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水玉。
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水玉。

翌朝、ウリエルとラエは早めに起きて、出発するイザナギとキャンベルを見送った。
キャンベルは昨日と違って冗談めかして、ウリエルを宜しく、とラエに言ってウリエルの背筋を波立たせた。
イザナギは滔々と巫山戯た事を言っては軽くウリエルと喧嘩した。
そして二人とも笑って「いってきます」と言い、ラエ達も「いってらっしゃい」と言った。
そうして彼らは旅立った。

 *

風が吹く。夏を駆け抜ける風。
春にこの家に初めて来て、そしていつの間にか季節は夏。
時が過ぎるのは早いものだとしみじみ思いながら、ラエは洗濯物を干していた。
隣には勿論ウリエルが寝そべっている。
ただいつもと違うのは、ウリエルが作業服姿で、軍手がウリエルの体の回りに放り投げられている事だった。
どうやらウリエルの直の手入れが必要な時だったらしい。
いつもは魔力で精霊と契約し、花を育てているウリエルだが、時々こんな時がある。
精霊達の手が足りなくなったり、ちょっとした力のつぎ込み具合が微妙な時など、理由は様々だ。
それを早起きのついでとばかりにかなりの早さで済まし、そしてラエの隣に寝そべって、ラエの顔をいつものように見ている。
もうあまり気にはしなくなっていたものの、昨日のキャンベルとの会話を思い出すと、どうも落ち着かない。
どうしてあの後、ウリエルの顔を見たいなどと思ったのか。
そう考えるのを押さえようとして手を動かしていると、洗濯物はあっという間にカゴから消え、物干し竿ではためいている。
カゴを持って見たものの、どうにも動きづらい。
ウリエルが起き上がって、ぽんぽんとそばの地面を叩く。
おとなしく従ってウリエルの隣に座ると、ウリエルはラエの髪をいじりだした。
「……ウリエル?」
「昨日、親父と喧嘩をせずまともに話した」
喧嘩をせずまともに。そんな事があるのか。いや、あるのだろう。親子なのだから。
「その後、……」
言葉に詰まったように黙り込み、ウリエルはラエの頬に指を這わせる。
そのままラエの方を向かせ、その顔をじっと見つめてきた。美しい顔に圧されてか、ラエは動けない。
もしかすると。ラエは思う。
もしかすると、ウリエルも同じ様な事を考えたのではないだろうか。なにかの話の後に、ラエの顔を見たい、と思ったのではないだろうか。
思い違いかも知れないけれど、そう考えると嬉しくなる。
きゅっとそのまま抱きしめられた。いつものように、別に変な感じもない。
「いい子」
ウリエルが、しみじみといった風に綺麗な声で囁く。
ラエも胸がいっぱいになって、思わず背に腕を回す。多分、ウリエルは自分の心の大部分を、いつの間にか占めてしまっているのだろう。
イェンが家の中からめざとくこれを見つけ、何やら叫んでいるようだったが、それも意識外に消える。
風が吹いた。夏を駆け抜ける風。ラエの髪を揺らし、ウリエルの髪を舞わせる、心地良い風が。

第二章:増える人々とウリエルの秘密。 完