水玉。
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水玉。

風になびく花。みずみずしい草。
そこでラエは鼻歌を歌いながら、洗濯物を干していた。
勿論、着ているのは昨日のワンピース。今朝、ウリエルは似合っていると言ってくれた。
横にはウリエルが寝そべっていて、時々ラエを見ては、気持ちよさそうにのびをする。
やっぱり、これがいい。一人で洗濯物を干したりするのはとても虚しいし、何となくウリエルがいるとその場の空気が和む様な、不思議に心地よい感じがするし。
ただ、ウリエルが出荷に行く前と変わっている事がある。
服装だ。どうやら昨日それを見た時のラエの驚く顔とかが気に入ったらしく、普通の青年が着るようなものを着ている。
もとがとても綺麗なものだから、そうしてみるとますます信じられない程格好良かった、というより美しかった。もしかしたら美男美女でも知られる伝説の大天使たちよりも綺麗かも知れない。
多分今の格好で町を歩けば間違いなく男女問わず振り返る人が少なくはないはずだった。
そう、例えばこんな風に。
そう思っていきなり振り返ったラエの目に、一瞬だけウリエルの顔が歪んでいるのが見えた。
すぐ振り返ったラエに気付いて、いつものようなぼうっとした顔に戻ったが、いつもウリエルの表情を気付かないうちに注意深く見ているラエにとっては一目瞭然だった。
どうしたのだろう。
けれど聞けない。何か事情がある時にそれを聞かれるのは、時と場合による。それが分からない時は聞かない方がいい。
そう思って、ラエは見て見ぬふりをした。
自分のことで、ウリエルがそうなっていたとも知らず。



とろりとスパゲティーの上にクリームソースがかかる。
ラエは妙な気分でそれをワゴンに乗せた。
ウリエルが変だ。
行動には妙な所はないが、どこがどうとは言えないけど変だ。
何かあったのだろうか。出かけている間に。
でも昨日はそんな素振りは見せなかった。しかもどうやらラエには知られたくないことのような気がする。
エプロンをはずして壁に掛ける。
どうしたのだろう。胸が落ち着かない。
聞いてみようか。そうだ、やっぱり聞いてみよう。
そう決めると、ラエはワゴンを押して食堂へ急ぐ。
しかしその前に、ウリエルが食堂の前でラエを待ちかまえていた。
「あの、ウリエル−−−」
ウリエルに一番にそれを聞こうとしたラエに、一瞬逡巡してウリエルは一枚の手紙をぽんとワゴンの上にのせた。
「これ。どうするかは自分で決めて。渡すの遅れてごめん」
「え?」
ラエは驚いてその手紙を手にとって差出人を見た。
凛韻 源。
「・・・父さん」
宛名は、ウリエル。
すでに開封されている中身に急いで目を通す。
・・・もうすぐ学校の卒業式も控えておりますので、3月29日、ラエを迎えに行きます。どうかよろしくお願いします、・・・
3月29日。
明後日。
「うそ」
うそじゃない。



その日のクリームスパゲティの味は、あれだけ楽しみにしていたのに、あまり舌に残らなかった。
ぬるぬるしたクリームソースの感覚だけしか残らなかった。