水玉。

水玉。

歪んだ六角形の花びらと、葉っぱ。
あれを見る度、言葉に出ない思いがつのる。

*

ウリエルは庭の一角にある、既に時期遅れでしぼみ始める寸前の花々を摘み取ると、歪んだ六角形の花と葉を持つ、例の花々の傍に立った。
盛りを過ぎた花々が、ウリエルの両手一杯にある。
ウリエルの脳裏を、共食い、という言葉がかすめた。
けれどそれが、この花の性質だ。
「あ、ウリエル」
洗濯物を干しに行く途中である様子のラエが、洗濯物を入れたカゴを持って現れ、ウリエルの横に立った。
「どうしたの? 満開の花ばかり持って」
「……この、『花喰い花』に食べさせる」
一瞬逡巡して告げた言葉に、ラエが目を見開く。
スッと静かに腕を前へ上げ、花々を一気に投げ上げる。
しゅるり、と例の花々の六角形の葉が変色して泥色に、変形してツタ状に長くなった。
そのままツタは投げ上げられた花に近付く。すると、その花も溶け出すように液状となり、小さな渦を巻いた棒状になってツタに近付く。
そしてそのまま、ツタとその液が接触し、元々花であったそれは葉のツタに吸い込まれるようになくなった。
くわっと葉が獣のあごのようになって直接花をむさぼるという、非情にグロテスクな花も中にはあり、しかもその上喰われる花の汁が、びちびちと音を立てて垂れているのが更に気持ち悪かった。
ウリエルはもう慣れてしまっているから、あまり何も思わない。
というより、何も思わないようにしている。
そしてそのまま、花は全て『喰わ』れてしまった。
「……え?」
「花を喰うから『花喰い花』。
 昔、俺の友達が天魔大戦中に作った花。
 定期的に花を喰わなければ、枯れてしまう」
出来るだけ心を落ち着けながら、そう告げる。
この花は共食いの花だ。
今の光景だって、花の溶け出した液体はまるで汚物のような色のもあったし、そのままむさぼる花などエグイ事この上ない。
何をラエは言うのだろう。この花にも愛着はある。酷い事を言われるのは辛かった。
シン、と辺りが静まりかえる。
ラエがゆっくりと口を開く。

「……虫は食べないの? しかも栄養になるの? あれ」

ウリエルの足から、思わず力が抜けそうになった。