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伝 え 説 か れ し 話 の 中 の ・ 1

−事態急変−

唐突ではあるが、エリックザラット=ウォルア=ウィルクサード皇太子殿下の父親、ウォルア王フェイクザライル=ウォルア=ウィルクサードは、ショットガン・マリッジついでに海を越えた駆け落ちというものをかました男である。
元々ウォルア大陸の北の海を越えたところにあるクリファン大陸、それを丸ごと統治するウイント王国の半官半民で運営されるウリュース魔法学園に留学していたのだが、そこで同い年の現王妃となるリリアンヌと出会い、恋に落ちた。
そしてリリアンヌは妊娠。祖国の政情不安も加わってリリアンヌの父親がショットガンを取り出す前にフェイクザライルは駆け落ちついでにショットガン・マリッジ――出来ちゃった婚――を決行し、成功。
その後王となり、生まれた子供であるエリックザラットは皇太子となった。
さてその結果、いかなることが起こったか。
すなわち、母方の親族への接触の欠如である。
娘に駆け落ちをされ、しかもその嫁いだ先が海を隔てた隣国の王家ときたもので、王妃は連れ戻されることもなかったが、両親と和解することもなかった。特に、父親は断固許さないという態度で王妃の出す手紙にもシカトを決め込んだ。
結果、エリックザラットは母方の従兄弟・ハトコはおろか、祖父母とすら面識がないことになったのである。

そして、そのエリックにとって面識のない親戚の最たるものである母親の父、すなわち祖父が現れて、王に謁見を申し込んだ。
そう聞いてエリックは謁見室への廊下を急いでいた。
今更祖父が何をしに来たのか。かなり気になる所である。
「あの、殿下、そんなに急がなくてもいいと思いますが……」
なぜかレコンが複雑な顔をしてそんなことを言うが、
「駄目。俺すっごい気になる」
エリックは一蹴して床を蹴る。初めて祖父と会うのだ。どうして急がないでいられようか。
一つ角を曲がり、謁見室の扉を視界に入れたところで、その扉が開き、
「後悔しても知らんからな!」
そんな台詞を叫びつつ、扉から一人の男性が締め出されるかのような様子で出てきた。
重い音を立てて扉が閉まったのち、溜息をつくような動きをして軽く肩をすくめ、あたりを見回し、ぴたりとエリックの方に視線を向け、そのまますたすたと迷いなく歩いて来る。
その途中で不意に立ち止まり、宙に向けて右腕を差し出すと、そこに燃えるような紅の翼を持つ、見たこともないような鳥が止まる。
そしてその鳥もこっちを見たまま、男性はとっとと距離を詰め、
「こんにちは、殿下」
と挨拶をしてきた。
「えー…えっと、こんにちは。初めまして…?」
「初めまして。君の祖父で、ジン=ライザン=フェイルヤードと申します。
 滞在は十六日。一応王妃を連れ戻しに来ましたが、滞在中に王妃が是と言わなければ何もしません。
 ……これで君の好奇心は満足かな?」
「………」
どうやら祖父らしき初老の男性。彼にその目的をあっさり告げられ解説され、エリックは二の句が継げなかった。
「君と会えてとても嬉しい。ああそうそう、こっちは私のペットでルゥゴ=ルゥリ」
「……殿下。部屋に戻りましょう。これに関わるとロクな事がない」
エリックの手を掴んでレコンが踵を返そうとするが、
「これとは酷い言い草だな、レコン=ブラック?」
「どの口でそんな事を言うか、この悪魔」
「あっはっは。それ以上言うと怒るぞ? 何を言ったって、俺が君の主の祖父という事実は変わらないんだから、観念して仲良くしようじゃないか」
「……チッ」
レコンが露骨に舌打ちする。
「え、えーと、レコン、知り合い?」
「ええ。ちょっとこの前クリファンに旅行したときあれやこれやでどたどたと」
「またそれか」
この男の主人公体質はどこまで妙な事態を引き起こしてくれるのか、とエリックはため息をつく。
「てことは、そこらの有象無象以上サリフ以下のシモベらしき人?」
レコンを見上げて聞いたエリックの台詞に、ぶっ、とエリックの祖父らしい男性が噴き出した。白髪交じりの黒髪が揺れる。
「いいえ。ちょっと分類が違います。ただの厄介事運び人です、この男は」
「厄介事って…酷いな。まあでも今回は安心していい。君が目当てではないからね。でも殿下とは仲良くしたいから、これから十六日間よろしく」
そう男性が微笑みかけ、手を差し出してくる。
エリックも反射的に手を差し出し、握手する。
握った手には、皺は意外と少なくて、汗もなくて乾いている。ただ人の体温がした。
「あの、殿下じゃなくて、エリックで大丈夫です。
 えーっと、お祖父さん、なんだし」
そう言うと、穏やかに男性は笑い、
「じゃあ、エリック。手始めに一緒に食事でもしようか。奢ってあげよう」
といって手を引っ張る。
きー、と紅の鳥が甲高い鳴き声を上げた。


……で。
「やっぱりあの本の解釈はラルグ版が一番だよね!」
「うんうん。ヴァルガード版も捨てがたいが、やはりあの洞察力から導き出される詳細な解説がいい。とくに第二章での―――……」
食堂においてエリックは、何故か自分を見つけ出した従兄と、今日が初対面の自分の祖父が自分そっちのけで異様な盛り上がりを見せるという奇妙な状況に陥っていた。
知り合いだったのかお前ら。というか当初の目的忘れてるよな。ある意味めんどくさくなくて有難いけどさ、などという本音は口にせず、とりあえず奢ってくれるからと遠慮を全くせずに頼んだ大盛りスペシャルランチを口に運ぶ。
隣で、その俺様口上によって見事、エリックと同じくジンに奢ってもらう権利を獲得したレコンが景気よく大盛りスタミナカレーをがっついていた。
「……またなんというか、お前達って……」
レコンをはさんでエリックの反対側に座っているヴァルフリートがため息をつく。
皇太子殿下たるエリックが食堂で夕食をがっつり食べる、というどうにも予想できない事実をクリスに教え、食堂まで導いた張本人はこの男であると、エリックは確信している。
ヴァルフリート=ジル=ラスタード。代々王族の護衛騎士を多数輩出したラスタード家の長男である。
実家の名に恥じず、自らも皇太子であるエリックの傍に幼いころから仕え、その護衛隊長、すなわち13番隊隊長の任をなしていた。
しかし、問題が一つ。
エリックが十歳となったころから、アルコール中毒症、いわゆるアル中になってしまったのである。
それでも護衛の任を解かれぬほどには働いていたが、どうにもこうにも不安要素となってしまい、それに次いで副隊長以下の隊の者の無気力及びエリックへの背反が併発(半分ぐらいは誘発)。まともな隊員はルクス=シェラン及びルイル=スィルクだけという事態となった。
そして同時に、ヴァルフリートのいない間にエリックはレコンに出会った。
それからは急転直下。ダフィラシアスとルイルの情報から13番隊は編成しなおされ、隊長・レコン=ブラック、副隊長・ルクス=シェランとジミー・ルイス、副隊長補佐・ルイル=スィルク、以下精鋭たちの集合となったのである。
当然隊からはじき出された者も多数いた。というか、前の隊で残っているものはルクス=シェランとルイル=スィルクという事態になった。
すなわちヴァルフリートも隊からはじき出されたのだ。
アル中ヴァルフリートは、納得できなかった。納得できないままに、レコンに勝負を挑んだ。
結果。
瞬殺、であった。
アル中で鈍っていたとはいえ結構な剣の腕を持っていたヴァルフリートを、レコン=ブラックはその愛剣を振るい、ものの十秒もかけずに、ヴァルフリートをその図々しいといえるプライドごと打ち負かした。
その後ヴァルフリートは王城から出され――そのまま行方不明となった。
しかし何でもない顔でこの食堂の椅子に座り、クリスヴァルトの護衛騎士の服を着ているところを見ると、どうやらどこぞでクリスに拾われたらしい。
「なんだ、何か文句でもあるか、ラスタード家のお坊ちゃま。我々が多少図々しかろうが、アル中だというのに隊長の座を誰にも譲らなかった貴様より図々しいものもなかろう」
「……あれ、お前そんな性格だったっけ?」
「ん? ああ、まあな。というか、最近思い出したんだがな、貴様俺に八年前も会ってるだろう。
 その時殿下にお前は冷たかった。だから俺のむかつきは八割増しだ。よって我が俺様属性は貴様に対してフルスロットルだこのアル中」
「はぁ!? ……てまさかあの時のエリック大好き君ってお前!?
 二年…いや二年半前はでっかい猫を被ってたもんだな」
「礼節をわきまえていたと言って欲しいものだな。俺は猫を被っていたつもりなど毛頭ないのだから」
エリックやその他隊員にとっては夏前までのレコンが猫を被っていなかったとは思えないのだが、どうやら本気でそう言っているらしいレコンが少しふんぞり返る。
「とにかく、とっとと飯を食ってクリス様のとなりでたちんぼでもしているがいい。
 要約して言うと、あれだけ色々やっておいて呑気に話しかけてくるなど図々しいぞこのアル中」
「……分かりましたよ。勝ち目がなさそうだ」
「おおそうしろ。じゃあな」
こめかみを引き攣らせつつ、ヴァルフリートが立ち上がる。
うんうまい手だ、とエリックは僅かに首を縦に振った。俺様マシンガントーク全開のレコンは避けるに限る。
さっさとクリスの傍によって昼食をかきこみ、トレーを返却しに行くヴァルフリートを見ながら、ふと、エリックは思いついたことをレコンに言った。
「お前さ、ヴァルフリート嫌いじゃないの? なんか嫌いにしては態度柔らかかったじゃん」
「んー、嫌いは嫌いなんですけどねぇ。まあ嫌いレベルBランク+ってところですか。
 でも俺のあのトークでキレなかったところは評価しても良いです。
 まあ良くも悪くもアル中を克服したみたいですから、俺もそこまでひどくはしませんよ」
「ふーん。ま、そうだよな。お前がのってこない相手にマシンガントークかますなんて珍しいからちょっと吃驚した」
「ははは。まあとっとと俺の隣からどいてほしいってのもありましたけどねえ」
ああ確かに。一見ヴァルフリートが大人な対応したように見えるところがミソだよな、なんて笑い合い、視線を感じてふと顔を上げると、正面で盛り上がっていたはずの従兄と祖父が奇妙な顔をしてこちらを見ている。
「……どうしたの、二人とも」
「……いや……うん。今個人の価値観の違いについて驚いていたところだ」
「……そうそう。個人の認識の差は怖いよね」
顔をひきつらせた微妙な顔で微笑み合う彼らに、レコンはけろっとした顔で、
「ようするにお二方の言いたいことを推測しますと、『あれが柔らかいといえる態度か!?』という事でしょう。
 まあきついかもしれませんが、仕方ないじゃないですか。ああしたかったんですから」
「ああしたかったからって……君ね」
「まあ、レコン=ブラック、君だからこそできることだろうね。エリックは真似しないように」
クリスは頭を押さえ、祖父は若干真剣な顔つきで忠告してくる。
エリックは咀嚼していた一口を飲み込むと、首をかしげつつ答えた。
「真似? そんなことしないよ。俺は嫌いな人は出来る限り視界に入れない方なの。
 だからヴァルフリートとは何にも話さなかったでしょ?」
それが当然であるという顔をしているエリックに対し、
「「「………」」」
そうだったのか。
今度は三人があっけにとられた。
「出来の悪いコメディー小説みたいなトークをかましてるよねえ、君たち」
レコンとエリックを挟んで反対側に座っているルクスがコーヒーにミルクを混ぜながら苦笑する。
あのなあ、とレコンがそれに反駁しようとしたとき。
「……しっ」
エリックが両側の二人の口を塞ぐ。何かに注目しているようである。
その目の向く方を四人が見つめる。
「……緊急ニュース……」
口から主の手が離れたレコンが呟く。
食堂に設置された魔導水晶(テレビ)に、わざわざ昼の人気番組を止めての緊急ニュースが繰り返し流れていた。
どうやらエリックの懸念する、『エリックの把握していない政治的な種類のニュース』ではないらしいが、そのニュースはかなり物騒なものである。
「……珍しいですね、北部にしては……」
クリスの背後ですでに食事を終え、両手を後ろに回して立ち、護衛の任をこなしていたヴァイザンが呟く。

BWKニュースです。
一時間前、ウィルード北区にて死傷事件が起きました。
鋭利な刃物を用いた犯行であり、加えて犯行声明らしきものが見つかったため、首都警察は未明の事件との関連を調べています。
被害者はウィルード在住ラスク=ヴィラさん(28)、サン=ヴァドゥルさん(25)です。
ヴィラさんは病院に運ばれましたが死亡が確認され、ヴァドゥルさんは重傷ということです―――

「……もう報告は上がってたが……まあ確かに珍しい事件であることは確かだな。
 まあでも、俺達は出来ることないしな」
というか管轄違いだし、と呟きつつ、またエリックは定食に向きなおる。
「しかし殿下は敏感だねえ。俺たちは気にも留めてなかったよ、魔導水晶なんて」
「仕事だからな、そういうのが。レコンとかルクスはその分俺の敬語に気を割いてるんだからそれぐらいで」
ちょうどいいんだよ、と言いかけた時だった。
「殿下。報告です」
携帯通信水晶を片手に、通信担当の職員がエリック達より一メートル離れたところから声をかけてきた。
食堂にいる王城勤めの者の中ではエリックが一番地位が高いので、報告を受けるのもエリックが一番先となる。
通信担当職員の深刻そうな様子に、自然と背筋が伸びる。何だ、と問う声も低くなる。
職員は緊張した面持ちで、規則通りエリックだけでなく食堂全体の関連する部署の者達にも聞こえるよう、声を張り上げた。
「二十分前、北区において死傷事件が起きました。
 犯行現場に声明らしきものが残されておりましたが子細はいまだ不明。警察からは緊急のため、報道規制解除の申請が出ています。
 被害者は二名。一人は先程の事件の被害者のうち一人の兄、セン=ヴァドゥル。

 もう一人は、我が王城図書室職員・ルーフェル=スィルガです―――」




その夜、三件目の事件の現場に残された声明により、三件の事件は関連性のあるものである疑いが濃くなったとの発表が警察よりなされた。
声明に残された署名と文章によれば、犯行グループの名は『シェルム族』であり、犯行動機は古の罪の償いをさせることである、という。
グループの名が現在ある民族のどれにもあてはまらず、被害者たちは善良な市民であるという特異性、そして何より連続殺人であることから、メディアはその後二週間と少しの間に起こる事件群とともに、連日この事件を報道することとなる。



Who killed Cock Robin?
I, said the Sparrow,
With my bow and arrow,
I killed Cock Robin.

誰がコマドリ殺したの?
それは私と雀が言った
私は弓と矢を使い
コマドリを、殺したの。




第一日第二節 おわり
第二日第一節 に続く

※文章終りのマザーグースは http://www2u.biglobe.ne.jp/~torisan/ を参照しました。

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