結局、人生は、図太くいって楽しんだっていいものだ。
そこに『悩み』というスパイスが程よく入っていても、別にいい。
* * *
ラエが食堂にはいると、知らない男が挨拶してきた。
「どうも。お邪魔してます」
にっこりと笑いかけてきながら、握手を求めてくる、ラエとは初対面のユダ。
それに少し戸惑いながらも、ラエはその手を握って握手する。
ユダの手は奇妙に冷たい。
それに、妙な感覚がした。
「……『守護の手袋』」
守りの魔法だ。よく冒険者達が使う。
いつも人を警戒している者の術。
「ああ。すみません」
す、と奇妙な感覚はなくなり、人の手のひらの感触がした。
けれど、まだ冷たい。
「ユダ=ラッハです。よろしく」
そう言ってにこりと笑う掌の主に、
「……ラエ=リインです。よろしく」
ラエも笑い返す。
少し顔が引きつっているのが、自分にもよく分かった。
大体、ユダ、といえば。
「……ユダ。お前、まだそのクセ直してなかったのか」
先に食卓に座っていたウリエルが、呆れたようにため息をつく。
「悪いね。昔の事で、色々」
ユダがウリエルの方を振り向く。なんとなく、笑っているような気がした。
「ユダ。久し振りだな」
イェンが食堂の床から現れ、ユダに挨拶する。
「ラエ。警戒せずとも良い。
彼奴は他の者より倍程無駄に重い事情があるだけだ」
「無駄にって……。酷いなあ」
ユダの苦笑する音が、食堂に響いた。
「……で。ウリエル、これ……何?」
皿の上に乗っている料理を見るなり、ラエは戸惑った声を上げた。
イェンはなれた様子でそれを早速切り分けているが、ユダも驚きの色を隠せない。
「魚のムニエル」
あっさりとウリエルが答えるが、ラエが聞いているのはそういう事ではない。
「……これ、『花喰い花』食べてた魚じゃあ」
「うん」
いつの間にか『口数が少ない方に戻った』らしいウリエルが、こくりと頷く。
先程まで生きていたサカナ。花をもの凄い勢いで頬張っていたサカナ。
それが、容赦無くムニエルにされている。
普通の神経で、そんな事が出来るだろうか。
(多分、ウリエルにとっての『普通』はこれなのね……)
ユダがため息をつく。
それを見て、イェンが吹き出す。
ウリエルは不思議そうに三人を眺めている。
その表情を見て、ラエも少しだけ、笑ってしまう。
食物連鎖の果てに得られたサカナのムニエルは、見事なまでに美味だった。