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夏祭り

〜意外な人が意外な所で〜

かき氷、林檎飴、たこ焼き屋、アイスクリーム屋さん、旅芸人に吟遊詩人等々、そして彼らの、沢山居る客への呼び込みの声。そして客自身が騒ぐ声。
私の家を出て二つ通りを違えた所の、王城を南に見据えたシェルフィント広場は、様々な喧噪で満たされていた。
その熱気も半端ではなく、転んでしまえば飲み込まれてしまいそうだ。
「三年ぶりだけど、変わってないね、ここ。ソフィアへの愛も」
エリックが林檎飴を食べて、辺りを見回しながら、ほとんど呟く様にさらっと言う。
「確かに変わってないわね。愛とかごちゃごちゃ言ってんじゃないわよ」
私も辺りを見回す。変わった事と言えば、私とエリックの身長が伸びたぐらいか。
「本当ね。でも、フィラナルさんは初めてなんでしょ?」
隣でチヨがかき氷を頬張りながらフィラナルさんに話し掛ける。
店を回っている間に何でか出会ってしまったこのラブラブカップルは、どうにかフィラナル先輩が父親から渋々許しを得たかをかいつまんで話しながら(殆どノロケ)、ベタベタいちゃいちゃとしつつ、何となく一緒に夜店を回っている。
クリファン大陸から渡ってきたという夜店の食べ物や出し物はなかなか楽しいし、大勢で居た方が盛り上がるし。
なにせ私とエリックはカップルじゃないんだから。
「そう。ああそういえば、ダフィも来てるかもな、ここに。
 貴族はあんまりこういう所来ないから、姉弟だってばれないし」
つまり、いちゃつけるって事かい。
「レコンも来てるかも。ずっと前から今日は休み取ってたらしいし」
シェランも付いていったらしいから、護衛の奴ら泣いてた、とエリックが林檎飴を最後に一なめしながら呟く。
まあ、あの二人らしいといえばそうなんだけど、いくらなんでもこの人混みの中に大事な国の宝が入ってくってのに休むなんて。
まあ他の人達も強いんだろうけど、昔の護衛さん達はしなかったな。その代わり問題起こしまくって免職されたけど。
案外そういう事から考えると、そんなのでちょうど良いのかも知れない。
とか考えていると、
「おや、殿下にソフィアさん、そしてバカップルまで揃っているじゃないか!」
よく通る高めの声と共に、問題の人物が登場した。
桃色の生地に黄色の花柄の着物を着て、空色の帯を締めて。
声も丁度中間あたりの高さだし、少し化粧も入っているものの、もともとスタイルもよく、中性的な綺麗な顔立ちだったから、それがよく似合う。
そう、女性の格好が。
「・・・はい?」
「る、るるルクスさん!? 何やってらっしゃるんですかー!」
黒子の格好で思わず出てきて突っ込んだルイルさんに、
「夜店回り」
片手の綿菓子を見せてこともなげに言う。
「いや、ですから格好!」
「ああ、これかい? なかなか似合うだろう。それなりに店を回って見つけたのだからね」
「だから、それがなんで女装なんですかー!?」
そう。それだ。どうして似合っているとはいえ女装なんかしてるんだろう?
「レコンをおちょくる為だよ。カップルに見られやすいからね」
どうしてそこまでするんだ。
「でもねえ、レコンってあんまり普段はこういう事に頓着無いんだ。
 似合ってるからまあ別に良い、で済んじゃってね。つまらないったらありゃしない」
「はあ!?」
全員が叫んだ。そりゃそうだ、あの堅そうな人がどうしてそんな事を言うんだ。キング・オブ・頑固の騎士って感じだったのに。
「しかも財布をすられてね」
「大変じゃないですか!」
レコンに
……はい?
「いつもレコンが奢ってるからって、目にも止まらぬ早業だったよ。
 何か買おうとしたらいつの間にか懐に戻ってるし。
 平素から思っていたんだが、あいつは盗賊の方が才能あるんじゃないか?」
才能云々の問題より、なんというか、あの床下トークからは想像も出来ない事を話すルクスさん。いつの間にかさりげなく、私達を連れて人混みから外れている。
「普段と違いすぎるでしょ、それ」
案の定エリックが突っ込んだけど、
「他は基本的に同じさ。でも、今日はかなり俺が頑張って色々やったから、外見は結構違うよ。
 で、まあはぐれてしまったんだけどね。もうそろそろ来る頃だと」
思う、と言い終わらないうちに低いよく通る声が聞こえた。
「ルクス! こんな所にいたのか!?」
亜麻色の、整髪料で整えられた髪に、強い意志の煌めきを見せる琥珀色の瞳と長い睫毛、そして少しだけ彫りの深い、けど何処かすっきりした目鼻立ち。耳には青色のピアス、そして着物は茶と焦げ茶の細いストライプに、団扇の挟まれた紺色の帯、そこに結構良い装飾の施された古い剣が挟まれている。がっしりとした体躯だというのに太過ぎはしない。
そんな青年が林檎飴を持って駆けてきた。
「ぁ、殿下。申し訳ございません、これが迷惑をかけまして。
 ……? 殿下? どうかされましたか?」
エリックにかなり奇妙な顔で見つめられたその人が首を傾げる。
いや、どうしたも何も。変わりすぎですアナタ。
「おや、ただ、髭と任務で瞳が光らない様着用していたレンズを取っただけだと言うに、結構驚いてくれてるね」
ルクスさんが感心する。
いや、それだけじゃない。醸し出す雰囲気が違う。おっさんのむさ苦しさから、青年の爽やかさへ。そんな感じだ。大体怒鳴ってしわを寄せた表情じゃなく、あっさりすっきりとした表情だ。
まあ、エリックの“殿下”程には違わないけど。
「………レコンさん?」
「どうした、スィルク」
ルイルさんがレコンさんに声をかけたはいいものの、どうして良いか分からない様子で後ろに下がる。
そりゃそうだ。あの様子だといつも怒鳴ってばっかりいそうな隊長さんが、余裕のある顔で機嫌良さそうにしている。
しかも年相応の姿をして。
「な、何でもないです」
「そうか?」
不思議そうな顔をした後、隊長さんはルクスさんに話し掛けた。
「全く、少し目を離したうちにいなくなりおって」
呆れた、とでも言う様に切れ長の瞳を細め、髪の毛を掻き上げる。他の人ならかっこつけてる様に見えるはずなのに、もの凄く自然に。
いやもう感心するしかない。
「それはこちらのセリフだよ。全く、どうして仮にも護衛隊隊長だってのに、俺が綿菓子を買うのに気付かないんだ」
「この人混みで気付けるか! 大体今はプライベートだろう!?
 何処にそんな緊張の糸を張っておく必要があるんだ!」
「何だって? それが女性をエスコートするときのセリフかい?」
「誰がエスコートしとるか!」
顔を真っ赤にして怒る隊長。ていうか、まず“女性”を否定しないのか!?
「もういい!
 殿下、ではそろそろ失礼させていただきます」
ピシッと礼をする隊長に、ちょっと戸惑った顔をしながらも「うん」エリックが返事を返す。
もう一度礼をして、それからルクスさんの手を引っぱって、隊長さんは人混みに消えた。
十数秒の沈黙の後、ふー、と誰からともなく大きなため息。
「今の、レコンだよね」
エリックの確かめる様な声に、
「そうです。いつも任務で見てますし、稀にですけど、髭剃った姿を見る事が出来ますし。
 あれ、確かにレコンさんです〜」
泣きそうな声でルイルさん。覆面の中は見ることが出来ないけど、どうやらかなりびびってた様子。
「いいなあ」
「へ?」
「俺もソフィアをエスコートしたいようー!」
そこに来るか貴様ー!
「なによそれ! エスコートってもっと違う祭りでするもんでしょ!?
 大体、するにしたって今の状況がそうじゃないの!」
「えー、でも俺がお金出すって言ってもソフィア断るじゃない」
「ちゃんと母さんから小遣い貰ってるから良いって何度言えば分かるのよ!」
そう言えばショックに打ちひしがれたって感じでよろめく。王子に金を貰えるかってんだ。
「あの二人だって結局ルクスさんが払ってるみたいだったじゃない」
「さりげなく隊長ってスリ・ピッキングをマスターしてらっしゃいますから」
ルイルさんが傍にあった木の後ろに隠れ直しながら解説する。
どんな隊長だよマジで。真面目そうなのに何でそんなことが出来るんだ。
「多分、あいつ過剰防衛の前科一つあるからさ。ブタ箱にブチ込まれた時にでも知ったんだろ」
エリックがよろめく振りで本当によろめいたようで、体制を立て直しながらいつものように教えてくれた。
有るのかよ前科! 多分、あの後父さんに教えて貰った、実直で曲がった事が大嫌いなんていう評判からして、何となくその原因を推測してしまう自分が悲しい。それで誰かと口論になって、あの熱そうな拳を一発かましでもしたんだろう。
・・・ん?
「エリック」
「何」
どうにかちゃんと立ってエリックが答える。
「あんた、昔の話し方に戻ってなかった?」
よろめきの所為か、祭りの熱気の所為か。昔の、“エリック兄ちゃん”の話し方だった。普通の町の男の子のような。いつからか、それはあんな巫山戯た喋り方になってしまったけれど。
「そう?」
不思議そうな顔で首を傾げる。けど、一五年ずっと付き合ってきた私には分かった。エリックの顔に流れた冷や汗と、宙をさまよう視線が。
問い詰めてやろうか。そう思うけれど、辺りから呼び込みの声が聞こえてくる。
今日は祭りだ。後で問い詰める事にしよう。
折角、今日を、楽しみにしてたんだから。



まずっ。
俺は冷や汗を押さえきれなかった。畜生、俺とした事が。十五年ずっと付き合ってきたソフィアにとってはそれぐらい容易く分かってしまうだろう。
文脈から分かるかも知れないが(誰にだろう?)、一応自己紹介を(誰にかは俺も知らない)。
俺の名はエリックザラット=ウィルクサード。十年程前からソフィア命の一八歳。
この国の第一王子だ。っていうか、王子は俺しかいない。そういう事もあってか頭は切れる方だ。でも、もっと切れる奴ぐらい他にも居るだろうに、何故か天才なんて呼ばれてる。まあそれだけの実力はあると自負してる。
今日は愛するソフィアと三年ぶりのこの祭りで、楽しみにしていたっていうのに、なんて事だ。
と思っていたら、可愛いソフィアは問い詰めはしない。
助かった。
どうして愛しのソフィアにそんな口調だったか。昔、自分で自分にかけた願の所為だ。
『これから一年以内にソフィアにエリックと呼び捨てさせる事が出来なければ、ソフィアと結ばれるまでこの喋り方にする。これはソフィアには絶対秘密!』という。
結局ソフィアが俺をエリックと呼んだのは一年と三日後だった。
阿呆な事をしたと思う。守ってる自分が馬鹿らしい。でも、もうこれは習慣だ。ソフィアのあの華麗なる(俺にはそう聞こえる)ツッコミを聞いていると、どうしてもそうなってしまう。
今は蹌踉めいた上に、祭りの熱気にあてられて元に戻ったけれど、ソフィアへの愛はいくらでも囁くが、そんな恥ずかしい事誰が言えるか。
それに、子供の頃必死で誓ったからだ。あの頃は約束を親が破ってばっかりで、ソフィアだけが支えだった。仕方のない事だったけど、その頃の自分への約束ぐらいは守りたい。馬鹿な事かも知れないけれど。
目をそらすと、チヨちゃんがゴミ箱にかき氷の入れ物を捨てているのが見えた。
「ソフィア、かき氷でも食べようよ! それぐらいは奢らせてね」
「あんた、今それ明らかにチヨの見て思いついたでしょ」
うっ! 流石は俺のソフィア、鋭い!
「まあいいわ。じゃあこれだけ奢って」
よっしゃ、どうにか誤魔化せそう。
ああ、しかし、普段着でもソフィアは可愛いのに、今日はまた格別だな。
着物とかじゃないけど、余所行きの水色のワンピースに茶の革もどきのサンダル。
可愛い。滅茶苦茶可愛い。あの色目ばかり使ってくる貴族の女共とは、同じ種族だってのに月とすっぽん。あ、でも比べるのはソフィアに失礼というものだ。
取り敢えずあたりをかき氷屋を捜そうと見回すと、ちょうどそこに一店あった。
「ぁ、あそこにあったよ。行こう、ソフィア」
まあちょっと混み合ってるけど、俺がレコンみたいに、ソフィアを見失うなんて事はこの夜店全てが明かりを消してしまってもあり得ない。しかしあのレコン、俺から見ても格好良かったな。なまじ素材が良いだけに。
あいつとは出会って二年になるってのに、あんなの見た事なかった。髭剃った姿なんて式典の時ぐらい。職業上あんまり時間を作れないし、いつも黒子ルックだから、人目を気にする必要はなかったんだろう。
ルクスも似合っていた。女だったらレコンとはお似合いだろう。ソフィアには敵わないけど。
ソフィアの手触りの良い腕を掴んで、その青い屋台に近付く。
ええと、ブルーハワイにレモン、メロン、金時、みぞれに、オレンジ、抹茶まである・・・っておおぅ!?
「イチゴがない!」
「あんたいい加減イチゴ離れしなさい!」
だってイチゴ美味しいんだよ。しかも切れてるとかじゃなく、元々から無いようだし。
「ああ、そうかイチゴが足りなかったんだ!」
納得するな夜店の人!
と、あれ?
「ダフィラシアス」
だった。その夜店の人が。
「よ、エリック。ちょっとここの人に、足りないものがあるから店番しててくれって言われたんだ。
 兄貴の友達だよ。グィアン=フォトンっていう人。いつもこの時期ここで夜店出すんだって」
「ダフィ、取り敢えずソフィアさんの注文取りましょう」
製氷器の所でカップを取り出しながらダフィの姉さん。しっかりしてて、俺より年下とは思えない。「さん」付けで呼ばせて貰おう。
「じゃあ、オレンジで」
すかさず注文する。ソフィアは子供の頃からずっとそれだ。
「何であんたが言うのよ。当たってるけど」
「ソフィアの好みはお見通しだもん」
伊達に十五年も付き合ってない。ソフィアが生まれた時は俺は三歳だったから、小さい頃もソフィアより覚えてるかもしれない。
ラフィアナさんが氷を製氷器にセットし、カップに氷を注ぎ入れ、一旦出してオレンジの液を掛け、そしてまた氷を入れてオレンジの液をかける。そしてスプーンを入れれば完成だった。
何処で覚えたのか、滑らかで手慣れた感じだった。
「上手いなあ」
ソフィアが受け取りながら呟く。
「昔、学校祭でやった事があるの。二日間ぶっ通しで、しまいには腕が上がらなくなったわ」
にっこり笑ってラフィアナさん。彼女の通うディルハント学院は一年に一度、三日間かけて学校祭を行う。大勢の観光客が訪れる、普通の学校では夏休みの初めにあるが為に殺人的なお客の回りで、儲かるのは良いものの終わった時にはもう皆くたくたになっているという。有名な話だ。俺はダフィラシアスがその二日間そこに行きっぱなしで、かなり不便だったから覚えている。この姉狂いが。
ま、とりあえず、それで鍛えられたんだから、そのうまさにも納得がいく。
それより早くイチゴ、来ないかな。ああ、あの甘い赤のシロップ、そしてキンと冷えた氷。王城じゃあトッピングだの何だの、余計なものが付いてる上に、健康に悪いとかであのクセになるシロップの味がしない。下手すりゃ毒入ってるし。暗殺者さんもご苦労なこって。まあ、最近はそんな事無いけど。いやあ、忠実な料理番を雇うのは難しかったなあ。
と、思ったら、チヨとフィラナルが、黒髪碧眼のなかなかのイケメンさんを伴って歩いてきた。
「ああ! 遅いですよグィアンさん」
「ごめんごめん。途中でダンスコンテストやってたもんだから、ついつい見ちゃって」
そのイケメンさんは俺に気が付き、少し表情を硬くする。が、それは一瞬の事。
「うわお。殿下じゃん」
「どうも。初めまして」
初めましてではないけれど、俺は取り敢えず挨拶する事にした。
グィアン=フォトン。赤毛に碧眼。本名、ディート=レンドルフ。元裏部隊隊長の息子である。偽名で生活しているとは聞いていたけれど、まさかここにいたなんて。
昔、生まれた時から暗殺の手練手管を叩き込まれ、暗殺のために育てられたが、普通の生活を望んだ変わり種。何を思ってか彼の父親がそれを俺に止めてくれと言いに来たから、会って話をした事がある。
でも別に俺には止める気はなかった。私情を持ち込む奴は嫌いだったから。
案の定彼の父親は失脚したらしい。それからの彼の消息は杳として知れなかった。調べてみるのも面倒くさかったから、一回調べただけだったし。そんな事する暇あったらソフィアに会うからな。
あの頃より数段表情は明るく、もはや普通の青年だ。フィラナルが知っているかは分からないけれど。
今回は色々な人に会うなあ。懐かしいし、機会があったら色々話してみよう。そう思う。
しかし、
「あれ? 王宮の中であった事ありませんか?」
隣に来たソフィアが首を傾げる。背筋が凍ったような気がした。
嘘だろオイ! ディートが王宮にいたのはソフィアが一二の時までだぞ!? 見かけたにしたって記憶力よすぎだ!
さすがは俺のソフィアなんだけど、ちょっとまずい。誤魔化す事にしよう。
「そう? 俺は見た事無いよ」
「そうそう。どういう風の吹き回しで平民の俺がそんな所にいるんだよ」
上手いぞディート!
「そうですか」
ソフィアがいまいち納得してない顔でかき氷を口に運んで食べる。やっべえ。後で事情話しとこう。ソフィアなら黙っててくれるはずだ。取り敢えず今は誤魔化しの一手。
「不満げな顔も可愛いよソフィア!」
「なによそれ! まあ、あんた一応王宮で働いてる人の、主な顔ぐらい頭に入ってんでしょ?
 そのあんたが知らないって言うんだから、そうなんだろうけど。
 失礼しました、フォトンさん」
別に、と笑いながらディートは右手のビニール袋からイチゴのセットを取り出して取り付ける。
「イチゴ!」
「子供かあんたは!」
「はは、まあなかなかこういうのは食べられないからな」
そう言うディート、いや、今はグィアンの隣で素早くラフィアナさんがかき氷を盛りつける。
俺はソフィアの分も含めた代金を払い、それを受け取った。
んでもって、口に広がる甘い味。
「やっぱ祭りの醍醐味はこれだねえ」
「そうか? でも、さっきのも凄かったけどな。亜麻色の髪に琥珀の瞳の奴が飛び入り参加したんだけど、相方の美人な銀髪の人とすっごい技ばっかくりだしてさあ」
て、ちょっと待てい!
「それって」
ソフィアが呟く。
「うん、思いっきりレコンだよね」
「やっぱりー!」
可愛い顔で叫ぶソフィア。
「あれ、何であの人の名前知ってるんだ?」
「護衛隊長さんだよ、殿下の」
フィラナル=テルブが解説する。因みに、一応腹心じゃないのでフィラナルは心の中では呼び捨てだ。政の場面では油断ならないし。ダフィラシアスと敵対することだけは避けていたというのに、あっちからわざわざそうしてきた事もある。そのフィラナルがチヨの為に家さえ捨てる覚悟だって言った時はびびったとも。

まあ、俺だってソフィアに対してそれぐらい思ってはいるけどな。・・・王家という忌まわしい身分を、捨てられるものなら。
「・・・ああ、そう言えばよく式典にいるよな」
少し間を開けてグィアン。どうも、何処まで言うべきか悩んだようだ。という事は、つまりフィラナルは知らないって事か? まあ、それが致命的な事にも繋がりかねないからな。
「でも、あの人マジで式典の時のおっさんか? あの、すごいブレイクダンスして、二位の商品のクーポン貰ってガッツポーズしてた奴が?」
「なんか相方さんがメイクしたらしい」
フィラナルの言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、考え込むグィアン。
「じゃ、俺たちはこれで」
ダフィラシアスとラフィアナさんが礼をした。
「じゃあ」
手をあげてラフィアナさんの手を引っぱり、ダフィラシアスはそそくさと人混みに消えた。皆の前でいちゃつくのは流石に気が引けたんだろう。うん、青春してるな。禁断の青春だけど。
もしかすると、前に何でか机の上に崩れ落ちた時の事も根に持ってるかも。あれ、本当に何でだったんだろう。まあ、いいか。
「じゃあソフィア、私達も別の所行くね」
そう言ってチヨちゃんもフィラナルと一緒に踵を返す。
「じゃあね」
ソフィアが手を振った。青の浴衣が見えなくなるまで。
「じゃ、俺たちも行こうか、ソフィア」
「うん。分かった」
ソフィアが頷く。手を握ろうとしたけど、あっさり阻止された。
ああ、早く俺の思いを受け止めてくんないかなあ。
て言うか、そんな事するたんびにますます惚れていくんだ。俺は。
人が沢山いる夏祭り。多分、テロの奴らもこんな時には仕掛けてこないだろう。そんな情報も入ってないし。
と思ったら、
「ちょっと待って、殿下」
グィアンが俺に声をかけた。何だって言うんだ、全く。
振り向くと、どうも代わりの人が来たらしく、屈強そうなおっさんが店の服を着込んでいる。対照的に、グィアンは服を着替えて駆け寄ってきた。
「俺もついて行くよ」
何でだよ。
不満げな顔をしてみせると、ショルダーバッグを背負って困ったように笑って、
「この祭り、やばいよ。父さんがなんか企んでた」
グィアンの父さん。つまり、元裏部隊隊長。そいつが何か企んでるって? でも、それをわざわざ何で言うのだろう。
「殿下って意外と自分が人気ある事知らないんだなあ」
どういう事だよ、それ。
「やっぱり、見た事ある」
ソフィアが顔を顰めた。
「そう。久しぶり。確か迷子になってたんだよね、君」
世間話でもするように言う。でも、その目は少しも笑ってない。
「殿下。本当だ。ディルカ伯の使いが父さんの所に度々来ていた。そして、今日もそいつがここにいた」
ディン=ディルカ。貴族の中でも大きな力を持っている。先日俺に自分の娘との縁談を申し込んできた奴だ。
背筋が自然に伸びてゆくのを感じた。




第六話 おわり


よかったら感想をどうぞ。無記名でも大丈夫です。

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