水玉。
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水玉。

「ラエちゃんって働き者ねぇ」
ラエが朝早く起きて洗濯物を干していると、ウリエルがいつも言うのと同じ事を、キャンベルが目を擦りながら言ってきた。
ウリエルのそういう所は、どうも母親似らしい。
「そうでもないですよ」
そう言いながら洗濯物を機械的に干してゆく。この前から四人分な所為か、やはり量が多くなっている。
しかも最近はウリエルとイザナギの喧嘩に加速がついて、ちょっと糸のほつれも多い。
まあ、ラエがほつれを直しているといつの間にかウリエルもそれに加わっていたりするから、そう労力をかけないで済むのだが。
「ウリエルもいい子を見つけたわね」
そう言うキャンベルの言葉の意味を素直に考えていいものかどうか分からない。
いくら何でもラエだって、息子を持つ母親が言うセリフの意味がはかりかねないのは知っている。
恋人などともしかして勘違いされていやしないだろうか。
「私、ただの家政婦ですよ」
取り敢えず、手を動かしながらもどっちか確かめる事にした。
「ああ、そういう意味じゃないの。恋人とか、そんなんじゃなくて。
 本当に貴方は、いい人だから」
「……有り難うございます」
礼を言うと、いいのよ、と笑う。
「ウリエルをよろしくね」
そういわれてどう答えるべきか迷っていると、
「やっぱりいい子ね」
とまた微笑む。
最後の一枚を干して、キャンベルに向き合う。
「また、旅行に出るんですか?」
さっきから、僅かにキャンベルの声は震えていた。悲しみか、名残惜しさが滲んでいた。
それならどうして、旅行に出るのだろうか。
そんなラエの表情を読み取ったのだろう、キャンベルは静かに笑う。
「次がもう、最後の旅よ。世界を全て巡って、そして終わり。
 もう私達も年寄りだからね。あの山の下の町で暮らすわ」
「年寄りなんかじゃないですよ」
「年寄りなのよ。ゆっくりと十年ぐらい前から老い始めてるの。
 まあ……あなた達にとってはゆっくりしすぎている変化かも知れないけれど」
ゆっくりしすぎだ、確かに。けれどその一言がとても重い事のように思える。
「旅行から帰ったらここによって、そして新しい家を買う事にしてる」
その時は知らせるから。それに、そんなに間をあけずに立ち寄るかも知れないし。キャンベルは静かな笑いを浮かべたままそう言った。
その刹那、ラエは何故かむしょうにウリエルの顔が見たくなった。
どうしてなのか、分からなかったけれど。