水玉。

水玉。

「いらっしゃーい……と、ああ、何だウリエルか」
武器屋『幻』の店主、ランディール=シェリア=セイリードは、店内に入ってきた人物を一瞥するなり、露骨に声の調子を変えた。
「よ」
ウリエルは片手をあげて挨拶する。
「シェイドだな。待ってろ」
ランディールが棚をまさぐりながら言うと、
「ん。最近運動不足だし、丁度良いかと思って取りに」
という答えが返ってきた。
それでも多分ウリエルの体型は、ランディールの捜しているものを預けに来た時と、殆ど変わっていないだろう。
「これな。メンテナンスで置いていったくせに、何で十年も取りに来忘れるかな」
ランディールが律儀な性格でなければどうするつもりだったのか。
「置いておくつもりだったから」
思った通りウリエルは確信犯だった。
「うちを倉庫にしないでくれよ」
ため息をついて『シェイド』を出す。布に包まれたそれをウリエルは受け取ると、二、三回振ってみている。
神槍、シェイド。今はもう希少な金属・オリハルコンで作成された、伝説の武器だ。
とは言いつつも、『幻』には貴重なオリハルコンの武具の在庫が結構ある。知る人ぞ知る名店、それが『幻』だ。
それらと比べても、やはり『シェイド』は最高の品なのだが。
「そういや、東の『幼女様』ってまだ生きてたんだってな」
この爺には分かるだろうが、生憎力の弱い自分には分からない事をランディールは問うてみる。
「生きてるよ、あの若作り」
お前もだろ。
そう言いかけたが口には出さず、心の中だけで呟いたはずだったのに、
「俺はあんな子供になろうとはしてない」
見透かされたように答えられた。
それから少しの沈黙。
「……ねえ、ランディ」
「何だ?」
「時間が流れるの、速いと思わない?」
「ああ」
早い。遅いとも言える、でも早い。人間にも、天使にも、悪魔にも、それは平等に流れてゆく。
只、自分たちは寿命が違うだけだ。
「……もしかして、人間のお気に入りでも出来たか?」
「うん」
素直に頷くウリエル。昔から変わらない性格をしている、とランディールは思う。
自分より千五百は年上なのに、それを余り感じさせない。
「まあ、頑張れよ、ウリエルの翁」
そう言うと睨まれた。やっぱり年は取っているようだった。