水玉。
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水玉。

「……そう、ラエ達は気付いたの」
『おうよ。多分これから動き出すだろうよ』
ウェルトディール=ツァルツェイロと話しながら、ウリエルはオーリスの後を歩いていた。
音響結界を張ってあるので、風の精霊との会話はウリエルとウェルトディールの耳にしか入らない。
「ところで、ユダは?」
『見つけたよ。なんか暗い感じで歩いててさ。声かけて、ウリエルが呼んでる、って言ったけど……聞こえてんだか聞こえてないんだか。
 またマリアの事でも思い出して落ち込んでるんだろ。
 とりあえず部下に見張らせてる』
「……ん。分かった」
『……ウリエルも大変だなあ。色々巻き込まれちまって。
 みんなさあ、あんたが一番年上だから頼ってくるけど、あんたが一番年取ってるのに気付かねえんだよな。
 いつまでも老いない若い、年は一番経ているのに思考は若者のまんまだ、ってずっと寄りかかる』
「……俺は若いよ」
『そういうんじゃなくって……』
「年長者のつとめだよ、これも。俺が爺さん方や婆さん方にやってもらったのと同じ」
『……本当に? お前の生い立ちからしてそれは――』
「ウェルトディール=ヴァイルザン=ツァルツェイロ」
暗にその先を制する、本名を呼ぶ低くて厳しい声。
それに恐れをなしたのか、風の精霊からの言葉はない。
「……とにかくここから正念場だ。
 何か、変な気配もするしね……」
応答の声が返る前に、
「……おい、ウリエル『様』。なに黙ってるんだ?」
結界の外からオーリスの声が飛び込んできた。
オーリスが振り向き、その相貌を訝しげに細めている。
「別に。大したことない」
そう答えつつ結界を解除した、その時だった。
「なにか用? ウリエル=メーシー=ウォッチサウンド。
 俺はただ純粋に遊びに来ただけなのだけれどね」
「……ユダ」
ウリエルの正面、しかめっ面のオーリスの横に、ユダがいた。