戦い

〜狙われたソフィア〜

走りながら護身用の短剣を抜く。そのまま俺はソフィアに斬りかかろうとしている奴の肩に一撃をくらわせた。手に確かな手応え。その隙にハンカチをポケットから抜いてソフィアの顔に被せた。ソフィアに血なんか見せるわけにはいかない。
そいつは普通の夏祭りの客と変わらないようで居て、やはりその筋の雰囲気を醸し出している。そしてその方から流れる血。
しかし、一人見つければ気配がゴキブリの如く湧いてでる。
誰か、複数が上げた悲鳴を皮切りに、客が皆待避してゆく。そりゃそうだ。いくらなんでも此処に王子が居るとは思わないし、思っても物騒すぎるから逃げるしかないだろう。
この中を、ソフィアを連れて逃げ回るのは危険だ。
ああもう、どうしてこんな時にレコンが居ない!?
そう思いながらもソフィアを庇うようにして戦う。相手もなかなかのものだ。動きに合わせてよけてくれるソフィアも。
が、その後ろから更に二人来た。こいつら、俺が殿下でもお構いなしか。
咄嗟に後ろを向いて、ソフィアを抱きしめて転がる。そうしなければ確実にソフィアに刺さっていたであろうナイフが、それまでいた所の地面に突き刺さった。
また二人飛びかかってくる、と思って身を竦めたが、その前に鈍い音がした。
見ると、グィアンが立って応戦している。
「殿下、そのままで、避けてて。俺がやる」
そう言いながら電光石火、縦横無尽に飛び回り、一人、二人と打ち倒してゆく。
流石は元裏部隊隊長の息子。
でも、相手は人数が伊達じゃない。屯所の方を見るが、入り口はすでに破壊され、通りようも混雑で逃げようも無くなっていた。飛んでくるものを避けながら周りの状況を確認する。
我が護衛隊もグィアンとは別の方向を向いて戦い、ダフィラシアスは兵士達と一緒に、魔法を使う奴らをどうにか退けようとしている。ダフィラシアスの方は俺からはかなり離れていた。
フィン=ディルカと、ルーフェル・・・良かった、無事だ。いや、無事というか、何が切れたのかどうも禁呪をルーフェルがぶちかましまくっている。多分持ち出し禁止図書を閲覧していたんだろう。しかし、大規模な被害を起こしかねない禁呪を小規模にして操る手腕は流石だ。フィンは隣で必死に治癒魔法を唱えていた。
と、
「エリック、危ない!」
ソフィアが逆に俺にしがみついて転がった。地面に刺さるナイフ。
はっとしてグィアンの方を見ると、彼の肩にナイフが刺さっていて、更に刺客が増えている。
屯所との壁との間には居なかったので、頓所から一歩程離れた所に避難し、立ち上がった。これで一方面はましになる、と思う。
と、刺客の内三人が集まって呪文を唱え始めた。グィアンには防げない程の大きな魔法。あたりに転がっている、グィアンにやられた奴らを見て、肉弾戦ではグィアンが大きな障害となると踏んだようだ。グィアンが阻止しようとナイフを投げるが、力無く叩き落とされた。護衛達もどうにかしようとするが、やっぱり手こずる。
実は、そんな必要はないのだが。
ソフィアが顔を青くしてしがみついてくる。うん、役得。
「大丈夫だよ、ソフィア」
大きな水の球が出来上がり、それが奔流となって放たれた。それが俺たちに向かってくる。
そして俺の服に触れ、弾けて消えた。まるで魔法など元から放たれてはいなかったように。
「俺に、魔法は効かないからね。その代わり使えないんだけど」



かなりのレベルの魔法。かなりの防御魔法でないと防げない筈なのに、それをエリックは身一つで防いでしまった。
そう言えば昔から、何でも出来るエリックだったけど、魔法を使った所は見た事がなかった。使って、とせがんで、おじさんとおばさんに止められた事もある。その時のエリックは、喩えようのない表情をしていた。
そのくせ、魔法が強いと評判のある叛乱軍(テロリストともいう)には平気で立ち向かっていった。
思い当たる事がありすぎる。と言うか、いつかそんな事を言われたことがあるような気もする。俺は魔法が使えないんだ、その代わり、魔法は効かないんだ、ソフィア。ごめんな、見せてやれない、と。
「……うそー!?」
そんな体質、お伽話の中でしか読んだ事無い。
相手方も少しざわついてるみたいだった。そりゃそうだ。こんな吃驚人間がいたんだから。
でも、諦めずにナイフを構え、一気に飛びかかってきた。本当にこいつら、仮にも王子と対面している自覚あるんだろうか。
グィアンさんが必死に交戦する。でも、一人、二人と切り抜けてやってきた。
こうなればくっついてる場合じゃない。エリックは私を庇うようにして戦う。
このままでは私は足手まといだ。体術はできるけど、やはり武器がなければ、この人数は相手に出来ない。
何か、武器を。
そう考えて辺りを見回すと、あった。
前にあいつらの投げたナイフ。それを抜き取る。そして敵の一人に狙いをつけ、地を蹴った。
予想外の動きに驚いても体勢を崩さない。でもそれはこっちにとっては予想の内。
腹に一発。それを相手がかわす。
今だ。
片手を地につけて反動をつけ、足で相手の顔を蹴る。そしてナイフを一閃。
腹から血を流してそいつが倒れた。その瞬間に衣の中のナイフ入れを抜き取る。黒光りする、毒付きのナイフが沢山。
ナイス、祖父ちゃん。仕込んでくれた技術が役に立った。
私はエリックと背中合わせになって戦いだす。
動きやすい服を着ていてよかった。そう思った。



俺程ではないけれど、ソフィアは強かった。最初の一人は不意をついたから倒せたというのを十分に分かっていて、俺の補助に回ってくれる。
息も、驚く程合っていた。
けれど段々、俺もソフィアも息が上がってくる。
それでもどうにか、飛びかかってきた奴は全員倒せた。護衛達もいたし。
「よし、どうにか……」
切り抜けられる、と言おうとした時だった。
闇の中から、また一団が現れる。しかも今度はグィアンの父親付き。合わせて十数名程だが、これまでのよりは強いようだ。
でも、護衛も俺もグィアンもソフィアも疲れ切っている。ダフィラシアスもまだ手こずっているし。
余力がない。もしやこいつら、身内を捨て駒にして、これを狙っていたのではないだろうか。
そいつらが一斉に飛びかかってくる。駄目かも知れない。けれど、せめてソフィアだけは。そう思ってソフィアに覆い被さる。
ああ、レコン、シェラン。どうしていないんだ。
そう思った時、一筋の光が煌めいた。
刺客が二人同時に倒れる。
「申し訳ございません、王子」
振り向いた先には、あの茶とこげ茶のストライプ。そして亜麻色の髪。
手には古めかしい、けれど神秘的な輝きを放つ剣。もしかすると何か有名な代物なのかも知れない。
「あの、馬鹿兄貴がー!」
レコンは意味不明な大喝をあげると、敵に斬りかかっていった。



第八話 おわり
第九話: 逆転 に続く

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