水玉。
水玉。

よく煮込まれた魚に、茶色いとろりとしたソース。
ほっかほかと湯気を立てるライス。
少し透明なコーンスープがカップに入れられ、ライスと一緒にこれまたほっかほかと湯気を立てていた。
「美味しそう」
ラエが感心して言うと、紫雲が
「ま、伊達に一人暮らししてたわけじゃないですし」
となんでもないように言ってウリエルの前と自分の席に同じメニューを置いていく。
「『してた』?」
そのラエの問いに、何か遠くを見るような、虚しいような顔をして、フッと紫雲はため息をつく。
「なんかね、とある女の子が学校の休みのたびに嵐のようにやってきてアタックしまくって、しうりんに散々いろんなことしでかして、そんで帰ってくんだって」
ウリエルが幸せそうに目の前の食事を眺めて説明する。
「いい加減にしうりんって言うのやめて下さい……」
どうやらその子の事を考えるだけでろくに答える気力もなくなるらしい。さっきのため息も多分そうだったのだろう。
そして紫雲は自分の席に座り、
「いただきます」
と手を合わせた。
「まあでも、付き合う事になっちゃったんですけどね」
魚を切って自分の口に入れながら物憂げに言う。
「しうくんって呼ぶんですよ、彼女の方は」
呼び方が似ているから、思い出すのだ、という。
「へえ」
まるでヒスイのようだ。
ラエは一瞬、幼なじみの少女を思い出す。
それくらい彼女ならやりそうだ。
何処にも同じ様な子はいるんだな。
「でもちょっと不安だから相談にきたんです、実を言うと」
「ああ、そうですよね。私の友達にもそんな子いるけど、確かに不安になりますよね」
元気で明るすぎて、なんか色々な事を起こしてしまわないかと。
一歩間違えば取り返しのつかない事になっていたかもしれないのに、昔、知らないおじさんについていって何故か自首させてしまったヒスイの事を思い出す。
「いや、・・・」
紫雲は少し言葉を切り、自嘲気味の笑みを浮かべ、
「そういう事じゃないんです」
と今度は表情を少し硬くして続ける。
「ま、しうりんにはしうりんの問題って事で」
はむはむと規則正しく口を動かしながら、口に食物が入ってるにしては何故かはっきりした声でウリエル。
そんな感じで夕食は進んだ。とても美味しかった。
夕食の後始末を嫌な素振りも見せずに紫雲は一人でやって、そして翌朝帰っていった。