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花嫁をかっさらえ!(後編)

〜別の世界を生きる男〜

花嫁をかっさらわれた新郎はどうするか。
顔を赤くして追いかけてくるか、逆恨みをいつまでもし続けるか。はたまた、何か非情な手段を用いてくるか。
もしくは……


1.或る男、救出を終了する。

差し込む朝の光が眩しい。
案外時間がかかったな。結局この中の奴らにも見つかっちまったし。
それでぶち込まれた牢屋じゃあ仮眠を取れたけどな。
しかし、大分魔力をくったなあ。やっぱり全員倒すのは骨が折れたよ。
「おっし。やっと外に出れたな。大丈夫か、フィラナル=テルブ。それに、ディルおじさん」
「……あんた、一体何者だ」
監禁されていた黒と青の色が混じった瞳に濃いめの茶髪の、それなりにいい若い男が目を細めながら、少々警戒した様子で聞いてきた。
「ただの刑事ですよ? フィラナル様」
あえて丁寧に答えてみる。
男の傍らに立つ、ここで執事をやっているらしいあいつの伯父が礼儀正しく続けた。
「ただ、かなりの腕前の魔法使いでもあり、異常聴覚の持ち主でもあるだけです」
「……ただの刑事じゃないだろ、それ」
「そうですね。でも、私の甥の方が若干強烈ですからねえ」
うんうん。あいつの方が凄いって。
「答えになってないって。それに若干強烈ってなんだよ」
納得しない顔なので俺があいつの名をあげると、ぴしり、と男が一瞬固まる。
そして瞬時に色々理解した顔になった。けれどそれと共に、湧いてくる疑問もあるらしい。
それに答えるのも面倒なので、俺は少し大きめの声であたりに声をかけた。
「いるんだろ? お前達」
はい、とか、おお、という声が響いて、周りの茂みや曲がり角から十数人の部署の仲間が出て来る。
「さてと。この事件、色々ありそうだ。どうする」
「犯人を捕まえるのが我々の仕事でしょ」
声をかけると、同期のマリーナ=スティアが一歩進み出て答える。
「あー、また先に格好いい所をー!」
後輩のダンの声。
「逮捕状は、いつもの通り事後承諾だな」
と古株の先輩。

人員は揃った。後は準備を整え、行動するだけだ。


2.新郎、微笑む。

「そんなに緊張してはいけませんよ、ラフィアナさん」
控え室で、新郎であるルパートは白い壁を背に、どこかぎこちない動きのラフィアナに声をかけた。
琥珀の髪に緑の瞳。
その容姿はエリックと同等な程に美しい。
ラフィアナはまた、ぎこちなく頷く。
その顔は奇妙に無表情だ。
「………」
ルパートは目を細め、一言。
「結婚が嫌なんだね」
ビクリとラフィアナの体が震えた。
それからルパートに向けられたのは、強い意志の瞳。
それが、嫌だ、とはっきりと告げている。
だが、その体も口も、不気味な程に静まりかえっている。
なんだそれは、とでも言うようにラフィアナの傍にいた従者が怪訝な顔で二人を見つめた。
ルパートが更に口を開こうとした時、
ラフィアナの侍従が、左手に水の入ったコップを、右手に黒い錠剤を持って部屋に入ってきた。
「……ちょっとしたお薬です。今日は体調が優れないようで」
その侍従はそのままラフィアナの口に錠剤を落とし込み、水を流し込む。
端から見れば、どうにも強引な所作であった。
ルパートは、黙って微笑をその顔に浮かべながらその光景を静かに見つめていた。


3.エリック、つらつら考える。ダフィラシアス達、開始。

ウォルア王国で信仰されているのは、主に『先祖』『天使』『五神』である。
これは一番北の大陸を除く他の三大陸も大体一緒だ。
この世界には歴史にも連続する、大きな伝説があり、それをもとにしている為、これらの信仰は同時になされていると言っていい。
因みに太古の世界誕生からの神話はそれとは別物。土地によって違いがありすぎる。
だが、不思議とその後の『天使』や『悪魔』がいたという時代の伝説は全ての大陸においてほぼ同じものなのだ。
精霊王より更に上にいる、五柱の『神』を中心にした神々もそれに絡む。
しかもどうやらそれの一部は本当の事らしい。なにせ、今でも天使や悪魔の血が入ったものはいて、実際に生活している。てか、エリックの血筋にもその血は入っている。
あまり公表される事はないが、背に翼を生やして、おじさん(王様)が飛ぶのを私もエリックと遊んでいる時に見た事があるのだ。
その翼は確かに綺麗ではあっても、伝説のような神々しさはなかったけど。
それからの伝説は各大陸、土地によって違うけれど、それは国々によって歴史が違うのと同じ様なものだ。
ウォルアにあるのはウォルア建国王、ルキアスヴィサードとその周辺の様々な英雄譚で、天使や悪魔も、稀に神も絡む。
それも嘘と真実が入り交じっているらしい。
とにかくその伝説を元にして、その信仰は生まれた。
その伝説は今まで語り継がれる程に、印象に残り、魅力的な部分もあったからだ。
人々はそれに憧れ、いるかも分からない登場人物がいる中で、彼らに、まるで神にするように祈り、願い、誓うようになった。
『天使』は伝説の天使を中心とした信仰。
『先祖』は伝説の英雄達を中心とした信仰。
『五神』は五柱の神々を中心とした信仰。
『先祖』というのは語弊があるかも知れないけれど、私は昔、エリックが夜伽代わりに伝説を話してくれた時、その呼称を使っていたのでそう呼んでいる。
そして我が王国では、建国王ルキアスヴィサードの伝説のおかげか、『天使』と『先祖』の信仰が盛んだ。
どの人(天使)物を信仰するかは、色々と宗派によって違うらしいけれど。

その中の一つ。
『愛と人格』を司るとされている天使への信仰を主とする教会が、今回の式場だった。結婚を誓うことを担当する事を役割の一つとするもののうちの一つだ。
その天使、レミエルは伝説を正確に読み解けばただの捻くれた鈍い女のような気がするのになあ、とエリックが言っていたけど。
とにかく近くの茂みから除いてみると、町の外れにあるその建物は、典型的な教会の形をしていた。
白くペイントされた小さめの建物。けれど、『新郎』と『新婦』の親族を収容するには十分だろう。
私は前で話し込んでいるエリックとテルブを見やる。
テルブ案の定緊張した面持ちで、けれど瞳には決心が滾っていた。
「大丈夫か」
エリックが一応、といった様子でそう声をかけた。
「ああ」
そして二人とも、あの建物に視線を向けた。
あの中でこれから、信仰とは名ばかりの、様々な思惑の渦巻く儀式が行われる。
私は男二人の後ろでチヨに付き添いつつも、出来るだけあたりに気を配り、作戦を記した紙に目を通していた。
私はもしもの時の緊急要員。ダフィラシアス達が時間になっても戻ってこなければ、エリックと共に即座に警察への通報及び残りの護衛隊を連れて助けにくる。
エリックも少しはあそこに近付くから、その為の保険の意味もある。
……という事になっているけれど、本当はチヨが納得させないとじっとしていられないという様子だったので、エリックが仕方なく私と一緒にチヨを連れてきただけだ。
でも、できるだけの努力はするつもりだ。
因みに、警察に手は回してあるものの、やはりちゃんとした証拠がないとなかなか動けないらしい。
エリックが第一王子だからといって、強硬な事も出来ないし。
だって証拠がない。ないったらない。
エリックだって職権濫用をするときとしないときのケジメはつけている。
ただ少し、今の状況を情けなく思ったりはしているみたいだけど、そんな事はないと思う。そういう制限は必要な事だ。
準備が出来たと、ルイルさんが報せに来た。
これから警備をかき分け、エリック達は式場へ突入する。あらかじめ警備員の中にも数名、隊員がいる。
エリックがゆっくりと手を振り上げた。
「さあ、――始めるぞ!」

駆けてゆくエリック達を目を細めて見つめる。
まだ私たちの学校は夏の休暇中だというのに、秋を予感させる風が微かに吹き始めた。
朝と昼の丁度中間程の太陽に照らされ、教会は白く輝いている。
天使も、昔の英雄豪傑も、死んだ後こんな事になるとは思っていなかったかも知れない。
祈りの対象にされるかと思えば、政略結婚に利用されたり。
けれどそれが世の中だ。
どこか不条理なこの世界。多分、英雄達はとっとと転生でもして、この世界を見守ってはいないだろうと、エリックは言っていた。私もそう思う。
けれどそれでも人は、何かわけの分からないものに頼ろうとする。
英雄達はもう現世にはいない。転生でもしているだろう。そして、それはもとの彼らではない。
――神は、死んだ。
どの書物で読んだのか、昔、ある精霊王が言ったというセリフを思い出す。それを読んで私はどこか納得したものだ。
醜い欲と体面に執着する人々。その不条理な現実。
なら、神も死んでしまってもおかしくはないと。
いいや。
神自体、本当にいたのか怪しいものだと。

ざくり、と隣で足音がした。ルイルさんが身構える。
「おいおい、婚約者に攻撃か? ルイル」
男の人がいつの間にか隣に立っていて、低めの良く通る声で、妙な事を一言告げた。
ベージュのトレンチコートに、斜に構えた笑み。
……どっかの刑事さんだと直感した。根拠はいわずもがな、だ。


4.ダフィラシアス、突入。

白い小さな教会。
その前の野原を、草を踏みしめ、駆け抜ける。疾走する。
俺の貸した護衛がガードの者達を打ち負かし、まさにダフィラシアスの姿は風のようだった。
その打ち負かされた奴らに縄をかけるのが、俺達の仕事。
俺は護衛達とそちらの方へ駆けつつ、役割を果たす。
こういう状況になると、案外目的地への距離は長く感じてしまう。
送り込んだ護衛は役目をかなり良い形で果たしたらしく、門扉の傍で今にも扉を開こうと構えている。
起き上がって斬りかかってくる奴を剣で叩き伏せ、更に俺も前へ。
ダフィラシアスが扉へ辿り着いた。
そのまま護衛が扉を一気に開く。
俺はそれをダフィラシアスの後ろから確認する。
確かに花嫁はいた。
ダフィラシアスが手を差し伸べてゆっくり歩いて行く様子からすると、ラフィアナさんに間違いない。
その花嫁も新郎を突き放し、よろめくようにして駆けてくる。
少し手足が不自由なようだ。
……まさか、薬!?
急いで駆ける。
ダフィラシアスは抱きついてくるラフィアナさんを受け止め、抱きしめた。
「姉上は……ラフィアナは、もらっていく!」
ダフィラシアスが良く通る大声で宣言する。
俺も入り口に辿り着き、式場を見回した。
白い壁に天使の像。バージンロードに立っている神父、口をぽかんと開いている両側に座る『新郎新婦の縁戚』達。
その声に新郎も大声で即答した。
「じゃあもうこのきつい服、脱いでも良いんだね!?」
………はい?
いやいやいやいや。
ちょっと待て。ちょっと待ってくれ。
何今のイレギュラーな反応。
あげます、ならまだいい(いいのか?)想定の範囲内だ……辛うじて。
でもなんだ、今の。なんか自分の事しか言ってないような。
「ルパート!? 何を言っているのです!?」
彼の母親らしき女性が叫ぶ。
「だってほら、俺と結婚したって彼女が可哀相じゃないか……」
おお、一応まともな言葉を言う。
…そっと裾から取り出された、薔薇とおぼしき一輪がなければな。
「なぜなら俺は自他共に認める……」
そっと薔薇をくわえるな、薔薇を。もの凄く嫌な予感がするじゃないか。
新郎はそのまま、距離が離れている俺にも分かるような、陶酔しきったポーズをとる。
そして、高らかに宣言した。
NARCISSISTなんだからね……!」

{ナルシシスト【narcissist】
 自己陶酔型の人。また、うぬぼれ屋。ナルシスト。}

……うそぉ。


*

花嫁をかっさらわれた新郎はどうするか。
顔を赤くして追いかけてくるか、逆恨みをいつまでもし続けるか。はたまた、何か非情な手段を用いてくるか。
もしくは、

花嫁など眼中になく、思いっきり自分の世界を生きていてしまったりするか。

それは、人それぞれで、違う事である。
………一番最後の例は、かなり稀である事は否めないが。



第二話:花嫁をかっさらえ!(後編) おわり
第三話:式場のナルシスト?(仮) に続く

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