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旧 く 幼 き 残 響 ・ 2

−Invisible fate−

Who saw him die?
I, said the Fly,

誰が死ぬのを見届けた?
それは私、と蠅が言った、



「意識、とりあえず回復、…か」
エリックはその報せを聞いてため息をついた。
あの後、食堂で同じく伝令を聞いていたフィン=ディルカや騎士達と共に病院に行き、そこで借りた小部屋で執務・睡眠をとった。
知り合いとはいえ、たかが王城図書室の職員であるルーフェル=スィルガに第一王子であるエリックがそこまでする謂れはない。職務を済ませた自由行動のできる時間帯であったとはいえ、病院まで来こそすれ翌日まで付き合うような部下思いではないとエリックは自分の事を認識しているし、事実その通りである。
だがしかし、そうするわけにもいかない事情が発覚してしまったのである。
重体といわれるほどに大けがを負っていたルーフェル=スィルガ。
その傷の治りが異常なまでに早く、そしてその体が明らかに人間を一歩飛び越えた変化をなしていたのである。
その変化した姿というのをエリックは見ていない。どうやら異形そのものの何かが体から飛び出ているような、恋人であるフィンをして『あなた方は見れたものじゃないわ。私? 私をルーフェルの何だと思ってるの!?』と言わしめるほどのものだったらしい。
その異形の姿と、常人ならばそのまま死に向かうしかなかったであろう傷を負いながらも翌日には意識を回復させるまでの自己治癒力、そして腕の、毒々しい紅のような赤と、宵闇の如き黒で刻まれた刺青。
それらをすべて総合して考えると、答えは一つしかない。
ルーフェルは、ある特殊な、国の保護規定に名を連ねる民族であるということである。
その民族の名は、ルシュカートのハイブリッド。
由緒ある、という表現が相応しいかは不明であるが、実に建国以前より続く戦闘民族である。

ハイブリッド、すなわち混血というからには天使や悪魔など他の種族の血が混ざっているという事になる。それだけなら他の混血民族と同じく、保護規定外のものという事になる。
しかし、問題が一つ。
その混ざった血の種類が半端な数ではなかったのだ。
ルシュカートのハイブリッドに属する者たちは、高い戦闘力を得るため、手段を選ばず交配を繰り返し、実際非常に高い戦闘力と回復力を得ていた。すなわちあらゆる種族の血が彼らには流れていることになる。
だが、混ざる血の多さゆえ、今回のルーフェルのように、生命の危険に晒されたときなど、その血の力を全面的に発揮した時に異形に変化する性質も生まれた。
そしてその異形の姿への嫌悪に戦闘力への畏怖が加わり、度々迫害され――ついに二百年前ウォルアの王族により討伐され、その数は絶滅寸前までに追いやられた。
故に現在は保護規定の中に入れられ、申請者は調査の上、保護されることとなっている。
そしてルシュカートのハイブリッド側にも申請の義務が定められたのである。

要するに要約すれば――『なぜ絶滅危惧種が未登録でこんなところに転がってるんだ』という話である。
エリックは国政に加わる一人である。未登録のルシュカートのハイブリッドなどという社会問題の種および事件の鍵であると思われる存在を目の前にして何もしないわけにはいかない。現場の者たちや医療関係者のとっさの判断で緘口令が敷かれ、報道管制がされ、被害者がルシュカートのハイブリッドであるという事は隠されているが、露見しないとは決して言い切れないのだから、早期に事態に対処する必要があった。
果たして犯人はルーフェルがルシュカートのハイブリッドであると知っていたのか。他の被害者もルシュカートのハイブリッドであるのか。ついでになぜあえて未登録を通すのか。
そこら辺を同じくルシュカートのハイブリッドであると判明した、こちらも容体が回復したサン=ヴァドゥルとルーフェルに問いたださなければならない。それがエリックの判断だった。
サン=ヴァドゥルの方にはルクスが行ったが、どうやら兄弟を殺されたことが酷く堪えているらしく、後々の事を考えると今はそっとしておいた方が良いとのことだった。
よって今、詳しく話を聞けるのはルーフェルしかいない。
だからエリックは病院で待っていたのである。
「ルーフェル=スィルガの意識は大分安定したようです。
 あの男の性格からして、おそらくは冷静に話をするだろうと思いますが」
「じゃあ、会うよ」
そう言って書類を置き、立ち上がる。
「本音言うと、知人としちゃあ心配だったしな。
 本格的な聞き取りはお前達にまかせるけど、大まかな全体像は早めに知っておきたいし」
「そうですか。それでは」
恭しく礼をして、レコンが部屋の扉を開ける。
エリックはメモとペンを胸ポケットに入れ、机から立ち上がった。



「……どうする? 待ち人来ず、ってのは確定だ。
 ……あんな事に、なっちゃったからねえ……」
待ち合わせ場所になる予定だった場所の、目印となる喫茶店の外壁に寄り掛かり、ウィルはふう、とため息をつく。そして同じく壁に寄り掛かっている相棒を見上げた。
ルーは何か考え込んでいるようで、首を僅かに傾げたまま、地面を静かに見つめている。
こういう時、ルーの返答は遅れる。それを知っているウィルも静かに待った。
「……ウィル」
「何?」
「公私混同についてどう思う」
話が繋がっていないが、それはいつものことだ。ウィルは正直に答える事にした。
「まあ、何というか……ケース・バイ・ケースだと思うよ?
 でも君の事を言ってるのなら難しいねえ。僕らといることは君にはプライベートであり副職であるという事になる。けど本職に今はそこまで重きを置きたくないんだろう? 休暇中だから。
 それに、君の場合、公に私が混じるんじゃなくて、私に公が混じっちゃうんだろう?」
「……うん」
「……つまり、君の仕事にこの事件が絡んでいるというわけかい?」
声を出さず、こくり、と頷く相棒。
「絡むことに、なると思う」
一瞬間が空いた後、静かに告げられた一言に、ウィルは掌を頭に当て、
「そりゃあ困ったねえ」
と言いつつ微笑んでみせる。相棒は藍色の瞳を静かに伏せた。
そして沈黙。
さて何を言ったものかな、と考えつつ、ウィルは空を仰ぐ。
空はまさに秋晴れで、そんな彼らの様子など全くお構いなしである。
「……とりあえずさあ、見舞いに行ってみるかい?」
「上司に会うかも」
「………」
(この子、いったいどこの部署に所属してるんだろうねえ。大体見当はつくけどさ)
相棒が普段騎士団に所属している事しか知らされていないウィルは心の中で一人ごち、僅かに眉を下げた。
と、相棒が携帯水晶をポケットから出し、何か弄っている。
「どうしたんだい? ……ってそれ、最新型じゃないか。文書もやり取りできるっていう」
「……知り合いか、って聞かれた」
「知り合い?」
「ルーフェルと知り合いか、って上司が」
「え」
「イエス、って答えたら、調べるつてだけ確保しておけ、だって」
「………」
「やる? ウィル。俺の本業に巻き込んでしまうけれど」
青い瞳がウィルを見つめる。ウィルもそれを見つめ返す。
青い瞳の中に見える、かすかな揺らぎ。ウィルが隣にいる事を希望する光。
全く、この子には敵わない。
ウィルはわざとらしくため息をついた。ウィルの行動の意図を正確に読み取ったのだろう、とたんに相棒の顔が明るくなる。
「――いいよ」
その顔を見ながら、ウィルは笑顔で答えた。



「しかし、ここにルイルがいないのは不便ですね」
ルーフェルのいる特別室に向けて壁も床も白い廊下を歩きつつ、レコンがため息をつく。
「んー、そう?」
エリックは眉をひょいと上げて首をかしげる。
「そうですよ。あの情報力は捨てがたい」
「じゃあ呼んだらいいじゃん」
「無休ですが、休暇中なんですよ、彼女。これから不満なくその力を発揮してもらうためにも一度許可した休暇を取り消すわけにはいきません」
「俺の身に危害が及ぶ緊急事態でもないし?
 まあでも明日には休みは一旦終わるんだし、それを待てばいいと思うよ。きっとニュースを見てそれなりの事をあらかじめしてきてくれるって」
「そうですね。それ位できてこそ、私たちは十三番隊なんですしね」
そうそう、とレコンに頷き、エリックはルーフェルの名前が横にかけられているドアの前で足を止めた。


「まあとりあえずぶっちゃけますとね。すみません、今回の被害者みんな同族です。
 どうも過去にうちの一族が殲滅した民族の生き残りに恨まれたみたいです」
「ああああああ……」
最悪のパターンが来てしまった。
ルーフェルに付き添っていたフィンに部屋の外に出てもらい、いざレコンとエリックで質問を開始しようとした時に先手を打って軽く告げられ、エリックはベッドの上にかかる用に出されている患者用の机の上に突っ伏した。
「いや本当すみませんて。ぶっちゃけ国に申請するといろんな所のリストに載るし、その分ばれやすいからって登録しなかったんですけど、まさかこんなことになるとは思わなかったんですよー」
下を軽く出すルーフェルにエリックは恨みをこめた視線を投げつける。うわ怖い、と軽く返された。
「で、その相手の一族に心当たりは?」
「ないですね。四百年前から二百年前までの恨まれる心当たりは念のため覚えさせられてますが、その中にもないです。
 二百年前からは同族は散り散りになって分断されてますから、俺とか他の被害者の近しい係累の者以外がやらかした事は分かりませんし。その上、二百年前にこれ以上血を弄るのは止めて、ひっそり血を薄めてゆっくり人々に溶け込もうと決定づけられて散り散りになったので、もうなんか把握できないぐらい血を受け継いでいる人々の数が多いんで……」
「要するに、王城とか役所の記録を調べた方がはやいぐらい、自分たちでもよく分からないと」
「ですね」
「他に手がかりは?」
「そうですね…複数犯です。民族名乗ってるだけあって。それと、不意打ちが得意で、計画的という事ですね。そうでなければ、変化するぐらいには血の濃い我々を倒すなんてできない。
 ……いや、もしかするとあちらも特殊な民族かも知れません。強い事は強かったから。
……俺たちは死なない限り、ほぼどんな怪我でも回復できるんです。現に俺だって、明日には退院できそうなぐらいだ。  だから、殺したい時はときは完璧に息の根を止めるんです。俺たちの息の根を不意打ちとはいえ止めるだなんて……それなりに強いでしょう。やはり」
「………」
「あ、そうだ。俺が知ってる同族の名前を書き留めたメモ帳があるんです。えーっと…」
遺留品の調べが終わって返却されたと思しき血まみれの上着が入った透明の袋をベッド脇の籠から取り出し、ルーフェルは何やらごそごそと探る。
「これだ、これ」
取り出した手帳はまた血にまみれていた。思わず僅かに顔をしかめたエリックに、すみません、と笑いかけ、ぱらぱらとルーフェルは手帳を捲り、人名と住所を脇にあったメモに書きだしていった。



「さて、じゃあどうするかね。まず図書館でも行く? やっぱルシュカートのハイブリッドに関しては本で調べといた方がいいよね」
「うん」
ルーが頷き、二人は喫茶店の外壁から体を離すと、その前の広場を横切ろうとした。
しかし広場の中ほどまでいったところで、ルーはいきなり右に進路を変える。
「……ああ」
ウィルもルーの進行方向にある喫煙所のマークを目にして頷き、その後を追う。
ルーは迷いなく喫煙所のドアに歩み寄り、ウィルにちらりと視線を送った。
分かってる。僕はここで待っているよ、とウィルが右のつま先でレンガで舗装された地面を叩くようにして応えると、ルーはこくりと頷いて喫煙所に入って行った。おそらくいつも持っている愛用のタバコを吸うとともに、軽く情報収集も行うだろうから、少し時間がかかるだろう。
さて僕はどうするかね。
残されたウィルはふっ、と息を吐きだすとあたりを見回し、ちょうど良く甘味屋の屋台が広場の脇で営業しているのを見つけた。
ジェラートでも買うか、とポケットから小銭を何枚か取り出し、そちらへと歩く。
甘味屋の売り子が小銭をばらばらとカウンターにばらまく子供にジェラートとキャンディーを渡し終える。そしてこちらを向いた。
その時だった。
ちり、と何かがウィルの勘に訴える。
その直感のままにウィルはその場から飛び退った。
そして、広場の端まで届く熱量と熱風と共に、爆音があたりに轟いた。

……ウィルのポケットから小銭が落ちて、ちゃりん、と軽やかな金属音を立て、下に落ちた。



『BWKニュースです。
 先程ウィルード北区コルギナ広場近くで爆発がありました。
 原因の究明と安全確保のため、あたりは封鎖されています。
 爆発に巻き込まれた死傷者は15名。
 詳細は次の通りです………』




第二日・第一節 
第二日・第二節 に続く
※冒頭のマザーグースは http://www2u.biglobe.ne.jp/~torisan/ 及び http://home.att.ne.jp/iota/spiral/mother-g.html を参照しました。
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