押し寄せてきた。いくら何でも急ぎすぎたのだ。
しかし案外五人はそんなに気にせず、
「まあいいよ。用意は出来たから」
などと言って許してくれる。
ヴィブラートは胸に象牙の鎧。足にはなんだかよく分からない鉛色の金属製の防具が付いている。腰には竜が暴走したときのための鎮め笛と、シンプルだが由緒有りそうな形状の剣。
フェイダは小型の杖を腰にぶら下げ、割と軽装だった。腕と胸にダマスクスの鎧。
エルシアはヴィブラートのシンプルな剣とは裏腹に、派手な細工のしてあるよく切れそうな槍。そしてミスリルの鎧を胸に。足と腕にはダマスクスの鎧。
ソードは例の紅の鎧。腰にはこれまた紅の鞘に入った茶色の柄の剣。短い所を見ると、魔法用の杖なのかも知れない。
ルーンはソードとは対照的な青の鎧。腰にはもろに実戦用のシンプルで細工もない剣。年季が入っている。
皆、一様にその他の荷物は別の所にある。
五人の眺めは壮観だった。なまじ美形が揃っているだけに更にそれが強調される。
それに対して、アレックは王からの明らかに手を抜いた支給品、つまりは年季の入った象牙のひびが入った鎧などしかない。
唯一、父と母が持たせてくれた細身の剣がどうにかその体裁を整えているように思えた。
「フェイダ。父さんをしばきに行くわよ」
「おうよ。全く、あの人も小市民だな。こんなぼろを着せてたんじゃぁ、国の評判が落ちるだろうが」
そのアレックの惨状を把握すると、王女と従者は別の理由で表面上は心を一つにし、拳を握りしめる。
「ぁ、ちょっと、別に大丈夫……」
「旅を舐めるんじゃないわよ! 待ってなさい、ちゃんとした防具を奪ってきてやるから」
それはまずいんではなかろうか。王女として。
そう言う暇もなく、二人は部屋から飛び出ていった。
「騒々しいし、物騒だな。昔からの知り合いみてえだけど、いつもあんななのか?」
ヴィブラートがルーンに聞くのが当然のように話し掛ける。
「ああ、まあな。二人とも良い根性してるからなぁ。
 扱いになれていないと困るぞ、ヴィー」
「「「ヴィー!?」」」
アレックとソードだけでなく、本人すらも驚いて聞き返す。
「ヴィー。最初のあたりの綴りを取って」
「な、何だよそれ!」
「それとも何だ、ヴィク」
「あー分かったよそれで良い!」
急いでルーンの言いかけた事を遮るヴィブラートを、訝しげな目つきで皆は見つめていた。



彼は朝焼けを見上げながら船に乗った。
「兄ちゃん、いやに綺麗な顔してるなあ」
「そうか」
日焼けで褐色の肌をした船員に話し掛けられ、冷静に答えを返す。
「その様子だとお貴族様だろう」
「・・・ああ」
「何だってこんな船にのってんだ?」
答えない彼を余所に、その人の良さそうな船員は続ける。
「人間の大陸に行く船なんて、調達するのは簡単だろうに」
彼は一言、ああ、と答えただけだった。
彼の瞳は緑。しかしそれはレンズによるもの。
レンズを外せば、この船員も態度をがらりと変えるだろう。
そう思う自分の卑屈さに気付き、彼は小さく頭を振った。



「凄い」
アレックはエルシアとフェイダが貰って(ほぼ強奪して)来た旅の服と、ミスリルの胸と足の鎧を身につけ、自らの全身を見渡しながら感心した。
剣は、何処かで『試練』などという胡散臭いものがあるらしく、騎士団用の量産品だった。でも、父母の細身の剣も持っていく事にした。
「ま、うちの武器庫にかかればこんなもんよ」
「因みに王は締め上げといたから」
ちょっと危険なフェイダの発言には取り敢えず耳を背ける事にして、アレックは礼を言う。
「ありがとう」
いやいやそれほどでも、と二人が照れた。
「さて、では」
行こうか、とルーンが他称勇者一行を促した。

そしてこの朝、彼らは出発する事になった。

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