水玉。

水玉。

「初めまして、俺はイザナギ=メーシー=ウォッチサウンド。ウリエルの父親だ」
そんなの一目で分かりますとも。
そう突っ込んでしまいたいのを軽く堪え、ラエは二人とそれぞれ握手を交わした。
「ウリエルに本当に似てるでしょう、この人」
「はい。吃驚しました」
まさかこんなに分かり易い超絶美形の親子がいたとは。
しかもこの二人はラエにはお構いなく、
「でも、ハニーにも似てるよ、俺たちの愛の結晶は」
「あら、嬉しいわ、ダーリン」
うふんあはんな聞いているだけでこちらが恥ずかしくなるような会話を交わす。正直言って鳥肌が立った。
前にウリエルが言っていた、愛情を押しつけてくる親、というより、目の前でいちゃついていてなんか恥ずかしい親、という形容が似合う。
そう言えば授業で父親の名前だけ習ったような。でも、用はメーシー=ウォッチサウンドという名を覚えていれば良いだけだったので、すぐ忘れてしまっていた。天魔伝説マニアのディルクなら話は別だろうが。
確か、貴族でありながら平民と恋をしたが、結婚を反対され、結婚するまで息子には実に二十年間会った事のなかった父親、と習ったような。
「まあでも、君ってやっぱりウリエルのお気に入りだな。
 あの自分の気の向くままに生きてるウリエルが、出会って少しの人にこんな強力な守護をかけるなんて。しかも自分の守護だと分かり難いように細かい細工までしてあるし。ま、俺のウリエルへの愛にかかれば一目瞭然だけど」
「分かるんですね。やっぱり」
人間でも誰の術か判別出来る人はいるけれど、そんな細工をされて気付くものは殆ど居ないだろう。親の愛か、天使の実力か。
昔繁栄していたと伝えられるだけの事はある。
「うん。で、ウリエルはどこ?」
「は?」
ウリエルがかけた術は分かるのに、その愛する息子の所在が分からない。
本末転倒のような気がした。



「はっくしゅ」
ウリエルは小さくくしゃみをすると、ふるふると顔を振った。
「親父が居る……」
ウリエルに父親がいる事を知らせた風の精霊がウリエルの横に降り立つ。青い髪に緑の瞳、鋭い美貌。
「知らせたんだから何かくれたって良いだろ」
「や。クシャミさせたので帳消し。別に良いでしょ、ヴェルトディール=ツァルツェイロ」
「その名で呼ぶな」
不快をあからさまに示す彼に、
「じゃ、その代わりご褒美無しね」
と言い捨ててウリエルは歩き出した。