SNOW AND CHERRY

一瞬、時が止まったのかと思いました。
その後すぐに電流が身に走った様な感覚がし、胸が高鳴りました。
魂がうずくような感覚もしました。
急に彼女のいるあたりがぽっと鮮やかに輝いているような気がしました。
初めて、彼女を見たときです。
一目惚れでした。
雷の如くやってきた恋でした。

四人の少年少女がレンガ造りの道を歩いている。
全員十歳ほどで、少女が一人、少年が三人。
ひらり、と舞い降りてきた雪が服に付いた瞬間、
「くしっ」
とその少女はくしゃみをする。
「大丈夫ですか、ミレスさん」
「んー・・? うん」
と隣で歩いていた少年に、ミレスと呼ばれた少女は応える。
黒の、少し癖のある肩から1センチほど上に切りそろえられた髪に、黒の瞳で、それなりに整った、
活発そうな顔立ちをしている。
スタイルは年相応で、しかし無駄のない筋肉その他がついている。
ミレス=エルフィ、10歳。
ウイント王国首都ウイントルクにある、私立ウリュース魔法学校の5年生。
「大丈夫よ、レア。ありがとね」
「・・・はあ・・・」
とまだミレスを心配そうに見ていた少年がふっと思いついたようにミレスとおでこをあわせる。
レア=クルム、10歳。ウリュース魔法学校5年生。
黒の髪に、黒の瞳。
穏やかそうな整った顔立ち。
スタイルはそれなりで、筋肉はこの世界では平均的な方である。
「な、なな、レア!?」
ミレスが顔を真っ赤にするが、
「だーめーでーす!動かないでください!」
とレアはミレスの肩をつかみ、
「だ、で、でも」
とミレスが言いかけたところでおでこを離す。
そして極上の笑顔で、
「熱はないですよ!良かったです!」
とうれしそうに言う。
ますますミレスはほおを真っ赤にしていく。
しかし、レアはそれに気付いてはいない。
それを見ながら、
「・・・鈍いよなあ、あいつも・・・」
「そうだな・・・。あからさまに好意を出しているくせして・・」
後ろにいる男子二人が会話を交わす。
「っていうかもう・・・お約束だよな、あの二人」
と片方が遠い目をして言う。
キョウ=ジンノ、10歳。レア、ミレスと同じくウリュース魔法学校5年生。
少し切れ長の茶の瞳に、黒の髪。
顔は少し鋭そうなまあまあ整った作りをしており、体には無駄なく筋肉がついていて背は高い。
「ああ・・・ビバ・青春ライフだよな」
もう片方がほほえましそうに応える。
紫の瞳に、少し大人びた綺麗な顔立ち。
髪は不思議なつやのかかった黒。
バランスの良いスタイルである。
レアとキョウの中間ほどの背丈。
肌は雪よりは微妙に色味を帯びた色だが、不思議と健康そうである。
シキ=クルム(通称紫鬼)、やはりレア達と同じくウリュース魔法学校5年生。
年齢不詳でもともとは「紫鬼」という名しか持っていなかった。
レアは『紫鬼さん』と呼ぶ。
「……心配、しすぎよ……」
といってミレスはうつむき、急いで歩き出す。
「待ってくださいよー」
三人は走り出した。



私立ウリュース魔法学校(マジックスクール)。
リンブルークにある大陸の内でも大きい方のクリファン大陸を統べるウイント王国、
そこにある魔法学校の中でも、有名な方の学校だ。
魔術全般を教え、もちろんその他一応必要なものは教える。(あくまでも一応)
5歳から入学を受け付けているが、編入ではいるものが多くを占め、編入試験も月一回ほどある。
一クラス4〜8人程で、合同授業も結構ある。
ミレス達は、5−16。
結構成績のいいクラスだ。
キョウは最初からで、紫鬼、レアは7歳から、ミレスは10歳から他の学校から転入してきた。
紫鬼はレアの使い魔(使役される者)で、レアはミレスの使い魔である。
まあ、実際それによる弊害はほとんど無いが。
担任曰く、「保護者が紫鬼君でレア君とエルフィさんが子供、ジンノ君が隣の人という喩えが当てはまる」。
そんな彼らは、それなりに平和に暮らしてはいた。



ウリュース魔法学校の、幾つかある門の一つのそばに、桜の樹が1本ある。
春には見事な花を咲かせ、見る者をとりこにするという。
「ミレスさん、雪きれーですね」
「・・・そうね」
まだミレスは顔を赤くしている。
「六花」
ぽそり、と紫鬼がつぶやく。
「はい?」
「雪の別称。よく言ったもんだ」
紫鬼の手のひらに雪が落ちて・・・溶ける。
「六花ね。この桜は眠っているのに」
門をくぐりつつ、桜の方を見、ミレスはつぶやく。
「そーですね・・・でも」
横で、レアが言う。

「まるで・・・」

ひらり、雪が降っている。
その中で、レアは春、ミレスに初めて会ったときのことを思い出していた。

 

「ふゅ〜〜〜〜」
思わず、口からため息。
レアは、廊下を歩いていた。
登校日なので、いろいろ疲れる事があったのである。
紫鬼とキョウは用事があるらしく、一人であった。
下駄箱で靴を履き替え、とろとろと門へ歩く。
桜が、咲いているはず。
眺めて帰ろう。
そう思い、歩く。
ひらり。
花びらが落ちてきて、舞う。
レアは顔を伏せた。
桜がよく見えそうなところで、一気に顔を上げる。
それがレアの、桜の見方だ。
そして、
ぱっと顔を上げた時。
レアは、桜の前に立っている少女を見た。
レアに気づき、こちらを見ている。
レアは一瞬にして固まった。
体に、電流のようなものが、走った。
桜よりもずっと、その少女が、綺麗で美しく、すばらしいものに見えた。
そのままぼうっとしていると。
少女は、近づいてきて、言う。
「ねえ、職員室、教えてくれない?」
その笑顔は、とてもかわいかった。
ひらり、と桜の花びらが舞う。
レアは、恋に落ちた。
雷の如く、突然で、強い想いののった恋に。

 

「・・・桜の花みたいですね、雪が」
「・・・六花、だものね」
そのまま、四人は校舎に入っていった。



放課後になると、雪はうっすらと地面に積もっていた。
ミレスはレアと下駄箱で靴を履き替え、そして門の方へと歩く。
「明日どうなるでしょうね、雪」
「さあ・・・。雪だるまぐらい、作れればいいな」
キョウと紫鬼は掃除で残っている。
さく、とレアは雪を踏みしめて跡をつけたり、触ったりし始める。
ミレスもそれに加わる。
両手で集めて、固めて、潰す。
ひら、ひらと、雪が降る。
す、とミレスはそれに手をかざし、舞う雪を集める。
そこに、桜色の固まりが落ちてきた。
「・・・花びら・・・?」
桜の、花びら。
なぜ、こんなものが。
そう思って、ミレスは顔をあげる。
「・・・レア」
「はい・・・あっ・・・」
「咲いて、るね」
視界いっぱいに、広がる桜。
雪と共に花びらが舞う。
「すごい・・・きれーです・・・」
レアが感動と、喜びとをごちゃ混ぜにした顔になる。
「・・・うわあ・・・」
その顔を見て、ミレスはふと自分の心の底に沈むものを感じた。
−−−ねえ。とらないで。
自分でもそうとは気付かぬくらいの、小さな気持ち。
「・・・ミレスさん、あの桜の隣に、立っていただけませんか?」
「・・・え?う、うん」
ミレスは戸惑いつつも、桜の隣に立つ。
「・・・」
レアはそれをじーっと見つめ、
「やっぱり、そっちの方が綺麗ですね」
「え」
「ミレスさん、綺麗ですよ」
そうレアは言ってうれしそうに笑う。
ふと、ミレスはレアと出会った時のことを思い出す。
あれは、桜に見とれていたのだろうか。
もしかすると、自分にみとれ・・・
そこでミレスは首を振る。そんなはずが無い。
「どーしたんですか?ミレスさん」
「なんでもない」
「ミレスさん・・?」
「ねえ」
「はい」
「あのさ・・・私とこの桜・・・どうおもう?」
「・・? 桜が背景で、ミレスさんがメインに決まってるじゃないですか」
何を当たり前のことを、という顔で即答するレア。
とんでもないことを言っているはずだが、自分では全く気付いていない。
「・・・」
ミレスは、ほおを赤らめる。
雪と桜の花が混じり、
ミレスの周りに降り積もってゆく。



「うっひゃー、すごいな
今、冬だろうに・・・。
サクラサク、ってか」
紫鬼は掃除の終わった教室の窓から、その光景を見つめていた。
「おー、
狂い咲き、か」
「絶対レアあれにぼうっとなったぞ」
「そうだろうな」
そう言ってからキョウは
「狂い咲き・・・何に狂ったんだ」
誰に問うでもなしに呟く。
「さあな・・・」
そして紫鬼はほほえみ、虚空に呟いた。
「あの二人には、まだ早いかな」
満開の桜。
その下で、ミレスが再びくしゃみをし、レアがそちらへ走っていった。



「愛狂桜(あいくるいのさくら)、か。久しぶりに狂いましたね」
レアの祖父、マイチ=キチノヤ教諭(4?歳)は校長室で、窓の外を見て微笑む。
「そうですね。・・・あ、でも2年振りですから、そんな事もないかも」
校長であるスイル=ウリュースが茶を置いて応える。
「雪の日に愛する人を思うと、咲く・・・とは。これまた粋な桜ですね」
ふふ、と二人は笑う。
「ま、いまはあの二人を見守るとしますか」
桜のそばで、ミレスががたがたと震えだしていた。



後日。
ミレスは、本格的に風邪を引いた。
その間、雪と桜は、舞い続けたという。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
       
桜の下にいる彼女は、とても綺麗でした。
ずっと、そばに居られれば、いいなあ。
                      
        END..........and to be continued........

back novel あの、青い空の下で。