水玉。

水玉。

ラエが座った席の前に、カップが置かれ、ウリエルの手のティーポットからお茶が注がれる。
芳醇に美しい、すっとした香りがあたりに広がった。
「これ……ハーブティー?」
家に入るなり、ラエに食堂で待つように言って、自分は台所に引っ込んでしまったウリエルが作ってきたお茶。
その色は普通のハーブティーの茶色。けれど香りはかいだ事がない。
「うん。さっきの、『空の薔薇』の葉っぱと花を使ったハーブティー」
ウリエル自分のティーカップにもそのお茶を注ぎ込む。
ラエが口を付けてみると、その味もまた変わったもので、けれど決して不味くはない。
スッとするような、苦いようで甘いような、明るい…そう、明るいような。
「明るい味。晴れてる味」
思い浮かんだ事を告げると、ウリエルが目を丸くした。
「それは良い天気の日に摘んだ花のやつ。ラエ、凄い」
「てことは、もしかして……このお茶の味、花を摘んだ日の天気で変わるの?」
「うん。だから、曇りの時は曇りの味、雨の時は雨の味。
 全部、美味しい。曇りは不味い、とか、雨はいらいら、っていうのはない。
 それを考えるのは、気分で感性が変わる人間とか、俺達みたいなのだから」
「……ふうん」
「今は丁度ストックがないけど、今度出来たら一緒に飲もう」
ウリエルも自分の方を飲み干す。
「同じ晴れた日でも、微妙に味は違う。この茶葉はこの茶葉だけ。
 空みたいに。だから、『空の薔薇』」
愛おしそうに細められたウリエルの瞳。それが、遠い空を眺めている気がする。
昔、天にあったという大陸。
空を飛んでいた、今はもうごく少なくなってしまった、純血の天使や悪魔。
それを懐かしんでいるのだろうかと思ったが、それとは違うのではないか。
未来を、過去を、現在を。もうウリエルは受け入れている。
長い長い年月、色々な物や、空を見てきたその瞳。
その藍色の瞳に、自分は映る事が出来ているだろうか。
こくり、ともう一口お茶を飲む。

青空の味がした。