「ちょっと待て、エルシア! 考え直せ!」
王が右手を挙げて制するが、
「何故です。勇者にされた可哀相な者に付いていくのが、せめてもの王族の義務でしょう」
エルシアは止まる事はなかった。
それを余所にフェイダはアレックの方を向く。
「そこまで言うんなら出発止めてくれよ、とかお前は言わないのか?」
「そんな事したら代わりの誰かが被害に遭うだろ。俺みたいにヴィブラートみたいな幼なじみもいない奴かも。そんな後味悪いの嫌」
「自分のため、みたいに言ってるが、ずいぶんとお人好しだな」
「そりゃどーも」
「じゃあ尚更仲間を選ばないとな」
「うん。王女は決定だろ。えっと、フェイダさんも」
「フェイダで良い。まあな。エルシアは凄腕の槍使いだし。俺は普段は司書やってるから、知識もある」
「後は? 俺、何も知らないんだ」
「んー、条件としてはどんなのが良い?」
「強いの」
「性格破綻してるのとか、うちの国に変に義理立てする奴とかだぞ」
「まともなのは?」
「うちの国の守りにつくだろ。周辺諸国との関係とか色々あるし」
「じゃあ取り敢えず、頭数減らすか」
アレックは立ち上がると、父娘の言い合いを目を丸くして見物しているギャラリーに叫んだ。
「今の話を聞いて、行く気の無くなった人、おふざけで立候補した人、言い方は悪いけど弱い人! その他、本当に行く気のない人は右に、それ以外は左に分かれて下さい!」
畑で、森で、谷で、自然の中で鍛えたよく通る大きな声だった。伊達に畑仕事もしていないし、土砂崩れが起きそうな時に、近くの町への連絡に、道の中程から叫び続けなければならなかった事がある。
ヴィブラートは左に迷わず移った。他にも多数。右の方が少ない。
右の人々をアレックは見た。開き直っているのか、堂々としている者や、びくびくしている者が居る。強そうな王宮の騎士もいた。
左。びくびくしている者が居る。ひそひそ話なんかある。汗をかいている者だって。
アレックはもう一度叫ぼうとしたが、やめる。ここでちっぽけな若造が叫んだところでさほど効果はないだろう。
「どうすべきだろうな、これ」
フェイダがため息をつく。
「試験でもする?」
「そうだよな。取り敢えず、ヴィブラートは多分あの中で一番の使い手だ。だから仲間決定。さっきから出す雰囲気が明らかに凡人のモノじゃない」
「そうなのか? いつもの、商売で出かけるあいつと変わらないけど」
「客は好運だな」
うんうんと頷きながらフェイダ。
「てことはもしかすると、俺じゃなくってあいつが勇者だと勘違いされる事も」
「あるな。でも、魔王を倒せるかは疑問だけど」
「魔王を、倒す?」
急に胸が締め付けられ、全身の血液が逆流したような気がした。魔王を倒す。それはやってはいけない。理屈では倒すべきなのかも知れないけれど、いけない。駄目だ。
頭がぐるぐると回っているような気がする。自分の内に湧き上がった妙な感情に驚き、押さえるのに精一杯で、アレックは自分が床に倒れ込んだのにも、うっすらとしてゆく意識の中でヴィブラートの叫ぶ声が聞こえるのにも殆ど気付かなかった。
気付いた時には世界が暗転し、アレックの意識は途絶えた。

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