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相談員

「で、まあそこの食事の不味い事!
 ああ、ちゃんと普通の人には美味しいというのは分かっていたわ。
 でも私は味覚が少し変わっていてね、そう感じてしまったのよ。
 だからちょっと無理しながら笑って……って、聞いているの?」
「はいはい聞いてますよー」
本をぱらぱらとめくりながら、フィラナル=テルブが明らかに適当に相槌を打った。
因みに読んでいる本はヴィン=サードの『デフィルガー賛歌』などというよく分からない本だ。
利用する時間帯が重なるこの男とは、どことなく馬が合う。しかも彼は昔から想い続けている女性がいるらしく、だから純粋に友達づきあいができる。
有名な話なのだが逃げないんだし、本など読まずに答えてくれてもいいとは思うが、いつもこのような話をしているから、最早聞き流される状態だ。
「全く、どうして男はこうなのかしら!」
「いつも同じような話だろ。女にだって聞き流されるぞ。
 ……そうだ。あそこのんに話してみろよ」
ふいっとやる気のない指先に示されたものは、『読書相談カウンター』と書かれているカウンターと、そこで一人研究らしきものに没頭している例の青年だった。
「なんで!?」
「暇そうだし。だって魔導検索システムもあるもんな。前、お前が捜してた本並みに検索出来ない本なんてそうそう無いし。で、あいつ、一応相談員が語尾についてる」
「そんな適当な!」
フィンの脳裏にあの乾いた温かい掌の感触が蘇る。気持ち悪くはなかったが、何故かとても印象に残っているのだ。
「なんでも王立の大学を結構な成績で卒業しながらも、蔵書研究の為に入ってきた変わり種らしいし」
「研究員なのにどうしてあそこにいるの!?」
「さあ。でもまあ、行ってみれば」
フィラナルは気のない声で告げると、また本に目を落とした。


「はあ。それは辛いですね〜。ま、僕みたいな平民にはお貴族様の考える事なんて、まっっったく分かりませんけどね、まー辛いんでしょうねー」
間延びした声でルーフェルが応えた。
意識していないようではあるが、明らかに皮肉に聞こえた。
「……あなた、それはイヤミかしら?」
「いえ」
ニコニコと笑いながら首を振る。
「でも、どうして僕に愚痴を言いに?」
「フィラナルに勧められたのよ。友達だっていうのに、なんにも聞いてくれないのだもの」
「ふうん。では、続けて下さい」
「……あなた、これは一応相談なのよ? どうして何も自分の考えを言わないの」
「言いましたよ」
「そうじゃなくって……!」
「聞いてますよー、ちゃんと。答えなくってもいい話だってあるでしょう」
その言葉にぐっと言葉が詰まる。
「聞いていますからー」
きらきらと、琥珀の髪に光が反射する。
「ね、聞いていますよー。要約ですが、話された事は全て言えます」
本当だろうか。
フィラナルは別だ。深刻な話をしているとすぐちゃんと答えてくれる。
でも、そんな人は本当に少ない。平民にはいるのかもしれない。けれど。
父も、兄も、母も、ちゃんと話を聞いてくれた事は本当に稀なのだ。
だから、どんな下らない話でも、出来るだけフィンは聞くようにしてきた。多分、これからも聞く。
本当に、相槌無しでも、内容が言える位に、ちゃんとこいつは聞いてくれてるんだろうか。
「……先日ね、父が強引に縁談を持ちかけてきてね……まあ結局、おじゃんにしたんだけど…」
フィンは続きを話し始めた。
それをルーフェルは静かに聞く。
話し終えた後、フィンは一言付け加えた。
「で、あなたの名前は何?」
「……知らないですよね、そういえば」

そして、フィンは相談員の名前を知る。

  *

「ほら、返すよ」
「はい」
フィラナルの差し出した本を受け取り、ルーフェルは栞を挟んでおいたページをめくって、またレポート用紙に何か書きつけた。
「面白かった。でも、ちょっと難しいな」
「そうですね。まあお貴族様なんぞに分かってもらおうなんて高い望み、願った事すらないですから、別にいいですよ」
決して間延びしない声でスパッとルーフェルは切りすてる。
「……また、お前はイヤミな」
「何せ妾腹で貧しく育ちましたからね」
にまりと粘っこい微笑みを返され、フィラナルが冷や汗をたらしながら言い返す。
「でも、俺もフィンもお貴族様だけど?」
「それとは別次元です。だってあなた達、いい人じゃないですか」
そう言って微笑むルーフェルは、何を考えているか分からない。
「……フィンに惚れてるって言うから、お願いされる前に紹介してみたんだけどな。
 それもお前の思うつぼか」
「はい」
にっこりと根性の悪い笑みを返され、フィラナルはため息をついた。
「フィン、どうしてこんな捻くれたのにひっかかっちまったんだ……」
「だって綺麗で可愛かったんですもん」
悪びれずに性悪の笑みでもって返すルーフェルに、フィラナルは更にため息をついた。

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