水玉。
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水玉。

喧々囂々(けんけんごうごう) 侃々諤々(かんかんがくがく)
使い方は間違っているが、正にそんな感じの音の言葉が似合う言い争いが繰り広げられていた。
「大体、無償の愛だと!?
 てめえのは有償だろうが!」
主にウリエルから一方的に。
だが段々イザナギも拗ねてきたらしく、
「無償だもん! ウリエルの意地悪!」
ぷりぷりと軽めに怒り出す。が、多分巫山戯ているであろう事は誰の目にも明らかだ。
「十年も息子を放っておく親は意地悪じゃないってか!?」
「ぁあっ、それは言わない約束でしょー!?」
「んなもんしてねえ!」
しかしなんだかんだ言って、ウリエルが何を言っても全体的にのれんに腕押し。
しかし、兎に角全てがいつものウリエルからかけ離れていた。
そして、それが段々実感を伴ってラエの身に浸みていく。
つまり、早い話が、騙されていたのだろうか。いや、ウリエルのいつもの様子はとても自然で、嘘を付いているようには見えなかった。
嘘だったのか。そうで無かったのか。
でも、いつものように前向きに捉えて受け入れるのも、嫌だ。
ラエは、隠し事をされるのが嫌いだ。不快だ。それが、人の性格に関するものならば。
今のウリエルの言葉には訛りがある。どの時代にも共通の、下町の訛り。いつもの喋り方ではぜったに出てこない。矯正したのか何なのか。そんな事も、理屈ではなく不快だった。
昔からの事だった。どうしてかは分からないけれど、不意にこういう事がとてもむかつく。そうならないよう、前向きにと心がけてきたのに。
「ねぇ、ウリエル」
声を喉から絞り出す。
「何だよラエ……あっ」
しまった、と言うようにウリエルが口を押さえる。
「その喋り方どうしたの」
「いや、その……」
「家に帰ろうか…って言うか…」
息を吸い込む。
「帰ったらさっさと荷物まとめて、実家に帰らせて頂きます!」
まるで愛の修羅場の一言だった。実際、周りの人々は本気で勘違いした。