「お似合いですよー」
店員がラエに声をかける。
(本気でお似合い……)
ウリエルはラエの姿を見て感心する。
前のワンピースよりも、かなり良い緑の生地に、少し派手になったレモン色を基調とした刺繍と、スカートの裾にも良い場所にきっちりと縫い込まれた模様。
それがラエの薄めの茶髪と、銅のような茶色の瞳に似合っている。勿論、守りの呪紋つきだ。
店員の目はかなり正しいようだ。そもそも、そうでなければ、元々ウリエルのお気に入りの店にはならないのだが、それでもセンスが良い。
「ラエ、それにする?」
そう聞くと、ラエは少し迷うように目を宙にさまよわせる。
「……お代は……」
おそらく給料で足りるかどうかの計算を必死でしているのだろう。
給料などあってないようなものだ。
ラエとウリエルの暮らしのためのお金は、殆ど家計と一緒。
ラエの個人的な本の購入費などの費用は、言われる度に渡すという制度に、なんとなくなっているが、それは微々たるものだ。
稼ぎの半分はラエのものと決めている。当然、足りる。
「……ラエ。欲しい?」
そう言ってみると、
「欲しいけど」
という答えが返ってきた。
「じゃあ買お。俺が払う」
そう言って財布を出し、カウンターまで行こうとすると、
「では一万ゴールド(1ゴールド=1α=10円)です」
なじみの店長がウリエルに手を差し出していた。
「……カウンター出ていいの」
「いいの。客はいないし」
「不景気?」
「うちは質重視なのよ。まあしかし、貢がせてばっかで、少ししか女にプレゼ……」
一昨日のイェンと同じように、ウリエルは店長の口を塞ぐ羽目になった。
それをラエが不思議そうに見つめる。
今回は魔法でそれが見えないように錯覚させてはいるが、一応ラエも魔法を使うし、不審には思っているようだし。
(後、何度通用するか……。
ああ、三千年前の事とはいえ、調子に乗って遊ぶんじゃなかった……)
若気の至りを、今になって反省する若い年寄りがそこにいた。