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遊園地のそのあとで

〜家への来襲〜

そしてあっという間に、ウィルードジョイランドの入り口の時計が7時45分を知らせる。
どうにか私は渋るエリックを引っ張って、ジョイランドの前の広場まで出たところだった。
「ああ、愛しのソフィア! このまんま離れたくないよう」
エリックが妙に芝居かかった口調で懇願する。
「何言ってんの。おじさん(現国王)とおばさん(現王妃)が心配するでしょ」
「だってちゃんと外泊の許可もらってるもーん」
ブリッコして目をウルウルさせながらエリック。このまままた許可証でも出してきそう。ていうか18の大の男ってことを考えると、結構キモイ。
「よく考えたら凄い会話だな」
テルブが感心したように頷きながら言う。
「国家レベルですからね」
ふぅ、とため息をつきながら黒子さん達の隊長さんがまだ黒子ルックで言う。
ちなみにチヨは例のクッキーをあげようとしてた“彼”に会って別行動を取っているらしい。まったく、ちょっと断りぐらい入れてって欲しいもんだ。
「そういえばあなた方も王宮騎士団でしょ? 大変ですね」
「ハイ。ですが一応精鋭ばかりと自負しております」
「精鋭ですか」
隊長さんの後ろを目を細めてあきれ顔で見つつテルブ。
「ハイ。あれしきの事で酔ってようが精鋭です」
後ろで酔ってない人とその人達に世話をされている乗り物酔いの人達(さすがに黒子の格好じゃない)に氷より冷たい視線をやって隊長さん。
「レコンたいちょ〜・・・こればっかりはどうにもなんないんです〜・・・」
酔ってる人のうち、黒髪に褐色の肌の騎士が口に手を当てながら言う。どうやらほんとに弱いみたい。気の毒に。なんだかウルウルしている目に見覚えがあるけど、まあいいか。
「鍛錬じゃどうにもなんないのだよ、レコン」
信じられない程ピンピンしてる銀髪に藍色の瞳の騎士が爽やかに鋭い隊長さんの視線を一笑に伏す。
なんか、この人達の過ごす日々が目に浮かびそうだ。
そんな事はさらりと無視して、エリックは相変わらず目をウルウルさせ、
「ソフィア〜、泊めてよう、ソフィアの家」
この男は……。ど・う・し・て・こうなのよ!?
あたしだって青春真っ盛りのいい年した女なのよ一応!
「だめ!」
「ええ〜? そんな、じゃあこの」
ごそごそと水色のナップザックを取り出し、
「昨日適当にすませた職務の暇を見つけては一生懸命用意したこのお泊まりセットはどうなるのーーー!」
ちょっと待てーーー!
「職務をしろ、職務を! 真面目に!」
なんちゅう王子だ。
いや、本当に王子か? そう考え込みそうになった隙に、
「そんな‥‥! さんざん弄んで、最後には私を捨てるのね!?」
エリックは白いハンカチを噛みしめてしなを作ってくずおれる。振られた女かお前は!
あたりの人々がぎょっとしてこっちを向いた。
「人聞きの悪い事言わない!」
私が叫ぶと間髪入れず「じゃあ泊まらせて」
「あんたねえ」
あきれるわ、このボケ王子。
「昔は『エリック兄ちゃん来るの!? やったあ!』とか喜んでたでしょ〜?
 ああ、あの頃のソフィアは何処に」
「ここにいるわよ! 昔は昔、今は今!」
のー天気に子供のまんまじゃいれないっての。
「・・・えっと」
「正論です、王子」
真面目に黒子隊長さんが頷く。
「そうだな」
テルブが頷く。
「年頃の女の子でしょう、ソフィアさんは〜」
さっきの酔ってた隊員さんがどうにか立ち上がりながら言う。
「俺、ソフィア襲わない」
とぼけた顔でエリック。
「何急に間違ったイメージの原住民(インディアンうそつかない)風になるわけ」
容赦なくつっこんでやってみた。
「うええん。でもいいじゃない、お泊まりぐらい。今日の職務は昨日全部やっつけたもん」
「そんなのでいいわけ?」
「一応やった事は完璧です。と言うよりソフィアさんに会う日の方がはかどる上に完璧です」
黒子隊長の援護射撃。
あんたどっちにつくんだ。昔話のコウモリでもあるまいし。コウモリは仲間はずれで酷い目に遭うんですよ。
「ソフィアに会えるなら愛の力全開だもん」
よくもまあヌケヌケ、キャピキャピと。
「あんたねえ」
いい加減にしなさいよ。
「それに」
エリックがそのナップザックから一枚の新聞を取り出す。
そこにそれなりの大きさで書かれた文字。
『国王陛下、王妃様
ルエーナ地方へ』
「はい?」
これに何があると。
「あのねえ、ちょっと問題があって、父さんと母さん、今日うちにいないんだ」
「だから?」
「だから、ね。これでも俺を独りぼっちの家に突き返す?」
哀愁を瞳に漂わせてエリック。
深刻なんだか、そうでないのか。でも少し深刻そうな。
けど、何となく分かる。エリックは、
「とかいいながら、これ自分でセッティングしてるでしょ」
「・・・・」ぐっ。
得意げに親指を立てたエリックに、私はエルボードロップを繰り出した。



普通の一戸建てよりは大きい、二階建ての我が家の、玄関。
『それ』は確かに、私の目の前にあった。
青い色の、憎らしいフォルムに、手触りの良さそうなそれ。
本来あるべき所にあるならば、このうちのせまい玄関の5倍はある玄関か、もっと大きい部屋にあるはずの、それ。
私はそれをひっつかみ、まっすぐリビングへ向かう。
「で?」
「ん? あ、お帰りソフィア、これ美味しいね」
それの主である奴は奴はそこの食卓でのんびり100%オレンジをすすっていた。
「エリック、何でこんなとこにいるのよーーー!」
私は手の中のナップザックをエリックに放り投げるが、エリックは軽くかわす。そんでナップザックは壁にクラッシュ。
あのあと気絶した隙に放ってきたはずなのに!
「それがさー、実は帰りにナトハルおじさんと会っちゃって」
てへっと頭に手を当ててエリック。
何!?
あの脳天気玉の輿推奨行け行け主義な我が父親に!?
「ああソフィア、お帰りー」
のんびりと水晶でニュースを見ていた父さんが振り返る。
仕事でくたびれたワイシャツに、いつも着ていく茶のスーツのズボン。
我が愛すべき父親、ナトハル=ガランディッシュ、48歳、有名フリージャーナリスト。
「エリック君が家には誰もいないって言うからさー、つれてきちゃった☆」
てへっとエリックと同じ子供のような仕草をする、その筋を目指す青年達の尊敬を集める大の大人の有名ジャーナリスト。
「『つれてきちゃった☆』じゃなーーい!」
この世の何処に、娘と結婚するという男を連れてくる父親がいるのよ!
「エリックはもう子供じゃないのよ!?
 何かあったら(ないと思うけど)どうしてくれんのよ!」
「そうだな、子供じゃなくってうちのお婿さんだ」
「何でそうなるのよ! それと論点ずれてる」
「だって俺って、ソフィアの未来の夫だし」
そういって笑うエリック。
爽やかにして邪悪な笑み。
まさか、また何かたくらんでるんじゃ?
「あの、もしかしてお邪魔でしたか・・・?」
リビングに続くキッチンから、黒髪に黒の瞳の、見たこともない女の人がおずおずと出てきた。
「え?」
少しきつめに言うと、その女の人は身をすくませて
「ぁ、ええと、ラフィアナ=テルブと申します」
テルブ?
と言うと、もしかして。
「姉上、ガランディッシュはいつもこうなんだ。気にすることないよ」
そのあとから頭をかきながら予想通り出てきたのは、青の目に茶髪の、その人の弟であろう人物。
我がクラスメート、ダフィラシアス=テルブ。
「テルブ!? 何でここに」
「何で、って。想像つかないか? 男が二人、女が二人」
ん? なんだそりゃ。
とりあえず知識のタンスから色々検索してみる。
女二人、エリックがここにいる、父さんが連れてきた、何かあったらどうする、・・・・。
検索ヒット。アンド思考の組み立て完了。
「もしかして、わざわざテルブとお姉さん巻きこんで、その二人がいるから安心だとかいうのをいいわけにして、エリックわたしんちに泊まるつもり!?」
「不正解」
エリックがちっちっと指を振りながらのたまう。
「へ?」
「発案者はナトハルさんなので、『エリックをわたしんちに泊まらせるつもり』でーす!」
なにーーー!? しかもやな予感クリーンヒット!
「父さん!?」
ギッと父さんを見るけど
「いやー、やっぱこう、親がいない家に置いとくのも気が引けてな」
はっはっはと快活に笑いながら父さん。
今度はおまいか!
「いいでしょう、昔何度も泊まったんだし」
母さんがにこにこ笑いながらキッチンか盆に載せて料理をもってくる。
ロールキャベツに、真っ白なご飯。
「あ、よそうの手伝いますよ」
爽やかにエリック。
「あらあら。助かるわ、エリック君」
エリックにそれを渡して息をつく母さん。
「ちょっと、母さん!」
「いーじゃない。もし何かあったらおじいちゃん達に頼んで暗殺してもらえばいいんだから」
こきこきと腕を鳴らしながらとんでもないことをのたまう。
「い、今なんか凄いことを・・・」
昔腕利きの軍人で、四十八年前に勃発したティルク=ムート戦争でも活躍したという、その業界では有名なじいちゃん達(ほぼ現役)のことを考えて私は少し冷や汗をかく。
「ガランディッシュのお祖父さん?」
「あー、俺の両親がカリハル=ガランディッシュとルノ、ブカレスア(母さん)の両親がプラティン=ロマルンにジェーン」
テルブの疑問にさらっとナチュラルに父さんが答えた。
「・・・」 あっけにとられて声も出ないテルブ。
やっと口を開いたと思えば、
「ガ、ガランディッシュって名字、偶然の一致だと思ってたのに」
ええ、そりゃあ長いけど実はそれなりにそれなりにありふれた名前ですから。
「暗殺は勘弁して下さいよ、責任とる気満々ですから」
井戸端会議のようにへらへらとエリック。
おい!?
「あらあら。でも駄目だったらどうするの?」
微笑む母さん。
「その時はその時です」
笑うエリック。
そのまま二人は向き合い、おもむろに肩ぐらいまで手をあげると、
「よし!」
なんて親指を突き立てて通じ合う。ウインク付きで。
理解不能。クラクラしてきた。
「あ、俺も混ぜてよ」
なんて父さんが身を乗り出して言う。
なんかもう、みんな乗り気みたいだ。
テルブは傍観してるし、ラフィアナさんは小動物のような目でおろおろしてるから無下に追い出すわけにもいかないし、エリックは泊まる気満々、父さん論外、母さんは前、実に一年前にエリックが泊まりに来た時のようにエリックと意気投合。
いつもはエリックの補佐の人が仕事を持ってきてフォローしてくれたりしてどうにか切り抜けてきたけど。
あきらめるしかない。
……心の砂地獄に嫌がる私を捨てる。見えなくなった。合掌。頭ちょっと痛いけど。
「布団、自分で出しなさいよ。ぁ、テルブ達も巻き込んだんでしょ、だったら3人分」
「え」
そう言ったとたん、エリックの顔に満面の笑みが広がる。
闇の中に不意に希望を見つけたように、綺麗な笑みが。
お化け屋敷で見たくすんだ金髪、青い瞳。
刹那、何でか頭が熱くなった。
「それだけ!」
ひったくるようにしてエリックから料理の入った皿を奪う。
少し汁がこぼれたけど、気にしちゃいけない。
何でかそんな気がする。
この顔にみんなが注目してる気がして。
いや、実際そうだ。 早く、この顔を隠したい。多分真っ赤。
そのまま叩きつけるようにしてお盆を置くと私はすぐ、ラフィアナさんを押しのけるようにキッチンに入った。
キッチンとリビングはつながっていて、しかも流しの上に大きな木の枠がはまってて、そこからキッチンは丸見え。
キッチンとリビング越しに会話がしたいと母さんが家を買った時にそうしたのだとか。
視線を感じて振り向くと、エリック以外のみんなが目をそらす。
何よ、人をメドゥーサでも見たみたいに!
蛇口の栓をひねって顔を冷やしたい、今すぐ。
「ぁ、もしかして脈有り?」
にぱっと視界いっぱいにエリックの顔。
思わずのけぞるとバランスが崩れる。足で体を支えた。助かった。
「なにあんたいきなり人の隣に立ってんのよ!」
「あ、ソフィア可愛い」
とか言いながら側に盛りつけてあった料理をお盆にのせる。
私が気に入って買った、牡丹の書いてあるお盆。
「良い趣味してるね、このお盆。ソフィアが買ったんでしょ」
何もかもお見通しな顔。
「ソフィアの趣味なら大体知ってる」
目を細めて笑う。柔らかいスポンジのような笑み。何を言っても吸い取られそうな。
普通の住宅のキッチンに、この笑顔は似合わない。
目をそらそうとすると、エリックの肩越しに青いエプロンが掛けてあるのが見えた。
エリックを押しのけてエプロンを取る。
「これ! 普段着とはいえ高価なんでしょ」
エリックは遊園地の時とは違う服。けどやっぱブランドものじゃないの?
「ソフィア優しい!」
嬉しそうにエリック。
「さすがは俺が惚れた人」
そして愛おしそうに私を眺めながらエプロンを着込む。
何でか後光もないのに微笑が輝いてやがる。
「チューしちゃおっかー」
なによそれ。
そういいたいのに、胸の、鼓動が早い。ドクバクドクバク、バンドのドラムみたいに。
「ソフィア」
エリックが心配そうな顔になる。
肩をつかむ手。暖かい。頼むからこの胸の鼓動が彼に知られませんように。
ベタな少女漫画かよ、自分ってつっこみたいけど、なんか心の中がぐるぐるしてる。視界も何故かぐるぐるしてる。
何で、急にこうなるの?
思わず目をぎゅっとつぶると、ガーンという音がした。
え? 目を開いてみる。開ける視界。
床には下に開かれてぐちゃぐちゃになってる雑誌『ロウレ』と、それのすぐ左に倒れてるエリック。
「は!?」
リビングは向かって右。ということは、誰かがこれをエリックに向かって投げたということだ。
「お、おばさん・・・?」
テルブの怯えた声。
「母さん」
「あらあら。エリック君大丈夫?」
にこやかにピッチャーの投球後フォームで母さん。
投げたんですね、しかもクリーンヒット。プロ投手真っ青。というかあの音ってどんな速度この雑誌が出した!?
「ああ、妻は昔暗部兵卒並の訓練を受けてたんだ。俺もだがな」
ニュースを見ながら何が起きたか察したらしい父さんがそんな衝撃の事実をあっさり平然と言ってくれた。
「ええ!?」
「そうだったの!? 娘の私も初耳じゃない!」
テルブ達がさらに驚きの声を上げる。
エリックの上げるうめき声がそれを遮った。
見ると、気絶しながらも苦しそうに腕を押さえている。
救急箱ー!

結局、どうにか打撲で済んだ。



「美味しかったね〜、ソフィア」
二階の私の部屋。
結構一人部屋としては大きいから、まあたびたび客人用として使われている。
そこに私用の布団をひきながら、私はエリックに答えた。
「そうね。それより痛くないわけ?」
「うん、ソフィアに心配してもらえるならどんなケガでも治るよ」
「そう。まあ私が変な素振りをしたせいだよね。エリックが私に迫ってるように見えたから、母さんがあんな事しちゃって」
やっぱり罪悪感があるし。でも何で母さんはエリックを応援してるのにあんな事したんだろう。
とりあえず、なんかさっきのは私が変だった、うん。
「でもおばさん凄いね、急所でもなく痛くないとこでもなく、絶妙なとこだったもの」
苦笑してエリック。
「うん」
「とりあえずどっちが先にお風呂はいる?」
「そうねえ」
掛け布団をふわりと敷き布団の上へ。  ん?
「なに」
怪訝そうにエリックを見た私に向かってエリックが片眉を上げる。
「あんたなら一緒に風呂入ろうとか言いそうじゃない」
「そこまで言いません」
口をとがらせてエリックがふてくされる。まあ、そう考えても良いんだけど・・。
「一応俺だって18だもん、いい年だもん」
布団を敷ききって向こうを向いて座り込んでしまう。仕草だけ見るといい年には見えないけど、
「はいはい。じゃ、エリックが後ね」
「はーい」
素直にエリックが返事をした。
障子を開けて、その中にあるタンスを開ける。北の大陸のフィノーサ地方の民芸品を真似たもので、結構お気に入りの桐のタンス。
まあ、今日は適当にと寝間着を選ぶ。
それを持ったところでドアが開いた。
「ぁ、ガランディッシュ。家の姉上先入っちまったけど良いだろ」
「はいはい。どうせ父さんと母さんに勧められたんでしょ、強引に。いっつもよ。昔なんか私エリックと一緒に入るの当たり前だと思ってたんだし」
「はあ!?」
「じゃ入ってくるから」
「うん」
素直にエリックが頷く。
「エリック一緒に入ろうとか言って、喧嘩しないのか?」
「しないよぉ、テルブ君って常識無いなあ」
エリックがまたすねる。
お前らってなんなんだ、とテルブがぼやく横をすり抜け、私は風呂に向かった。



脱衣場にはいると、ラフィアナさんが寝間着を着終えたとこだった。
「あ、お先してますね」
ラフィアナさんが礼をしておどおどと笑う。
「はい。別に良いですけど・・・。そんなにおどおどしなくても」
「だってエリック王子にあれだけ言ってましたし」
「ただの幼なじみだから。別にそんなことは」
「そう、ですね」
にこりと笑う。その黒髪が肩にかかる。意外とナイスなボディーだった。
儚げでおとなしくて礼儀正しくて。
こんな人をなんというのだろう。
男にとって都合良さそうかと言えばそうでもなし。ちょっと羨ましい。
「じゃあ、部屋で」
「はい」
ラフィアナさんが出て行ったしまった後でさっさと服を脱ぐ。
ワンピースだから脱ぎ易かった。
そのままドアを開け、ちゃぽんと風呂に入った。
鏡の曇りがとれている。もしかしてラフィアナさんかもしれない。
何となく思い出す。鏡に落書き。エリックとよくやった。この国の王子と。
これがエリック、これがソフィアといって下手な物を書いた。
それから毎度のように『ソフィア、エリックのお嫁さんに――』
また頭が熱くなる。
とにかく体を洗ってさっさと入って寝よう。
湯船から出てタオルを取って、体を洗う。
ふっと目の前の鏡を見た。
どうやら、私は自分で言うのもなんだけど、結構平均よりいい顔はしてるらしい。
でもそれだけのはずなのに。
鏡に映るのは普通の栗色の髪と瞳の少女、ソフィアルティア=ガランディッシュ。
妙な偶然でエリックと幼なじみになった少女。
どうしてエリックは私なんかにアタックしてくるのだろう。
冗談なんだかなんなんだか分かんないからよけいたちが悪い。
おかげで子供の時のまま脳天気にあいつを慕ってもいられなくなった。
でも本当は。
鏡を見れば、あいつのことで赤くなってる自分がいる。
そんな私を見ればエリックはどういう反応をしやがるのか。
小躍りしてから抱きついてくるか、あの優しい瞳を細めるか、
――困った顔をして戸惑うか。
「小躍りして抱きついてくるんだろうけど」
呟いて頭にシャンプーをつけて泡を立てる。
いや、そうに決まってる。
私は苦笑した。
私は、エリックが嫌いじゃない。
あんなふりかけのないご飯のような、ドアホな我が国の宝だろうが、20年に一度の政治の天才のくせして大事な会合を影武者使って私の誕生日だからとアタックしに来る王子だろうが。
好きなのだ。
恋とか、実はまだ分からない。
だからエリックがそうなのか分からない。
けど、それだけは確かだ。
遊園地も、テルブ達を阿鼻叫喚の地獄へ追いやった後は楽しかった。
アイスクリームを買ってもらって、メリーゴーランドの白馬に乗って迫ってくるエリックにビンタを食らわせ、これでもかという程コーヒーカップをぶん回した。
頭を流してブルリとふる。
チカッ、チカッと照明が点滅した。
エリックに替えてもらおう。
そう思って風呂へもう一度つかる。
体は温めるのが肝心だし。幸い絶妙な温度。気持ちいい。
その時、がらりと風呂の扉が開いた。
驚いた瞳で私を見つめているのはエリック。
当然裸。こっちも裸。
私は自分が叫ぶのをどこか遠くで聞いた。
もちろん、熱湯を浴びせられたエリックの悲鳴も。



第三話 おわり

よかったら一言感想をどうぞ。無記名でも大丈夫です。

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