水玉。
21
水玉。

ルクスが自分の方を鋭く見つめている気配がして、ラエはヨルムンガルドを見ていた顔をルクスに向けた。
「ルクスさん? どうかしたんですか?」
「ああ、いや。
 ……済まないね。大天使ウリエルがレコンに引率を頼んだ、と聞いているものだから、好奇心が湧いてしまって」
藍色の瞳を歪め、本当にすまないと思っている事が見て取れる顔で、ルクスが謝罪する。
「いえ、いいですよ。二度ぐらい同じような事を言われましたし」
なんだ、怪しまれて観察されていたわけではなかったのか。
騎士だと言うだけでそんな風に勘違いしてしまった理由を内心恥じる。
でも、やっぱり見られるのは嫌いだ。
侮蔑が混じった好奇心。人を見ていない無機質な視線。そんなものが脳裏に蘇ってきて、全てを拒んで座り込みたい気分になる。
そう思うと、更に思い出してしまって、目の前が一瞬真っ暗になって、目眩がして、倒れかけそうになる。
とっさに体勢を整え、体の平衡を取り戻す。
「大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です」
そう答えて、笑顔を作る。
笑っていないと、まだ震えている、足や腕の振動が、顔にきそうで恐かった。
と、視界の端に小さな光が暗闇の中、上っていくのが見える。
轟音とともに赤い光が夜空に広がり、ラエの視界が一瞬赤だけで占められる。
「月浮祭、始まりか……」
ヨルムンガルドが空を見上げて呟く。
それから続けて二、三発、色とりどりの小規模な花火が打ち上げられ、夜空に映える。
「へえ、なかなか良いねえ」
ルクスが声を上げる。
夜空に散る、青、赤、緑。
この光景を、ウリエルも見ているのだろうか。
(どうして一緒に回ってくれなかったのかな)
仕事があるようだったけれど、終われば一緒に楽しんでくれるだろうか。
まわりの色が一気に霞んだ気がする。
なんだか変だ。
夜空は綺麗で、澄み渡っていて。
なのに、それが余計に、胸の何かを変にする。
寂しくて、切なくなる。
(……駄目だ)
首を振る。
駄目だ。もっと前向きに考えなければ。
ウリエルは優しくていい人だ。そばにいると、なんだかとても良い気分になる。
それだけで大丈夫だ。
別に祭りを一緒に楽しんでくれなくても良い。
仕事が終わった後、どうするかはウリエルの気分次第なのだから。
それだけ考えるのに、ちょっとした時間が経ってしまったらしい。
花火の後の煙が、雲のように広がっている。
夜空に咲いた大輪の花は、もう消えてしまっていた。