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水玉。
22
水玉。

山の中の、陽光の差し込む坂道を踏みしめると、舗装されていない道の音がした。
ここの所晴れで、乾いた土の感触が心地良い。運動靴も少し汚れただけだろう。荷物は明日に届く予定だ。
そして、目的の建物が見えてきた。
さくさくという土の音をかみしめながら近付いていくと、家の前にある郵便受けの他に、もう一つ郵便受けが取り付けられかけていた。まだ大きな釘が二、三本転がっていて、金槌も道具箱もある。
何だろう、と触りかけた時に屋敷のドアが開いた。
「あ、ラエ」
作業着を着たウリエルだった。手には軍手。どうやら一休みしていたらしい。
「ウリエル」
なんとも言えない気持ちが湧き上がってくる。およそ二週間ぶりだ。なんと言えばいいのだろう。
そう思って迷っていると、地面が揺れた。
「あ・・・もうきた」
ウリエルが急いで郵便受けの台に釘を打ち付ける。目にも止まらぬ早業で、あっという間に作業は済んだ。
「はい、ラエこっち」
荷物と共に玄関に近い方の郵便受けに引っ張られた。
え、と声を出した途端、またぐらぐらと揺れだして、しかも激しくなってゆく。
「ラエが来ないうちは押さえとこうかと思ったんだけど」
「押さえる?」
「この島が浮くのを」
聞き返す暇もなく、二つの郵便受けの間の地面が割れた。
といっても、まるで無理矢理重ねた粘土を剥がすようなもので、地盤が割れた、という感じではない。
思わず目をつぶりながら、ここはもしかして幾度も剥がれた事があるのではないか、と何となくラエは思う。
そして、揺れがぴたりと収まった。その代わり足元が変に揺れているような、下から持ち上げられているような感覚がラエを襲った。
「もう大丈夫」
ウリエルに囁かれておそるおそる目を開ける。
景色が前と違って見えた。地面が割れているとかではなく、ラエの身長が伸びたかのようだった。
いつもより視点が高い。まるで地面が浮き上がったかのように。
そう思って下を見ると、本当に地面が浮いていた。しかも段々高度が上がっている。
「浮いてる!?」
「うん。浮遊島だから」
幻に近い島、浮遊島。あってもおかしくはないらしいが、今のところ伝説の中だ。驚きに目を見開くラエを、ウリエルが後ろから抱きしめた。前と同じように、心地良い。そして懐かしい。疑問や驚きが一瞬にして霞と化した。
「改めて、ようこそ、我が家へ」
バリトンの心なしか弾んだ声で囁かれる。それが、頭を撫でられた時のようにくすぐったかった。
ウリエルの顔に振り向く。相変わらず、何を考えているか分からない瞳。けれども晴れ渡った青空を背景に見たウリエルの顔は、ラエが今まで見た中で最高の笑顔だった。
(そうだ、戻ってきたんだ)
途端に、また色々なものがこみ上げる。なんと言えばいいか、今度はウリエルが先に言ってくれたから分かる。
春と夏の間の風が吹く中、ラエは笑って言った。
「これからも、よろしく!」


第一章:ようこそ。 完