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水玉。

水玉。

ラエが食堂にはいると、何故か二人分の朝食を前に、ウリエルが朝食を食べていた。
一つはラエの分として、もう一つは誰の分なのだろう。
「今日、誰か来るの?」
この空に浮く、花に満ちた浮遊島に。
どうもこの島はウリエルの家の昔からの所有地らしい。しかしとうの昔に本宅のようになっていると言う。
大天使だからこその家の立地だった。どうもあの郵便受けが地上と繋がっているらしい。どう繋がっているのかは分からないが。
「ううん。起きるの。この家が」
ごくんと食事を飲み込んでウリエルがこともなげに言う。
「家が起きる?」
そう、と頷いてウリエルは床の一部を指した。
「と言うより、これが」
見ると、床の上で男とも女とも判然としない人物が伸びをした所だった。
いや、床の上ではない。体が床から出てきているのだ。まるで家の一部だったかのように。
茶色のジャケットにこれまた薄茶のスラックス、そこら辺に転がっている石のような灰色の髪に、鉄色の瞳。精悍な顔立ち。
ふわあ、と欠伸をしたその人物は茫洋とした瞳でラエの方を見、
一気に目を見開いて飛び起きた。
「何だ、これは!」
そう叫んだ声も高すぎず低すぎず、やはり男か女か判然としない。
なに、これ。ラエもうっかりそう言いそうになったが、すんでの所で出かかった言葉を押さえ込んだ。言ってしまっては失礼極まりない。
彼はラエの全身を矯めつ眇めつ見回し、そしてウリエルの方を向いた。
「ウリエル、どうしてここに家政婦をそのまま住まわせて居る」
「良い子だから」
ラエの為に椅子を引きながら即答するウリエル。ラエには嬉しい言葉だが、しかし、
「答えになっとらん」
確かにそうだ、と思いながらラエはその人物の正面に立つ。
「えっと、ラエ=リインです。よろしくお願いします」
何はともあれ挨拶するのが、人付き合いの基本だろう。この場合人というのか、分からないが。
「うむ、礼儀はなっとるな。我はイェン。イェン=ホール。見ての通り、齢を重ねたるが故に生まれた、この『家』の『心』。
 とは言うても、こいつより若いが」
ラエの態度に感心しながら、その人物は自己紹介をして挨拶に答える。ウリエルは少し天井を眺め、ぐるぐると首を回した。
「因みに、性別は無し。主が男とするなら男、女とするなら女と思って欲しい。冬から春まで眠り、夏と秋はここの家の掃除、炊事を担当して居った。なにせこの男、我が何もせねば、そのまま我を汚し続けるでな」
つまり、掃除をしないということか。少し微笑ましくなってクスリと笑うと、横でウリエルが所在なさげにする気配がした。それと同時にラエの腹が鳴る。
そう言えば朝食があった、と思いだしてイェンに礼をしてテーブルに着いた。
ウリエルはラエが帰ってきて以来、昼食を担当するようになった。朝は相変わらず遅く、でも時々早起きしてこうして朝食を作ってくれる。
イェンも当然といった様子でテーブルに近付き、
「む、今日の朝餉は鯵の干物に味噌汁か。野菜の漬物もあるとは、なかなかだな。この娘をかなり気に入っているのか」
紫雲と同じ様な事を言いながら席に着いた。
ラエにはよく分からない。確かに嫌われてはいないだろうと思うが、『かなり気に入っている』と言うのが分からないのだ。
「主には礼を言うぞ。いつもは起きがけというのにこの男、自分の飯だけ作って惚けて居るからの」
「晩ご飯はラエ」
いつも通り一見何も考えてなさそうな顔でウリエルが補足する。
「ほほう。では我も手伝おうぞ」
久しぶりに腕が鳴るの、と笑うイェンに、ラエは戸惑いつつも、曖昧に頷いた。