この花を醜いだなんて思えない。
だって、それよりもっと醜いものを知っているから。
*
花喰い花。確かに驚いたし、気持ち悪くもあったが、結構想定の範囲内だった。
だから、他に興味をかき立てられた事を思い切って聞いてみたのに、どうしてウリエルに拍子抜けしたような、安心したような、それでいて珍しい物でも見るような目を向けられねばならないのか。
「……何? ウリエル」
その奇妙な視線に若干苛つきつつ、ウリエルの視線の意味を問う。
「あ、ああ、いや……。
なんか、拍子抜けっつうか。
客観的に見てこの花、花を喰うとこだけはグロテスクだろ」
どうも動揺のあまり、口数が多い方へ移行したらしい。
基準はよく分からないが、口数が少ない時、ウリエルは激しい怒りや動揺によってそうなってしまうようだった。
「そう?」
考えていたよりはグロテスクでなかったと思う。
けれど、それで思い出してしまった事が、ある。
だが、それを悟られるのは避けたい事だ。
だからラエは平静を装ってなんでもない振りをする。
思い出したくもない忌まわしい思い出を誤魔化しながら、血の気が引いてゆくのをどうにかしようと努力しながら。
「……花は、栄養には一応なるらしい。でも、強引に『喰う』品種にしただけらしい。
虫は食べない」
そう説明する間に、ウリエルの声はだんだんと落ちついてゆく。
「なあ、ラエ。
顔が白いぞ」
その言葉が聞こえた途端、ラエを激しい動揺が襲った。
「もしかして、元々から体調が悪かったのか?
ごめん、気付かないで」
ウリエルが心配そうにラエの頭を撫でる。
とても温かい手の平に、今まで感じていた動揺も、不快感もが静まってゆく。
始めて頭を撫でて貰った時からずっと、安心できる手のひらだった。
「ううん。大丈夫」
「そう?」
血色が戻ったのか、ウリエルはそれ以上追求せず、ただぽんぽんと、表情は豊かになっている筈なのに読み取りにくい表情でラエの頭に触れ、
「お前は、本当に……」
そのまま慈しむような表情で笑いかける。
何を考えているのか、よく分からない。
でも多分、この表情に類する事なのだろうとラエは思う。
ウリエルは一旦一呼吸あけて、
「いいこ」
そう言ってラエを抱きしめる。
それがなんだか、ラエはとてもくすぐったかった。
その瞬間、頭の中をまた思い出したくないモノがかすめる。
どうして『花喰い花』を見ても動揺しなかったのか、答えはとうに分かっている。
『あの花』が、それよりもっと嫌悪をかき立てられるものだから、だ。