水玉。
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水玉。

家に帰ってからはとても忙しかった。
まず埃の溜まっていた自分の部屋を掃除し、卒業のための服を選び、幼なじみの三人が押し寄せてきた相手をし、行かなかった登校日のプリントを整理し、今度は普段着にあの珍妙な服を着せようとしてきた両親をウリエルをダシに脅かし、あげればきりがないが、色々な雑事に追われ、春休みが終わってしまった。
ウリエルの家のゆっくりとしたペースになれてしまった事もあって、本当にあっという間だった。
そして、卒業式はまあ普通に終わった。ウリエルの家を離れるとき程切なくはなく、むしろ退屈なくらいだった。

卒業式の後の教職員の方々との話も終わり、帰路につく前に、ラエは下駄箱から門の間にある広場で、結局まだ開けていない箱をカバンの中から取り出した。
「ラエ、それ何?」
幼なじみのヒスイ=フライツアーキルが右から首を傾げて聞いてくる。
翡翠色の瞳と髪の、皆が認める仕草も顔も可愛い少女で、昔からそれは変わる事はない。ただ、休みの間に何かあったのか、少し色々な仕草が女らしくなっている様な気がラエにはする。
「前に話した、家政婦やってた所の雇い主さんがくれたの」
開けよう開けようと思って、ずっと開けていないと言うと、
「開けてみなよ。私も中身、見たいよ」
そう言って急かす。
「何だろうな。ラエの話を聞く限り、悪い人じゃなさそうだし」
左からこれまた幼なじみのディルク=トールが言う。
「でも、ちょっとどっかで見た事ある様な気がするんだよ。それこそ天使の資料かなんかで」
「でましたね、ディルクの伝説談義」
ディルクの隣で幼なじみの三人目、クリス=キリストルが囃し立てた。
ディルクの古代の伝説好きはそれなりに有名だった。
それが高じて古の遺跡のある本場、エルクルの研究職に就職も決まってしまった程であるから尚更だ。
そんな横の二人の話を聞きながら、ラエはトネリコの箱の蓋を開けた。
蓋の開いた所から眩い、青みを帯びた光が広がってゆく。
辺りが光に包まれた。