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水玉。
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水玉。

眩さと、青みと不思議な暖かみを帯びた光が箱から放たれた。
思わず目をつぶりかけたラエの耳に、それと同時に不思議な音楽が流れる。金属で奏でられている、昔聴いた時は悲しげに思えたのに、可愛く心地よいリズムで流れる聞き覚えのある曲。
トネリコの箱からだった。
「『トロイメライ』」
隣でヒスイが呟く。ラエは、よく知っていたな、と心のどこかでふと思う。
その曲が流れていくにつれ、光が収まり、ついにはトネリコの箱の中で不思議な紋様を描いて消えた。
箱を覗き込むと、その紋様と同じものが箱の底にも刻まれている。虹色の羽根に、青い布が巻き付いたような紋章。
そこに一枚、青く輝く純白の羽根が舞い降りてきた。
「え?」
空を見上げると、同じ様な、青い光を帯びた、美しい羽根が何十枚も舞っている。日光に照らされ、それがますます輝く。
誰も何も言わなかった。言っても、多分ラエには聞こえなかったろう。
晴れた空からの光。爽やかな春の風。煌めく植物。蒼く輝く純白の羽根。オルゴールから流れる曲。
綺麗だった。景色も、体の五感で感じる何もかも。
羽根はラエを中心に、地面の寸前で円を描くようにして舞い落ち、曲と共に消えた。
ただ一枚、トネリコの箱に羽根が落ちて残り、神秘的な青い光を放っていた。
「凄いじゃないか、これ」
ディルクとクリスが、目で断りを入れて興奮した面持ちで箱を覗き込む。ラエは何となく羽根を除けてみた。紋様がその下から姿を現す。
二人が息をのんだ。
「なんです? これ」
あっけらかんとクリス。
「分かんない」
ラエも先程の光景を思い出しながら、首を傾げる。
「お前らホントに歴史の勉強したのか?」
「ディルクとは違ってそんな詳しい特別授業選択してませんから」
「これはあの大天使ウリエルの紋章だよ。虹色の羽根に、その羽根の輝きを表す青の布。間違いない。
 ラエの雇い主さんって、同姓同名だったんだろ。なら、それを洒落たんじゃないか」
呆れたようにため息をつきながらディルクが言う。
大天使ウリエルの紋章。
それを聞いた途端、ラエの心の中に出来ていたわだかまりが、すとんと穴に落ちるように消えた。
同姓同名ではない。ましてや洒落たのではない。これはウリエルの身分証明だ。
どうしてこういうのに詳しいディルクが分からないのか知らないけれど、ラエが今握っている羽根は到底、天使と人の混血である天使族のものではあり得ない。ラエが今まで見たそういう羽根よりも明らかに輝きが違うのだ。
透き通った、不思議と安らぎを与えてくれる神秘的な光。明らかにもう滅んだ幻の種族、純血の天使の羽根だった。
籠められている力はそれにしても尋常ではない。明らかに上級の天使のものだ。
花をあれだけ育てていても平気で行動しているわけも分かった。魔力が人よりも、エルフよりも、桁外れに違うからだ。
彼は、大天使ウリエルその人なのだから。