水玉。

水玉。

風を切って、雲を突き抜け、眼下に広がるのは広大な森、街、川。
子供の頃、絵本で見た景色よりも、それは遙かにファンタスティックだった。
ラエはただただ、その移り変わる景色を眺めては時折声を上げるしかなかった。
まるで童心に返ったかのようなラエの様子を見つめ、ウリエルは愛おしそうに目を細める。
落ち着いてから、ラエはやっとその事に気が付いた。なんだか恥ずかしくなって、照れ隠しにウリエルに声をかける。
「凄いね、ウリエル」
「うん。俺も、久しぶりにやった」
「いつも飛んでたんじゃないの?」
「いつもは、もっと速く、下に真っ直ぐ」
そう答えて、ウリエルも景色を見回す。
「慣れていたから。ずっと、空を飛ぶのが当たり前だったから」
でも、ずいぶん変わった、と呟く。それに込められているのは、望郷の念か、懐古の念か。
本当に時の流れが違うのだと実感する。片や人間、片や四千歳は軽くいく大天使。まるでお伽話だが、現実の事だ。空を飛ぶ感覚も、ウリエルの心地良い雰囲気も。
まさかお伽話の大天使がまだ生きていて、花を栽培してごろごろまったりと過ごしているなんて、誰が思うだろうか。
そう思うと、何故か胸が苦しくなった。
「ねえ、他の大天使はどうなったの?」
胸の苦しさを振り払うようにウリエルに質問をすると、すぐ答えが返ってきた。
「生きてる。ただ、個性的すぎる」
「個性的?」
「ガブリエルは笑い声が『おーっほっほ』、ラファエルはそれを聞きながらニコニコしてて、しかも何か事件があれば二人して飛び付く」
ラエはブッと吹き出す。神話では描かれてはいない一面。個性的だった。
「慣れると、楽しい。多分、その内ラエの事を紫雲あたりから聞いて、来る」
「私って、そんなに珍しいの?」
ウリエルはラエの質問に、
「そうみたい」
少しふくれる。どうも、自分の傍にいるというだけでラエが珍しがられるのが気に入らないようだ。
「ねぇ、いつか、また飛んで貰っても良い?」
ラエが眼下の景色に見とれながら問うと、
「また、抱えて飛んでも良い?」
という答えが返ってきた。