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式場のナルシスト?

〜救出、解決、衝突、事実〜

1.エリック達、救出さる

「さて、俺がどうしてこんな事になったかというと、ひとえに昔罹った病気のおかげと言っていいね。
 病気のせい、とは言わないよ。なにしろ自分の喩えようもない美しさに気付く事が出来たんだから!
 そう、あれは母もいない、父もいないある日の事だ。連日の検査のおかげで俺の不安と孤独は極限に達し、なにかに縋り付かねばならなかった………!
 丁度雷鳴も轟きだし、暗闇に光が差しては暗闇に。
その大きな音のせいで俺は召使いを呼ぶ事は出来なかった……!
 ああなんて哀れな俺!」
ナルシストさん(仮名)は。明らかに自分に酔った仕草でキザに髪を掻き上げると、紅の絨毯に礼服を脱ぎ捨てる。
薔薇模様のスーツがその下から現れた。
しかも意外と似合っている。
「そう、俺が救いを見いだしたのは…丁度ベッドから覗く事が出来ただった!
 そして、その鏡に映る自分が、とても美しい事に気付いたんだ!
 元々鏡に話し掛ける事が好きだった俺はその時、はっきりと自覚したのさ!
 俺は自分に、喩えようもない程のを注いでいると………!」
ここまで話が発展した時に、混乱を通り越して襲ってきたのは脱力感だった。呆れとも言った方が良いかも知れない。なんというか、がくー、という擬音が似合いそうな気分。
だがそんな事はお構いなしに、ナルシストは勝手に話を終了させ、さて、とか言ってつかつかと結構な早さで問題の恋人達に歩み寄り、
「で、どうして君は花嫁をかっさらっていかないのかというのが疑問だねえ。
 何が君をそうさせるんだい? 全く面倒くさい」
なんて図々しい事を言って首を傾げる。
お前だよお前。お前が混乱させるからだよ。
そもそもあんただろう、面倒くさいの。
それでもその言葉ではっ、と気付いたようにダフィラシアスは立ち上がり、こちらに駆けてこようとする。
ラフィアナさんの動きがどうも不自然だ。
ぎくしゃくぎくしゃく、まるで病気で体の自由が利かないよう。
……まさか。
背筋を冷たいものが走ってゆく。それと共に、ラフィアナさんの姿から広がる確信。
彼女は、薬を盛られている。
ぞくりとした。
いくら貴族とはいえ、これは――あまりにも常軌を逸している。
自分達の娘なのに。
ここまで育つまで、大切に育ててきたはずだろう?
なのに。どうして。
ラフィアナさんを支えようと、駆け出そうとした俺の後ろに、いやな気配がした。
そして、その瞬間に、ダフィラシアスを中心に、ルパートすらも囲むようにして、テルブ家の紋章と、セイル家の紋章を服の形に刺繍した兵士らしき奴らが現れる。
「んな……っ」
さっき倒したのとは別の者達。こんな風に囲まれては、俺の護衛も手が出せない。しかも結構な手練とみた。
「申し訳ございません……殿下。
 ですが、どうせ終わりならば、もがくだけ、もがきます」
テルブの当主であるダフィラシアスの親父が、ルパートの後ろの者達の、更に後ろから静かに告げる。
狂気の声。背筋がぞっとする。
「おやおや、こんなに人が。
 嗚呼、俺の魅力が恐ろしい!」
「言ってる場合か、ルパート=セイル!」
そのやり取りの間にも、俺達を囲む輪は狭まっていく。
それでもダフィラシアスとラフィアナさんは決然とした表情だ。
ルパートは、脳天気な顔。
「ルパート。どうしてです? お前は、私達が手塩にかけて育てたのです。
 どうして家の名を汚すような事を?」
女の声。多分ルパートの母親。
表面上はルパートを心配しているように聞こえなくもないが、それは明らかな自己弁護で、ルパートとは別の意味で自分に陶酔しているような気配すらする語調である。
自分をかわいそがっているだけ。哀れに見せかけたいだけ。
『こんな子供』に『手塩にかけて』育てた自分を、非難されたくないだけ。
「汚すってなんだろうな?
 俺は自分が汚れたとは思わないしねえ。
 俺はこれで完璧。今の状態で完成済。ああ、でも未完成な魅力もあるよ?
 それに、俺はお前に手塩にかけて育てられた覚えはないよ。病気の時も放ったらかしだったろう?
 覚えがあるとすれば、そう――」
にこり、とルパートが笑う。
「お前に先日、血が繋がってないからと性的虐待を受けそうになった事だねっ」
辺りの空気が凍り付いた。
ルパートが全く笑っていない目なだけに、今言った事が真実であるか分からない。
薔薇のスーツが醸し出す変な雰囲気。それすら覆い隠す迫力がある。
ただのナルシストじゃないって事か。
「まあ、俺の魅力もここまで来ると危ないよねえ」
そういう話じゃないだろうとは思うけど。
その間に、また兵士が一歩踏み出した、その時。
ルパートが振り向き、テルブの当主を見た。
見ると、テルブの親父が、ルパートの脱ぎ捨てた服を手に持っていた。
何気なく拾ったのだろう。だが、それがどうしたというのか。
テルブの当主が、それに目をやった途端にルパートは叫ぶ。
「『召喚。ただひと時、貴方を呼んで、我が身と心を預けよう』」
その言葉を俺は聞いた事があった。いや、最新の警察情報を知っているものなら、誰にでも分かるだろう。
ピン、とその服がいきなり床と平行に広がって真っ直ぐになる。
それと同時に浮かび上がる、赤く光り輝く魔法陣。
「――『サリフ=ディルジオ』!」
テルブの当主が避ける暇もなかった。

トレンチコートの青年が一瞬にして魔法陣の上に姿を現し、そのまま空中で強烈な回し蹴りを当主の体に叩き込み、床に着地する。

「テルブ家当主――フォルティン=テルブ!
 長男及び執事に対する監禁罪、及び暴行未遂、緊急特例不敬罪により、貴殿を逮捕する!
 この教会は警察によって完全に包囲されている!
 他の者も静止し、手をあげろ!」
言うなり、輪の外の人々の上に魔法陣が五つ現れる。
いつでも攻撃できるという、意思表示だった。


2.事件、一応の解決をみる

教会を出ると、周りの緑がとても綺麗なのに改めて気が付いた。
この教会は確か、森から半円を削り取ったような所に立てられていたのだったか、と思い至る。
足元には草。瑞々しく光っていた。
今まで色々とあって、それに気付けていなかったらしい。
人の主観ってこんなもんなんだよな。
そして、俺の主観において最上の価値を誇ってくれる少女が視界に。
「エリック!」
ソフィアが安堵の笑みを浮かべながら駆けよってくる。
それを受け止めて抱きしめると、とても良い匂いがした。気持ちいい。
ああ、このままずっとこうでいたい、いや寧ろ押し倒し……。
……はいすいません。俺も男なんですよ。
「ったく……。
 今の家庭ってのはどうなってんだ?
 仮にも息子を監禁なんてよ」
「いつの時代にも病んでいる奴はいるのさ! 俺のようにね!」
「自覚ありというのは得てして病んではいなかったりするもんだろ。
 あんたはまだましな方」
トレンチコートの刑事……確か、サリフ=ディルジオといったっけな。そいつとルパートが、連行されていく人々を見つめながら、会話を交わす。
セイル家の当主の妻は何やらぶつぶつ呟いて連行されてゆく。
「ああそうそう。殿下、さっき俺が式場の中で母に関して言った事は真っ赤な嘘。
 ああでもしないと、もともと拾いたくなるよう誘導する模様が描いてあったとはいえ、無意識のうちにあのバカ当主がうっかりサリフの召喚魔法陣付きの服なんて拾う事なんてないと思ったんでね」
来い来い、とばかりに手を振りつつルパート。
やっぱり、あれは魔法捜査官用の魔法陣だったか。
「……じゃあディルジオさんとそこのナルシストっぽい人は知り合いね。
 だってあれ、特定の個人しか呼び出せないでしょ」
ソフィアが俺の後ろに隠れつつ、俺の背中を押すようにしてルパートに近付く。そりゃあ年頃の女の子としては、こんな不審な格好の男に近付きたくはないだろう。
……でも俺を近づけるのもやめて欲しい。誰だって苦手だろ? この人。
「ナルシストっぽい人とは失敬な。俺は生粋のナルシストさ」
そっちもそっちでそんな答えを返すな。
「まあいい、お答えしよう。
 そう、あれは我が母校の入学式の事だった……」
「知り合いだよ。まあ、友人といっても差し支えは多分無い」
「人の話を遮らないでくれないか」
「長くなるんだよ」
ピシャリとサリフ=ディルジオがルパートの言葉を遮った。
……んん?
サリフ=ディルジオ。どっかで聞いた事がある。
そう、確か、書類。何かの書類の中で。ウォルア王国の紋章が着いていて、枠線は薄紅色。
騎士団関連。ギザ線は、うちの護衛隊のもの。
……入隊前の、レコン=ブラックの調査書類!

「……ああ!?
 レコンの親友の!?」
「へえ、そこまで知ってるのか? 凄えな」
その刑事が感心したようにふんふんと頷くと、薄い茶髪が鮮やかに揺れる。
よく見ればレコンと良い勝負なぐらいにいい男である。
スッと整った精悍な顔つきに、鋭そうだが意外と穏やかな黒の瞳。肌の色はほんの少しだけ薄めだ。
来ている薄めのトレンチコートもよく映える。
俺が十八歳になっても身につけられなかった大人の魅力という奴かなにかが放出されている感じ。
だがどうも刑事には不釣り合いな、少し浮世離れした感じが、鋭そうな気配に混じる。
その『浮世離れした感じ』というのも、少し他とは変わっていて、変人そうとかではなく、なんというか……そう、自然の中で歌っている吟遊詩人、という形容がぴったりくる。
これがレコンの親友か。もしかすると、『戦う者』というあだ名を付けた奴かも知れない。
そう思うと思わずまじまじと見つめてしまうが、あっちもこっちをじろじろと見てくる。
「へー……これが『殿下』か」
逆に珍獣でも見物するように、穴が開きそうな程見つめられ、少しだけ後ろにさがる。
「あぁ、悪りぃな」
それに相手も気付いたらしく、スッと視線を逸らし、別の方向を向いた。
その瞳が、次第にとろとろに優しさで溶けてる感じの色を醸し出すものだから、そちらを俺も向く。
「サリフさん……!」
ルイル=スィルクが、負傷した隊員の病院への送り出しを終え、一目散にサリフめがけて駆けてくるところだった。
……なんか、『女』全開で。
因みに、ルイルは女だ。いつも男の振りをしていたが、あんなあからさまな女顔の手前、すぐ分かる。
でも男並みに役には立ったし、副隊長補佐だし、それ以上追求せずにいたんだが。
どうもこれは、なんかありそうだ。
少し混乱する俺に、ソフィアが背後から告げた。

「……あの人、ルイルさんの婚約者なんだって」

ああ、成る程。
……って、ええ!?
「な、なにそ」
れ、と言おうとした所で。
「この、テルブの恥さらしが……!」
今や犯罪者となったテルブ家当主の叫びが聞こえてきた。


3.テルブ家の人々、衝突する

捜査員の手を振り切り、テルブ家の当主が殴りかかったのは、自らが監禁していた長男だった。
愚か者にも程があるな、おい。
俺、サリフ=ディルジオはさくさくと草を踏みしめつつ、二人に近付く。
ただならぬ雰囲気に、捜査員は傍観を決め込んだらしい。その代わり録音の準備はしっかりしている。
まあその方が証言を取りやすいだろうが、つくづく図太いな、と思う。
「お前が、お前が……全部、台無しにしたのだろう!?
 ダフィラシアスにもよからぬ事を吹き込んだんだろう!」
顔を真っ赤にして怒鳴る当主。見苦しい。
フィラナルはその点冷静だ。
「フォルティン=テルブ卿。あれはダフィラシアスの意志です」
……ああこりゃもう終わりだな。父を名前で呼ぶとは。
しかし俺も冷めているなあ。
まあいい、とりあえず、タイミングを計って止めに入るか。
「お前は……っ!
 あの平民の小娘か!? あの娼婦の所為で、そんな口を叩くようになったのか!?」
名誉毀損カウント1。
だが、この一言でフィラナルの表情も変わる。
その気持ちはよく分かる。俺も、もしルイルにそんな事言われたら烈火の如く怒るしな。
「…なんだって?」
「あの平民の娼婦がお前を誑かした所為で、お前は私の言う事も聞かなくなったのだろう!?
 ダフィラシアスとラフィアナの関係も唆して……!」
「黙れ、このハゲ。人間失格の寄生虫が」
鬼のような形相で、父親を息子が睨む。
「寄生虫だと……!?」
「ああそうだよ。たいして位も実力もないくせして。俺達の働きで今の家が保たれているようなものだろうが」
「何を言う!」
欺瞞と間違った自信に溢れた醜い塊が癪に障る声を張り上げる。
その目には息子への理解は無く、自分の名誉や恥のみへの関心が映っている。
貴族としての『責任』を背負っているつもりなのだろうか。昔の考え方、間違った責任感。そんなものが、妄執と欺瞞となっているのかも知れない。
ましな方な貴族だと調べた結果はなっていたが、やはりそういうものなのか。
まあ、そんな事に囚われる可能性があるのは貴族だけじゃないと、俺は経験で知っているけどな。
それに対して、若く、普通の娘を恋人にするぐらいには柔軟な考え方をしているらしいフィラナルは、自分の状況を大方冷静に判断している風ではあるが、顔は紅潮し、その瞳には何故か憎悪が浮かぶ。
なんか深刻な家庭事情がある様子。
「お前なんかに分かるかよ。
 僅か6歳の誕生日に、両親の浮気を知らされた俺がどんな気持ちでいたかなんて……!」
フィラナルも叫び返す。
浮気…なあ。確かに辛いだろうな。しかも両親とも浮気したようだし。
俺の場合、6歳頃親は俺を奇妙な物を見る目つきで見るばかりで、浮気どころではなかったんだが。
ああ、でもその頃度々他人の浮気を指摘したっけ。聞こえたから。だから、親に不当な迷惑がかかったのだろう。
「浮気などしておらん!」
虚しい足掻きを続ける当主。
だが、なんというか……妙だ。
確固たる自信。自分の記憶に違いはない、そういう自信が瞳にある。
だが、その自信は奇妙に妄執に取り憑かれている気がする。

『それ』に逆らい、認めず。いいや、『それ』こそが『それ』に逆らっていると認めない。
それを認めない。いいやそもそも知らない。知ろうとしなかった。
幻を現に人は変える事が出来る。
ただし頭の中でのみ。
頭の中での現が、それが幻となる現に露見した状態を人はなんと呼ぶか。

――狂気。

「……え? ちょっと待てよ、父さん……」
この二人は、止めるべき時に止めなければならない。
「浮気をしていたのは妻だけだ!」
「ま、待てよ! ラフィアナは確かに母さんが産んだけど、ダフィーは違うだろう!?」
「何を言っているんだ? ダフィラシアスは確かにロディアが産んだだろう?」
「……!!??」
父親が狂っている事に気付いたのか、フィラナルが混乱し始める。
それはそうだろう。
自分が思っていた事実を、父が違うと言い張るのだから。
けれど、テルブ家の当主は明らかに何処か静かな狂気に堕ちている。
そうでなければ、こんな事で実の息子を監禁などするものか。
「人は、偽りを真にする時がある。惑わされるな」
思わず口から零れた言葉に、フィラナルがこちらを向く。
「止めろ!」
母親は先に連行されている。それが唯一の幸いか。
捜査員が俺の号令に従って父親に飛びかかる。
これはどうも、かなり後味が悪そうだと思った。
最悪だな。
ああ、早くルイルと笑いあいたい。

――うたを、うたいたい。
脈絡もなく、そう思う。
昔から、そうだ。こんな時、突然そう思う。
そうすると大体は、とても気が晴れるから。


4.フィラナルとルパート、事実を明かす

いきなり脈絡もなく、サリフの浮世離れした気配が強くなった。
風がまとわりつき、草は揺れ、その一部のように、真理のような佇まいで、そこに在る。
唄でも詠い出しそうだ。
多分それがサリフ=ディルジオという男の本質なのだと思う。
ま、だからといってどういう事もないが。
しかし、あのやり取りを見るに、変な事情がありそうだ。
……多分それが、ダフィラシアスとラフィアナさんが似ていない原因。
「……どういう事? つまりあの姉弟は……血が繋がってないのよね」
テルブの親父さんは信用できなさそうだし、とソフィアが俺の後ろから横へ移動してしげしげとサリフの歩いていった方を眺める。
ソフィアも人の子、好奇心を抑えられないのだろう。
そういえば昔からそうだったな。
どうしてエリック兄ちゃんは魔法を使わないの、と聞かれた時、戸惑ったのを覚えている。
「ねえエリック、そっとしておいた方が良いかな」
それでも俺の袖を引っ張って聞いてくる。
可愛い。そして、優しい。ああ、ソフィア最高!
……っと。今はそんな事を考えている場合ではないみたいだよな。
テルブ家当主が引きずられ、警察車両(ちなみに魔力で動く)にぶち込まれる。
呆然とした様子のフィラナルが、それでもサリフの差しだした手を取り、しっかりと立ち上がる。
そしてサリフに礼をし、その手を離して草を踏みしめ、俺達の方に近付いてくると、俺にぺこりと礼をした。
…多分、見苦しいものを見せて済まない、という事なのだろう。
ダフィラシアスが、手当てをしてもらっているラフィアナさんをおいて、フィラナルに近付く。
そのままフィラナルに合流すると、二人で俺達の方を指し示して何か話している。
どうしたのか、と思っていると、そのまま二人がこちらへ歩いてきた。

『貴方はダフィラシアスの上司です。ですから、俺の話を聞いておいて下さい』
話は、それから始まった。
取り敢えず俺は一応口を挟まずに、話を聞く事にした。

*

貴方はダフィラシアスの上司です。ですから、俺の話を聞いておいて下さい。
はい、じゃあ……。
え? チヨはどうしたかって? ソフィアさん。
俺と会った後、泣き疲れて眠ってしまいました。可愛いですよねぇ……。
……うん、分かった分かった。話しますって。

俺・フィラナル=テルブが生まれ、二年が経過した頃にはもう父と母の仲は悪かったんです。
結婚していて、同居しているとはいえ、俺の前以外では離婚しているも同然。
両親が隠していても、それを肌で俺は感じる事が出来ました。
子供は敏感ですよ。4,5歳の頃には両親とはそういうものなんだ、とか変に解釈してましたしね。
あの頃程他の子供が羨ましかった事はないですよ。
で、それとは別に、家の中じゃあ暇でした。父と母は色々用事があるとか言って、パーティーや浮気に精を出していました……そう、今から考えれば浮気だったんですよね、あれも。
因みに母なんか、五ヶ月家を空けた事もあるんですよ。
だから兄弟がいればいいなあ、とか思ったんです。
で、六歳の頃ですね。
誕生日です。俺の。毎年祝ってました。
その時、父に、弟が欲しいか、って聞かれたんです。
うん、と答えました。
母には、妹が欲しいか、って聞かれたんです。
うん、と答えました。
その頃から少し両親の関係は良い方に向かってきていました。
だから、兄弟を産んでくれるのかなー、とか思ったんです。
ええ、その知識はあったんですよ。コウノトリやらの伝承をいつまでも信じるわけにはいかないんで。
……で。
俺のお披露目の日、つまり社交界デビューの日でもある誕生日パーティーの日、父は連れてきたのはダフィラシアスでした。
母が連れてきたのはラフィアナでした。
それで、他の招待客達に二人をお披露目したんですよ。今まで大切に育ててきた、息子達です……と。
兄弟三人、本当に、仲が良いんですよ、と。
………あの時が、大人の恐ろしさを初めて本当に実感した時でした。
それで、俺は察したんです。
ああそうか、ダフィラシアスは父と愛人の子で、ラフィアナは母と愛人の子。俺とは半分ずつしか血が繋がっていないのだな、と。
だってそうでしょう?
俺を抜けば二人は本当に似ていない。まるで他人だ。
それに、自分の本能的な勘とでも言うべきものがそう告げている。
ですから、そう確信しました。思えば一番長い間母が家を空けた時、母は出産をしていたんですね。
父の執事に尋ねてみた所、そうです、その通りです、と答えが返ってきました。
ああ、その執事は俺と一緒に監禁されました。レコン=ブラックさんの母方の伯父らしいです。
ブラックさんの母、つまり彼の妹の事でずーっと父を恨み続けていて、だから俺には全面的に協力してくれました。
でも、いくら調べても浮気相手は分からなかったそうです。
まあ、どうでも良いんですけどね。
そうしてその後、両親の仲が再び良くなりまして。
そのまま今日に至る…と。

ですから。
ダフィラシアスと、ラフィアナは、血が繋がっていないのです。
そして俺は、最早両親を両親と思えないのです。家族愛がこれっぽっちもないかと言えば嘘になりますけどね。

……これで、話は終わりです。
ありがとうございました。
え、礼を言われる筋合いはない?
いやいや。
だって、誰か、俺とダフィラシアスの他にいた方が、落ち着いて喋れたからですよ。

*

「俺とダフィラシアスの他にいた方が、落ち着いて喋れたからですよ。
 ……ああ、すっきりしました。
 では!」
手をあげてそのままチヨが寝ている所へ行こうとしたのか、踵を返そうとしたフィラナルの方をダフィラシアスが素早く掴む。
「……兄貴?
 なんでそんな重要な事を黙ってたんだ?」
「……いや……その、だってお前達可愛くって。
 半分しか血が繋がってない、ってばれて今の関係が壊れるの、嫌だったんだ」
「で、俺とラフィアナは不毛な恋に悩む羽目になったってか?
 そりゃあちょっとはおかしいとは思ってたけど……あの苦しみはそれで済ませられるものじゃねえんだよ!」
おお、ダフィラシアスのマジ切れ。
久しぶりだなあ。前見たのいつだろう?
しかし本当にラフィアナさん関係では余裕無くなるよな。俺もソフィア関連じゃ人の事言えないけど。
「でもほらお前、仲の良いあの人達しか知らないだろ。
 知らされたらショック受けてたろ。
 十五の思春期より、意志の固まった成人だろ」
「……て、め、え、はー!」
ダフィラシアスが怒鳴りだす。でも、その中にちょっとだけ喜びも混じる。
興奮しているようだ。
「ごめん、実はどうせなら俺がチヨとの恋を成就させるまでお前達くっつけるもんかー、とか考えてみたりして……」
「今更本当の事を行っても遅いんだよ……!」
そのまま、ぎゃーぎゃーわーわー喚きながら、二人は遠ざかっていってしまった。
俺に今度は気を遣ったらしい。
「……一体何だったんだ……」
深刻な話だと思っていたのに、結局兄弟喧嘩ですか、最後は。
いや、結婚式をぶち壊した事を後悔はしないけどさあ。
まあ、仲が良い……って事かな、うん。
と、後ろから突然声がした。
「俺は元々から知っていたよ。
 ラフィアナ=テルブとダフィラシアス=テルブは姉弟ではない、という事を」
「……えっ?」
俺と、ソフィアが声を上げた。
「レコン=ブラックにテルブ兄弟の毛髪を送りつけられたんだ。彼等の名前と一緒に。
 どうもこの三兄弟は変だ、調べてくれ、ってね。俺は魔導実験サービスで稼いでいるから、それを調べるかはお茶の子さいさい。
 多分レコンは調べた後殿下に報告するつもりだったんだろうけど、その前に俺は君達の事を調べた。
 それがあの母に見つかってね。
 俺がラフィアナ=テルブにそういう興味がある、と思いこんだ母が、今回の話を進めてしまった。
 それが今回の顛末の真相」
肩をすくめた、ルパートの言葉。
レコン、が?
調べてくれ、って……。
俺に、黙って。
そしてそれが、この件に関わっている。
「……マジ!?」
「マジ」
すとん、と胸に何かが落ちる。そしてグラグラと胸が揺れる。
なんか混乱するんですけど、それ。てか、吃驚してます俺。
「殿下? どうしたんだい?」
ルパートが聞いてくる。
「レコンが勝手にそんな事をしたって知って、ショックでも受けてるんだろ。
 殿下の役に立つ事以外をあいつがそんな形でするとは思わないけど、やっぱびっくりするだろう。
 余程殿下はレコンに信頼を寄せていると見えるし」
答えたのは俺ではなく、いつの間にか歩み寄ってきたサリフだった。
そのままサリフはルイルを抱きしめる。
「まあ、俺がこの件に関わったきっかけも、俺がレコンの家に忘れ物を届けに行った事からだしな。
 何処かでレコンが関わってた、ってわけだ」
「サ、サリフさん……? それじゃ、レコンさんが全て仕組んだって事ですか……?」
淡々と続けるサリフの腕の中で、ルイルがサリフの顔を見上げる。
「いいや。
 おそらくは、調べものやらで役に立つルパートを関わらせる事が目的だったんだろう。
 後はただの『運』だ。
 しっかしルイル、お前は本当に気持ちいい」
運。それはとても不安定なはずの言葉なのに、不思議と安定しているように聞こえる。
しかもどうしてか、サリフの声は不思議にリズミカルだった。
聞いていて自然に耳に入ってくる響き。たとえ内容がどんなモノであっても。
「俺の方は…レコンの行動が意図的といえば意図的だったかも知れない。
 けど、俺が忘れ物を届けに行った時、偶然騎士団の寮で相手方の者と接触できるかは最早『運』だ。
 ……いや。もしかすると、奴の伯父が全て仕組んだかも知れない。レコンがルパートに相談した事を知って、わざと俺が接触した奴と遭遇させたのかも知れない。
 けれどこれも推測の域は出ない。
 その全てがレコンの『運』だ」
あいつは運が良いだけなんだよ。
そう言って、サリフはルイルに軽く口づける。勿論唇に。
……俺は、吃驚したままなのに。
「……レコンの休暇はいつまでだ」
サリフがルイルの唇から顔を上げて聞いてきた。
「あ……明日の午後に業務につく」
「ならもうこの街に戻ってるな。
 七時までに南、西の大通りを一通り歩いてみろ。
 その中で、レコンはたとえ人混みの中でも二十歩の距離で目に付く。
 それを見てみればちょっとは分かるだろうよ」
だから、殿下。行ってみると良い。
サリフはルイルを抱き上げながらそう言った。
ルパートは、ふむ、と頷くと何処かへ歩いていった。
俺は驚きの中、そこに立ちつくす。
「……エリック?」
少し経って、ソフィアが気遣いの声を上げた。
俺はハッと我に返った。
「ぁ、……ソフィア」
「なんか色々あるみたいね」
「うん」
気が付いたらもう夕焼けに空が染まり始めていて、ソフィアの頬が赤く染まっている。
「取り敢えず、あの人が言った通りにしてみましょ」
グイ、と手を引っ張ってソフィアが街へ、大通りへと歩き出す。
「え?」
「警察の聴取はまた後日で良いわね。
 だってエリック、あんたが本格的に吃驚するの、結構珍しいわよ」
ソフィアは俺と同じく街の方を向いていて、顔が見えない。
「ソフィアに関しては日々愛しさに驚くよ?
 ラフィアナさんが、薬を盛られてた時も……」
本気だ。というか、今までソフィアに囁いてきた言葉は殆ど本音だ。
だってソフィア、可愛いし。愛しいし。俺のにしたいし。
「そういうのじゃないわよ。……そうか、彼女、薬を盛られてたのね。でもその前によ。
 気になって、吃驚する事だったんでしょ。で、私も気になるの。
 さあ、行くわよ。さっさと付いて来なさい!」
ソフィアが俺を容赦無く引っ張る。
そうだよな。気になる事は確かめなければ。
なにより、ソフィアに俺を引っ張る労力はかけたくない。
俺はそう思って、足に力を入れた。



第三話:式場のナルシスト? おわり
第四話:信頼という絆 に続く

よかったら感想をどうぞ。無記名でも大丈夫です。

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