「あのままでは俺も殺されてしまった。だから」
何かを諦めたような、決心したような、それでいて淡々とした顔でヴィブラートは続ける。
「父様と母様は、最後の力を使って俺とヴィステラを封じた。誰にも手が出せないように、あの男に殺されないように。
 俺はその時小さくて、未だ何も分からず、泣きわめいてただけだった」
「あの、男って?」
エルシアの問いかけに、
「お前の先祖だよ。実の兄に濡れ衣を被せ、そして殺し、王になった男」
また淡々と答える。エルシアが黙り込んだ。
「まあ、五百年も前の事だ。そんで五百年の間、俺はずっと水晶の中でぐうすか眠ってたわけだ。
 そして、16年前。俺の封印をとある魔族が解いた」
魔族。
皆が息を飲む中、それを一瞥して更にヴィブラートは続ける。
「封印のおかげか、それともトラウマか、俺は年を取らない体になっていた。
 それからその人と旅をして、ナスカの隣町、リルムに着いた。
 その魔族はとても優しくて、リルムに定住してからも俺の世話をしてくれた。でもやっぱり、色々無理があるっていうんで、ヴィステラと一緒に俺はシェイダ家に預けられた。
 それから一ヶ月ぐらい経って、あの人は何処かへ消えてしまったけれど、その代わりアレックに出会ったんだ。
 それから精神も安定したんだろう。俺の体は成長し、ここまで無事育った。
 親父もお袋もいい人で、幸せだったよ。
 父様と母様を失った悲しみも、忘れそうになるぐらいにな」
淡々とした口調は変わらないが、ヴィブラートの手がかすかに震えた。
「それなのに、アレックは勇者に選ばれちまって、もうなんていうか、いやになってな。いっそ参加してやろうと思ってここまで来たんだよ。  ……アレック。ちょっと部屋で休んでくる。疲れた」
ヴィブラートは泣きそうに歪んだ顔で立ち上がり、静かに部屋から出て行った。
誰も、暫く喋らなかった。
「ヴィブラートの親父とお袋、去年相次いで亡くなったんだ」
アレックの一言に、二人が息を飲む。やがてエルシアが震えながら言った。
「あの人、復讐したいでしょうね」
父を殺され、母を殺され、アレックすら、王族に奪われて、憎くないはずはないだろう、と。
「そんな奴じゃないよ」
アレックは天井を眺めながら応える。
そんな奴ではない。本当に憎いのなら、ここでエルシアすら殺してしまっただろう。
アレックは、ヴィブラートを信じていた。

  *

そんな奴じゃないよ。
アレックの声を部屋の外で聞きながら、ヴィブラートは人知れずため息を漏らした。まったく甘い幼なじみだ。
でも、それこそがヴィブラートが信じるアレックがアレックたる所以であり、ヴィブラートをこの旅に同行させる理由の一つであるのは確かなのだ。
考えの読めない瞳で微笑むと、ヴィブラートは自室へ歩を進めた。
皮肉にも、昔本当に自分の部屋だった、懐かしい場所へ。

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