水玉。
16
水玉。

少し冷たい風が吹く。
「もうすぐ、雨」
そう言ってウリエルはラエの頭に置いていた手を離して、干したばかりの洗濯物の中のウリエルのTシャツを掴み、一瞬で乾かすと、そのまま取り入れ始める。
「ぁ、ありがとう」
そう言いながらもラエも洗濯物を取り入れ始める。
「・・・ねえ」
「ん?」
ウリエルの声に、ラエが顔を上げると、ウリエルの顔が目の前にあった。
端正な顔が目の前にあって、ラエはなんだか固まってしまう。
「もし気が向いたら、またここに来ればいい」
朱色の唇が動いてそれだけ告げると、ウリエルは取り入れ終わった洗濯カゴを持ち上げて屋敷へもどって行く。
「待ってよ、ウリエル」
ラエがそう言えば、花畑の入り口で立ち止まって待っていてくれる。
それに追いついて、そのままウリエルを前にして二人で家まで花畑の中の小道を歩いてゆく。
ラエは、頭の中でさっきの言葉を反芻した。新鮮な考えだった。
そうだ。またここに来ればいい。どうしてそう思わなかったんだろう。思いもつかなかったんだろう。
そう思えば、胸につっかえていた何かがとれて、身も心も軽くなったような気がする。
「ウリエル」
「ん?」
「また、ここに来るからね」
ウリエルの顔は見えない。しかし、
「うん」
と答えるウリエルの声が、気のせいか嬉しそうに聞こえる。
風が吹き、花の香りが漂う。
空は曇ってきて、今にも雨が降りそうなのに、ラエは青空の下にいるような気がした。



「………」
夕飯の匂いがドアの外から漂ってくる。
ウリエルはベッドの上でほうっと安堵したようにため息をついた。
「また、来る、か」
それからクスリと笑う。
「やっぱり重い空気はめんどくさい」
そして改めて夕飯の匂いをかぎ、
「……二日もクリームソーススパゲティ。胃にもたれそう」
と、さらに微笑をたたえながら幸せそうに呟いた。