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水玉。
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水玉。

「じゃあ、三つに分かれてラングレン氏の言う、術の行われている『小屋』がある所に行こう。
 湖からみて東はレコンとヨルムンガルド、西は私とラエさん、北はクリシュナー氏とラングレン氏だ。
 人々は祭壇のある湖の南のほとりに集まるというから、それを避けてゆこう。いいね?」
皆で集まった路地の奥、ルクスがラングレンから渡された『空の湖』の地図を広げ、皆に指示する。
「いや。俺はラーマの方で」
しかしヨルムンガルドは首を振り、ラーマの隣へと移動した。
「何故だい?」
「ウォルアの奴が固まってるのはちょっと無駄だ。特に俺とレコンは力が強いから、一つに固めるのは効率が良くない」
「……なるほど、それでは私はブラック氏について行きましょう」
ヨルムンガルドの言葉にうなずき、ラングレンがレコンの隣に移動する。
「なにが『なるほど』なのさ。ウォルア大陸出身ってことに何か意味があるのかい?」
「多分な。『力』を持ってるだけならウリエルの動かしやすい天使か悪魔数名を呼べばいい。
 だというのにわざわざレコンを指定してウリエルが呼び寄せたのだから、おそらくウォルア関連で何かある」
「だからとりあえず三つの『小屋』に散らして、ウォルア出身の者が対処しやすいようにするってことかい」
「そうだな」
「………」
おそらくもう一人ウォルア出身がいるんだけどね、という言葉を飲み込み、ルクスは、分かった、と頷いた。

* * *

「……妙な雰囲気ですね、ヨルムンガルド」
「そうだな、ラーマ。まあでも仕方無いんじゃね? 何せ紅二点が固まっちまったからなあ」
男二人は微妙だよなあほんと、などと会話を交わしつつ、ラーマとヨルムンガルドは歩を進めていた。
「しかし何があるんだろうな。経験則でいくと、本気でろくでもないものを見る羽目になりそうだが」
「そうですね。しかし、一番記憶に新しい、『邪神』ロキのやらかしたアレやコレやよりはましだと思います」
「……不肖の親父で悪かったね」
ヨルムンガルドはため息をつきつつ肩をすくめる。性格・嗜好共に破滅的な、災厄の種以外のなにものでもないロキであるが、彼がヨルムンガルドの父親である事はどうしようもない。ついでに憂鬱な事に、ロキが何か引き起こす度に息子としてヨルムンガルドがロキの封印などの対策を講じて奔走しなければならない事もどうしようもない。
「いえ、すみません。貴方はいつも上手くやってるから今回も大丈夫、という意味で言ったのですが」
きき、とラーマの肩のハヌマーンが鳴いて、ラーマの頭にのり、その髪をぽんぽんと叩く。
それを見て、ふ、とヨルムンガルドは頬を緩め、
「ところでそいつ、喋らないわけ? 確か三百年ぐらい前会ったときはすっげえ煩かったぞ」
「……これはそれの息子です。先代はすっかりボケて、妹たちに世話されてる」
「……あー、えっと、それは、」
「……あいつは、それなりに幸せだと思う。少なくとも、妙な儀式を行ってまでこんな音色を聞かせる輩よりは」
「そっか」
寿命がラーマより遥かに長いヨルムンガルドを横にして、そんなセリフを言うラーマ。
多分、これが『まとも』というやつなのだろう。ここの空気を変にしている者達の知らない、『まとも』。
ヨルムンガルドは若々しさを装った、熟練のものが奏でる笛の音を聞きながら、少しの間目を瞑る。
「ああ、何と老いた笛の音であることか、……なんてな」
「かっこつけた事言ってないで、急ぎますよ」
ラーマの呆れた声と、同時に響くハヌマーンの鳴き声に、目を開けてヨルムンガルドは苦笑する。

……最初に過疎化の話が出た時、ラーマが言った。

『おいおい。なんだそりゃあ。過疎化ってさあ、そんな事ねえよ。ほんの二百五十年前に来た時も凄いにぎわいだったぞ』

……その後の会話の中で、交わした言葉は確か、こう。

『ああ、ここの民族衣装の事か。
 民族衣装ぐらい、その民族でなくても着る。
 ウォルアにだって似たような服を着る民族が腐る程いるしな』
『『でも違うってェ』』

……確かに告げた、この事態を否定する言葉。

自覚はないだけで、自分たちの中にも、そういう恐れがあったのだろう。
そう、ヨルムンガルドは思う。
老いていくこと。悠久の時の中で朽ちてゆくこと。それに対する、恐れが、自分たちの中にも僅かながらあったのだ。
だから、レコン達の言葉を否定するようなことを、言った。
(……それでも)
同じ穴の狢にはならないさ。
そうヨルムンガルドは心の中で呟き、ラーマたちの後を追う。