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水玉。

水玉。

昔の事は、昔の事。
もう、終わって、しまった、事、なのに。

***

『この花は、花喰い花だ。
 花を喰う花、花喰い花。
 哀れな花だね、ラウル。
 他の花を喰わねばならない。
 決して、自然に受け入れられることはないだろうよ』

『レイチェ。やっと造った花を、何て言い草だ』

『何のために。
 戦いの為だろう?』

――あ、揺れた。

『……いいや、別のことにだって。
 喰うモノを変えれば、どうにかなるさ』

――色が混ざった。これとこれのエキスは……おお!

『……間違っているよ』

『……ああ…』

――なんか重い話してるー。やーいやーい。

『『……うるさい!!』』

――うん。そんな感じで。そういう事は、答えが有って、無い事だから。
――それに、ラウルは『分かっている』でしょ?

『………まったくお前は、なあ……』


窓から、月の光。
ウリエルはそれを眺めながら、上体だけを起こした。シーツは少し乱れているだけ。
懐かしい夢を見た。昔。ずっと昔の夢。
けれど、あの後、顔をくしゃくしゃにして笑っていた二人はもういない。
その後、敵味方に分かれるなんていう非常に嫌な事態に遭遇したりはしたが、どうにかあの戦争は生き延びた。
けれど、純天使や純悪魔が人と暮らすようになった後に、数度流行った疫病で、酷くあっさりと、死んだ。
今、純血で生き残っているのは、百いるかいないか。
種としての存続は、人間との混血がかなりいるので成功しているとは思う。
それでもいいと思う。人間だって、天使や悪魔と同じだ、ウリエルはそう思っている。
けれど。
顔を触る。すべすべした肌。皺は無い。
長い年月を生き抜いてきたというのに、皺は無い。
ラウルとレイチェは、あんな風に言い争っていたにもかかわらず、お互いとても好き合って結婚した。
子供もいた。孫もいた。人にとけていった彼らの血脈の行く末を、ウリエルは知らない。
ただ、花が残った。
『FEF-5-302』から、レイチェによって『花喰い花』となった花が。
その花が、あの空を飛ぶサカナたちの好物になるまでの時間を、ウリエルは生きた。
ラウルとレイチェとだって、親と子ほど年齢が離れていたのに、未だにウリエルの体は老いを知らない。
ウリエルの世代から、段々と、純天使の、ただでさえ人間に比べれば長かった寿命はのびていったからだろうか。それでも病で無数に死んでいってしまったけれど。
その世代の者達だって死んでいっているのに、ウリエルはまだ若い容姿を保ったままだ。精神だって、どちらかといわれれば若い。
それを考えると、何ともいえない気持ちになる。心のヒダに立つさざ波。
間違っても、後を追いたいなんて思わない。死にたくなる事は決してない。だから、そういった類のものではないというのは分かる。
飽きたというわけでもない。世界は、空は広い。気が向いたとき、短い旅に出て、後は空を眺め、花を育てる。その生活に飽きる事はない。
最近はラエも居る。彼女はいい子だ。はっきり言ってウリエルは彼女に惚れている。
なら、この気持ちは何か。
多分いろいろだろう。死者を悼む。懐かしく、寂しく、悲しく思う。自らが若い事を、いろいろな意味で不思議に思う気持ち。何ともいえない感情。それらがないまぜになったもの。
「………ケイ。ラウル。レイチェ。ダレン。フォル。ばあちゃん………」
何となく、つぶやいてみる。
(いろんな人を見送ったなあ)
ベッドから出て、空を見上げる。
紺と黒の間の色の空に、下弦の月が綺麗に映えていた。