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信頼という絆

〜Needless to say,...〜

「信頼というのは、どんなモノだろうな、レコン=ブラック」
「またそれか。お前、いつもそういう話をする時は人をフルネームで呼ぶだろう」
「良いだろ別に。
 で、どんなモノだと思う?」
「信じて、頼る。至ってシンプルだ」
「けれど、複雑だろ? 俺の場合、お前を信頼していると言えるが、お前は俺を信頼しているとは言えない」
「信用している」
「『信用』だろ? 『信頼』じゃなく。
 まあ、それでこそお前だけどな」
「………」
「なあ、お前は誰を信頼するんだ?」

*

「お前って、目立つよな」
「まあな。どうしてだかは知らんが。それがどうした、サリフ」
「どうして目立つと思う?」
「その場に合わない格好でもしているからだろう」
「いいや、違う。
 お前は何処にいても目立つんだよ。
 カリスマ性、って奴か。
 だからお前に人は惹き付けられる。
 例えば俺はお前を、人混みの中二十歩離れていたとしても見つける事が出来る」

*

いつもより割とましとはいえ、結構な人混みにもまれているうちに、白昼夢に襲われたらしい。しかも二重に。我ながら器用な事だ。
どうせならサリフじゃなくルクスの白昼夢をみたかったがな。
我に返り、飲食店の店頭でメニューを物色しているルクスの方まで石畳を蹴って歩く。

こういう時、俺の前の人混みは俺を通すように割れる事が多い。
勿論、俺は強盗殺人事件を起こして逃げている最中の凶悪犯でもないし、テレビに出ている程の俳優でもない。
どうもサリフ曰く、私には何処でも目立つカリスマ性のようなモノがあり、それが体から滲み出ている故にそうなるのだという。
まあそう言われるまでにうすうす分かっていた事ではあるが、少し奇妙な心地がしたものだった。
今はしっかりそれを自覚している。
その『雰囲気』を隠す術も心得た。
いいや、その言い方は正しくない。俺はそれより前から、無意識にそれを隠すべき所では隠していた。
ただその時以来、少し意識するようになっただけだ。
『気配を消す』とも言えるこの行為。
実は殿下の前では殆どそうしている。
元々は騎士団に入った時、変に目立つのも少し嫌気がさしていて、何より実力で勝負したかったから、気配を消していたのだが、殿下の前では必要性に迫られた部分が大きい。
姿を隠して護衛せねばならぬ時が多々あるが(殿下が街に繰り出すから)、その時に護衛対象より目立つなどという事があってはならないからだ。
その上、そうする事によって緊張感と責任感が出る。
だからといって疲れはしない。なぜか殿下と一緒に居るとそれも楽になる。
で、その状況に甘んじて、私は殿下の前では『気配』を薄くするのである。

割れた人混みの中を通り、ルクスの元へ辿り着く。
メニューから目を離したルクスの銀髪が揺れて日の光に輝いた。
「レコン。ねえ、これなんかどうだい?」
からかいの色を隠そうともせず、ルクスがメニューを指し示す。
『マグロの目玉の煮込み』
……他のメニューはまともだというのに、どうしてこんなゲテモノ料理が。
「……ルクス。
 美味そうか?」
にっこりと出来るだけの笑顔を作って聞いてみる。自他共に認める、絶品の笑顔である。
「……え?」
「本当に食べて欲しいか?」
笑顔はなるべく崩さず、しかし威圧感を強めて聞いてみる。
「い、いやその」
「ああそうだな美味そうだな、じゃあ一緒に食べよう」
笑顔のままルクスの肩を軽く叩く。
ルクスは調子の良さそうな笑顔を引っ込め、かなり焦った顔になっている。
その表情が諦めた者のそれになるには、少しも時間はかからなかった。
「……昼食セット、美味しそうだね。これにしよう」
ため息と共にはき出される言葉。
勝った。
「……鬼だよ。君、鬼だ……。
 畜生、あの弄りやすいレコン隊長は何処に行ったんだ!」
「ここにいるだろう。心外な。
 それと、畜生などという言葉はむやみに使うな」
「……君、色んな面で仮面を被りやがっているね?」
「何を言う。俺はいつでも俺だ」
本当である。仮面、などと形容されるのは不愉快だ。
ただ、『仕事中の俺』と『私生活の俺』を分けて考える奴はいるかも知れない。
どちらも俺で、きっちり連続していると俺は思っている。
たとえ『気配』が違おうと。
「性格が少々唯我独尊で傍若無人で図太くなろうが、ルクスやサリフやゼロを弄るのがもの凄く楽しくってあわよくば殿下でもできたら遊びたいなーとか思おうが、俺は俺だ」
「……自覚症状ありかい」
「自分を知る事は人生においてそれなりに重要だぞ」
とほほ、だかなんだが呟いてルクスが店のドアの方へ近寄っていった時。
軽く、小さく魔導音がした。
「……む」
「おや、君の、魔力で動く携帯連絡用魔導水晶略して携帯、が鳴っているよ。
 君は魔力が少ないから予め王宮魔導師などにコネを使って込めて貰い、それでもこの首都ぐらいが最大限連絡できる範囲であるのだよね。
 記録させるわけでもないけれど、知り合いなら番号も必要ない。
 これも内戦と戦争で技術が発達した故というのが微妙な気分に時々させる、30年程前に本格的に普及した便利な道具だね。
 因みに、慣れによるものか、最近は逆に利用者数が減ってきている。治安も微妙だけど少しはましになってきたらしいし、緊急連絡用の需要が減ったのだろうよ(メール機能も無し)」
「なんだ、その説明的な台詞は」
「読者様へのサービスさ。深く追求せずにとっとと出たまえ」
「うむ」
ポケットから取り出した、微かに輝く水晶の板をとんとん、と軽く叩き、耳に当てると、また小さく魔導音がした。
そして、聞こえてくる音声は、最近聞いたばかりの友人の声だった。
『やあ、レコン=ブラック。元気かい?』
『元気だ、ルパート=セイル。
 どうした? ……あれの結果でも出たか?
 お前にしては、遅かったな』
『うーん、それがねえ。
 俺に依頼してた事、殿下にばらしちゃった。
 で、今殿下がそっちに行ってるよ。だから子細は殿下から聞きなよ』
「……はあっ!?」
『君がさり気なく調べておきましたー、で告げる情報なら殿下も気にしなかったと思うんだけどね、依頼された側の俺から、しかも自分の腹心の部下に関しての事への調査で君が動いていた事を知ったから、混乱して吃驚してしまった。
 そこにサリフが、君は雑踏の中でもすぐ見つけられるから、行ってみろって言ってしまってねえ』
「………」
あいつ……後で覚えていろ。
『おそらく君、恐い事考えてるね。ま、止めないけど。
 じゃあね』
魔導音がして、水晶の放つ微かな輝きが消えた。
携帯をポケットにしまいつつ、急いで辺りを見回す。
そしてある方向を見た時、俺は動きを止めた。
嗚呼、サリフ。お前は、二十歩離れていても俺を見つけられると言ったな。
そして。
そして、俺には。
三十歩程離れた人混みの中で歩いている殿下を見つけ出す事なんて、この上なく簡単な事なのだ。



「殿下。図書室に新しい本が入ったそうですよ」
「ん? どうしてお前が知ってるんだよ」
「よく図書室に行くからです。
 新書に、物語。専門書は敬遠しますが、基本的になんでも読みますよ」
「……意外だな。脳みそ筋肉な男じゃないっていうのは分かってたけど」
「幼い頃より、読書に親しんでおりましたので」
「貧乏じゃなかったっけ」
「それに関しては公営施設の整備に感謝、です」
「図書館か。成る程な」
「ええ。
 話を元に戻しましょう。『ヴェスティアーサ』五巻が入荷しましたよ。
 しかも初版限定番外編もついてます」
「うっしゃあ!
 あれ、でもお前どうして俺が『ヴェスティアーサ』読んでるって事を知っていたんだ?」
「貴方は愛読している本は、いつもきっちり棚に入れて整理しているではないですか。
 だから、ですよ」

*

白昼夢、か。
こんな物を見るとは、俺も大分疲れが溜まっているな……。
ついでに少し、目眩とふらつき。
レコンを探し出して、一通り話をしたら、ソフィアの家で仮眠しよう。
そう思って、心配そうな顔で覗き込んでくるソフィアに、大丈夫、と応える。
『ヴェスティアーサ』か。
俺がそれを愛読しているという事だけじゃなく、レコンは俺の色々な事を知っている。
たった二年半ほどのつきあいだというのに。
でも俺はレコンの主だというのに、何も知らない。
知っているのは、俺の騎士で、公務員で、規則に正しくて、でも、何処か読めない奴だという事。後は素性。そんな事柄達ぐらいだ。
最大限にレコンを使うには、知っておかねばならないのに。
……はあ。
そういや忙しさに追われて、レコンの入隊前の調査書もろくに目を通していない。
いや、むしろ俺の方がそうする事を敬遠していたのだ。後ろめたくて。
だってレコン、いい奴なんだもの。
……まあ、こんな事を考えていても仕方がない。
さっさとレコンを探し出して、今回の事を色々と聞こう。
そう思って辺りを見回すと、一方向だけなぜか人が減っている。
いや、減り続けている。
そして、その人混みをかき分けるようにして走ってくる、やけに目立つ亜麻色の髪に琥珀の瞳の美青年。
レコン=ブラック。
……ウソぉ。
なんか凄い目立ってて、喧噪を真っ二つに割ってるんですけど。
てか、見つかってるんですけど……!
頭の中が吃驚して真っ白になる。
いや?
違う。これは吃驚した所為じゃない。

……なんだか、凄く、眠い。



「昨日はほぼ徹夜。それに加え、連日の業務。
 成長期を過ぎる直前とはいえ、18歳のガキの睡眠欲を侮ってはいけないのですよ」
「……君、主をガキ呼ばわりかい?」
「一般論だ。少々本音入り」
「………」
ルクスさんがため息をつく。
その様子を見ても、レコン隊長の性格が、いつもと微妙に違うのが分かる。
エリックが倒れた事にも驚いたけれど、これにも私は驚いてしまう。
「……あの、隊長?」
「なんだ、ルイス」
「……その、殿下への不敬は控えた方が……」
「こんな事如きで起こる殿下に私は仕えん。いやに固い事を言う」
「いや、その……」
まさか、レコン隊長にそんな事を言われるだろうと思っていなかったらしいルイスさんが言葉に詰まる。
当のレコンさんといえば、エリックの寝ている布団の端に足を置き、平然とそのまま床に座って壁に背を預け、くつろいだ様子で文庫本を開いている。
……なんだかとても、エリックに忠誠を誓った騎士のする態度とは、思えない。
てかなんか、仕草と言葉がふてぶてしくないだろうか。
「…シェラン副隊長。隊長ってこんな人だったっけ?」
「人にはね、二つ一つ仮面があるものなのだよ」
こちらはきちんと、気の抜いた座り方をせずに、元気にルクスさんがルイスさんに答える。
「といっても基本的にはどっちでも変わらないらしいよ。
 現に俺はレコンについて行ってるし、殿下への忠誠はいつでも健在さ」
まあ、こっちの方が目立つけどね、と言って、ルクスさんは笑う。
確かにそうだといえた。
いつもはどこから出てきたのか、出て来るか、または声が聞こえるまで分からなかったというのに、今の隊長さんは後光でも差しているように、目立つ。
事実、さっきエリックを見つけて駆け寄ってきた時なんか、人の波を割るようにして、その場の半径二歩以内の人は、間違いなくレコンさんに気を取られていた。
ルクスさんのような美貌を持つ人が隣にいたから、尚更目立っただろう。相乗効果というやつだ。
「まあとにかく、そういう事だから。ソフィアさんは心配しなくってもいいよ」
急に話を振られ、私はびっくりして顔を上げた。
「はい。でも、エリックってやっぱり忙しいんですね」
とりあえずそんなふうに返事をする。
自分の口から出た言葉に、分かっていた事だけれど、やはりエリックは身分上、どうしても業務が負担になるらしい事を、更に実感する。
よく考えたら、年上とはいえ、まだ十八歳なんだ。
「忙しいと言えば忙しいよ。なにせ、今の王は、愚王ではないけれども、特別有能ってわけでもないからね」
ルクスさんが過激な発言を飛ばす。
確かに、それはそうなのだ。おじさんの能力はエリックの才能に比べて、はっきり言って劣っている。
失敗する事も少なくはなく、エリックが柔軟にフォローしているからこそ、この国の良い治世がある。
「……でも、おじさんも頑張っているんだし」
「君には、あれが頑張っているように見えるのだね」
ルクスさんがため息をつく。
「え?」
「……いいや。
 俺の口からでは言い難いね。殿下からでも聞いてみたまえ」
そう言って、ルクスさんは口をつぐんでしまった。



目を覚ますと、見覚えのある天井が目に入る。
ソフィアの家だ、と一瞬で分かった。
寝たまま辺りを見回し、部屋には、レコンと俺しかいない事を認識する。
……いや。ルクス=シェランも、床に体を横たえて健やかに寝ていた。
「お目覚めになりましたか、殿下」
レコンが文庫本を閉じ、傍らのバッグに仕舞う。
文庫本の題名は『王国制度の限界』。喧嘩売ってるのかこの野郎。
しかも今まで、レコンはかなりふてぶてしい体勢で座っていたようだ。
まあ、別にどうでもいいけどな。
「ソフィアは?」
「夕餉の買い物ついでに、色々と寄ってくるそうですよ」
「そうか」
答えながら、未だ居心地の良さを求めて寝床に留まろうとする体を叱咤して、上半身だけ起き上がる。
頭が幾分、すっきりした感じがする。
「どれぐらい寝てたんだ、俺」
窓から差し込んでくる夕日が、俺の前に影を作っていた。
「六時間程。まだ十八だというのに、無理をするからこうなるのですぞ」
レコンは、ふう、とため息をついて、俺に上着を渡してくる。
「ん。でも、十六、十七頃の比じゃないって」
上着を着込みながら答える。あの頃は本当にきつかった。テロもその頃は特に強力だったし。
俺を眠らせるために親がいるんだろ、と親父に言いたかったが、悲しきかな、親父は処理能力が俺より低いためにその時間もとれない。
『全く無能とは言い難いが、有能じゃない』父親を持つと苦労するよ。
まあ、もう俺には親なんてどうでもいいけどな。ソフィアがいれば、それで良い。
「ああ、そうですね。
 確か私もその時の様子を見て、殿下をお守りする事への義務感がいっそう強まったのですよ」
「今は?」
「今も、私の忠誠には変わりは御座いません」
……真摯な目つきで言われてるけど、これまでの事を考えると、なんかどうも胡散臭いような……。
「胡散臭いなどとは思わないでいただきたい。
 今日あった事は、大方サリフから聞きました」
俺の表情を察したのか、レコンはそう言って携帯を示してくる。
「……ああ。で、説明が欲しいんだよ、俺は」
伸びをしながら言う。
「なんか、レコンが仕組んだみたいになっちまってるし、でも、それも『運』が良いだけの事なんだ、とか言われたし。
 大体あの人混みを真っ二つに割るなんて、普通出来ないだろ。
 とにかく。
 1.今日の事はレコンが仕組んだのか。
 2.仕組んでいないなら、どうして『運』がそんな風になるのか。
 3.人混みで目立つ程の奴だという事を、どうして隠していたか。
 この三つだ。答えろ」
「1.仕組んでいません。
 2.知りません。今回に関しては、無意識に仕組んでいたのかも。ですが、サリフを関わらせるような事はした覚えがありません。
 3.『運』とも関わりがあるようですが、私の『気配』は、業務上邪魔なので消しておりました。
 2と3は、どうもそういう気質のようでして、昔からそうでした。
 サリフによると、
 『お前はそういう奴なんだ。まわりを一気に呑む事が出来る。人を惹き付ける。
  けれど、それが必ずしも良い方向には働かない。
  とにもかくにも、お前のまわりは、若干とは言えないぐらい、お前の有利に動きやすい』
 との事です」
真っ直ぐ俺を見返しながらレコンが答える。
この答えは信用するしかないだろう。
「昔から、そう、っていうのは?」
「例えば、ですが。
 『氷結のエルミタージュ』を知っていらっしゃいますね」
「ああ。氷の精霊を秘めた攻撃用の宝玉だろ。持ち主を選ぶという」
確か、行方知れずの宝玉だ。俺はどんな形か、興味はあるものの、もちろん見た事はない。
「学校で旅行に行った時、自由行動の時にとある洞窟に入りました。
 それで、勘の通りに進んでいったら、ありました。
 これです」
そう言って、レコンは耳にぶら下げている青のピアスを示した。
ああ、それね。確か夏祭りの時も付けてたよなあ。

……………。

……は?
それ、が?
「嘘」
「そう思われるのなら、鑑定家に見せて下さい。
 ですが、本物ですよ」
あまりにも自信満々な瞳で言うものだから、思わず手をそれに伸ばすと、
「殿下。おそらくですが、殿下が触ると問答無用でこれは普通の玉になります」
「……そうでした……」
魔法系のモノって、俺はあまり触ってはいけないのである。
なにせ、問答無用で魔法であるならなんでも消してしまうのだから。しかも自分では調節が利かない。
昔、百年来の呪具を触って価値のない代物にしてしまい、世話係に怒られた事もある。
昔から伝わる王族の文献によると、何百年かに一度はこんな奴が生まれるらしい。
しかも殆どくすんだ金髪に片方は蒼、片方は茶の瞳の者であるという。
まあ、今まで正式に確認されているのは昔の『昏君』ディクレサスと俺の二人だけ。
ディクレサスは昔、この国を破綻寸前にまで追い込み、弟に革命を起こされて倒された王である。
俺はそんな昏君じゃないっていうのに、その同類だと爺や婆どもに言われたりしては面倒くさいという事もあって、この能力を隠している。
「あー、つまり、おまえはそういう奴なわけだ。
 カリスマ、かつ、運が良い。迫力もある。性格もくわせものだ」
投げやりにそう言うと、
「どうしてくわせものなんですか」
と不満顔で返してくる。
「作為ではなくても、テルブ家の姉弟の問題をルパートに調べさせた理由を言わない」
「ああ、それは……野次馬心です。お恥ずかしながら」
「……は?」
「私の勘ですと、あの二人は血がどう見たって繋がっていやしませんでしたので。
 絶対にそうだと確信しましたから、ならどうしてそんな無駄にややこしい事になるのかを知りたくなるではないですか」
「……い、いやちょっと待て。野次馬って、おまえそんな奴だったっけ」
「ええ。余裕でそんな奴ですとも。
 話を戻しますと、ややこしい事というのは、その状況を把握しなければどうにもならないでしょう?
 ですから、少しその後関わらせようかと思ってルパートさんに調査を依頼したのです。
 血の繋がってない姉弟が禁忌に悩むなんて不毛ですし」
あの今までの深刻な悩みようを『不毛』で切り捨てつつ、何にもやましい事はしていない、という瞳で堂々とレコンが話す。
「それで、そのうち殿下にも調査結果を話して対策を打とうとしていたのですがね。
 全く、あの叔父にも困ったものだ。あちらもいろいろ画策したんでしょう」
叔父。あの秘書か。こいつの一家って一体どうなってるんだ。
てか。今、殿下に話して対策を打とうと思ったって言ったよな、お前。
「おれも巻き込む気だったのか……?」
「巻き込むなど人聞きの悪い。
 そもそも、あの森の中で城を抜け出すのを十数回捕まえただけで、私を護衛隊長にし、この件に関わるような状況を作ったのは殿下ではないですか。
 どっちが巻き込んだかと言えば」
「あー俺ですよ、悪かったねえ!」
こんな奴だったろうか。もしかして約二年半でようやく馴染んで本領発揮か?
「俺ってレコンの事なんにも分かってないのか……?」
「十八の若者如きに全て理解される二十五年の人生なんて、送ったつもりないですから」
「若者って」
「若いでしょ」
「………まあな」
「それでいいんです」
……まあ、よく考えればそうなんだよな。愛するソフィアの事だって分かってないのに、それ以下の部下なんて、全て理解できるものか。
でもさ、それなりに役立つ性質とか、教えてくれてもいいだろうに。
すねた仕草をしてレコンから目をそらす。
「殿下。……あの、すみませんでした」
真っ直ぐなバリトンの、レコンの謝罪。
レコンを見る。真っ直ぐな瞳。でも、薄氷の上の揺らめきと、煌めきを秘めた瞳。
「いいよ。結局どうにか事は収束したんだし。
 ……それに」
ふう、と息を吐く。
「お前の俺への忠誠は変わらないんだろう?」
我ながらくっさい台詞だ。忠誠ってなんだよ。どこかの騎士道物語か?
でも俺は王子で、こいつは俺の騎士で、しかも確か半年ぐらい前に忠誠(跪き付き)を誓われた仲だし。
古風だな。古風だよ。
それでも俺はレコンの主で、レコンは俺の部下で騎士。
レコンの性格が思っていたのと違おうが、なんだろうが。
「はい。我が忠誠は殿下の為に」
レコンが微笑み返す。
そしてそのまま、暗い雰囲気ではないため息をつき、
「………くっさい台詞ですね、我ながら………」
「先に言うなよ」
そう言って、俺が布団を出ようとしたときだった。
「んん……」
ルクスがいつものテノールより若干高めの声を上げて、寝返りを打った。
「ああ……少しうるさくしすぎましたかね。特に大声上げてた誰かさん」
一言余計だよ、お前は。
そう言い返そうとして、俺はレコンの表情に凍り付いた。
何。何で。何が起こってるんだ。
どうしてレコンが、愛しくて愛しくてたまらない女を見る目と顔で、ルクスの髪をなでてるんだ……!
俺のソフィアに向ける気持ちと、とても似通ったレコンの感情を、その顔が示している。
ええと。
レコンは、ノーマル……だよな。変態じゃないよな。
『だから、それがなんで女装なんですかー!?』
『似合ってるからまあ別に良い、で済んじゃってね』
『何だって? それが女性をエスコートするときのセリフかい?』
『誰がエスコートしとるか!』
『まあそれは当たってるね。私はレズじゃないから』
ルクスの胸に目をやる。シャツは確かに盛り上がっている。
顔に目をやる。女だとしても男と間違いそうな、中性的な顔。
………あぁぁぁああああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!
心の中だけで絶叫する。
驚愕の真実が今ここに。レコンは気づいてたんだなという確信も。
「る、るるルクスって女っ……!」
「……あー、はい」
図星を指されたという顔でもなく、それなりに平静そうな顔でレコンが返す。
何で。いったいどうして。あのルクスが、わざわざ男装の麗人なんて。
別におもしろいわけでも……あるな。
でもそれだけの為にまさかこんな事する奴では……あるな。
「うう……」
思わず悩んでしまう。もしかして俺の護衛隊ってこんなんばっかか。
ルイルは女だってバレバレなのに気づかない上、謎の刑事と婚約してるし。
レコンもこんなだし。ルクスもこうだし。
ルイスは歌いまくるし。他にも古典マニアとか工学マニアとかいなかったっけ?
あぁああああ。
「殿下……言っておきますが、ルクスは意外と女ですから。面白さだけでこんな事してません。
 ついで言うと、多分うちの隊で総合的にいろんな意味で私より凄いのいないですから」
「ぎゃあ読まれた」
「顔に書かれています」
そんな事言わなくってもいいと思う。
ルクスがまた寝返りを打つ。
レコンは髪を撫でるのをやめて立ち上がり、タンスから毛布を出して『彼女』にかけた。
本当に愛おしいという瞳。
でも、そんな表情とは似合わない言葉が俺の頭の中に浮かんで離れない。
「……お前の『黒い渦』は、ルクスが元か?」
ピクリと、レコンがルクスにまた伸ばした手が止まる。瞳の中にわずかににじみ出るモノ。
独占欲。衝動。心の中で荒れ狂う、まさに『黒い渦』と呼べる感情。
「……はい」
手を下ろしてレコンが認める。困ったような微笑。
「ルクスを前にしていると、不思議と収まるんですが……時々……」
そこでレコンは言葉を切る。微笑が深まる。
時々、どんな手を使ってでも手に入れたくなる。自分のモノにしたくなる。
その欲望。望み。男である事もあいまって、さらにドロドロした渦になる。
俺はソフィアへ、レコンはルクスへ。それぞれ胸の中にそれを抱く。
俺とレコンは似ている。性格とか、生い立ちじゃない。その渦が。愛情というのもおこがましいほどの想いが。
だから俺は何も言わない。
「分かったよ」それだけ言って顔を背ける。
レコンがルクスの髪にキスするのが、視界の端にちらりと見えた。
「おお、甘っ」
鳥肌を立てて体を抱える仕草をしてみる。
「甘くはないですよ」
くすくす、とレコンの笑う声。
「あーあ、俺もソフィアにそれすることを許されたらなあ」
「殿下……どうしてそこまで鈍いんですか」
「はあ?」
振り向くと、レコンの隣でルクスがすやすやと寝ていた。
その寝顔は全くの無防備。
レコンも苦労してるみたいだなあと思うと、何となく笑えた。
「……内緒ですよ。信頼してますから、殿下」
レコンが唇に人差し指を当てる。……信頼してますから、って、お前は。
「おうよ。俺も信頼してるから、ソフィアと俺をくっつけようと画策なんかするなよ」
「……ちっ」
「舌打ちするなよお前は」
「だってもの凄く面白そうですし。無駄に不毛なのはあの義理の姉弟だけで十分ですし」
「あのなあ。どうしてお前がソフィアと俺が両思いだって思ってるのか知らないけど、それは大いなる誤解なんだから」
ソフィアが俺を好きになってくれるなんて、夢のような事だと思う。夢を叶える努力はするけど。
「我が主ながらこのガキャア……」
「なんだよ」
訳の分からない奴だなお前。しかもそれって主に言う言葉じゃないだろ。せめて影で毒づけよ。
俺が首を傾げたとき、声を上げてルクスが目を覚ました。
「おや。ずいぶんと寝てしまったようだねえ」
「ああそうだな。殿下も目を覚ましたというのに、お前は本っ当にすやすや寝ていたな」
「自分だって文庫本を読んでいただろう?」
「それでも起きていたぞ。ああ起きていた。殿下の前で寝はしなかった」
「……この野郎……! 起こせばいいだろう、起こせば!」
二人の、俺が知っているものとは少し違ったやりとりが始まる。
俺はそれを横目に見ながら、階下のソフィアの顔を見る為、ドアノブに手をかけた。
信頼してますよ、という声が、奇妙に耳についている。
それもくっさい言葉だと思う。今時流行らない。どこぞの青春ドラマだろうか。
それに、言うまでもない事だ。
でもまあ、悪い気はしないから、いいか、と思った。

区切り

信頼している。その言葉が口をついて出たのは、意外なようでそうでなかった。
ふくれっ面のルクスをなだめながらそう思う。

サリフ。
俺が信頼するのは、ルクスと殿下――我が主だ。言うまでもないがな。
それを確信しただけでも、ルパートに鑑定を頼んだ甲斐があった。
そう思うのだ。
だが我が信用する友よ。
後できっちり絞り上げに行くから、覚悟しておくがいい。

サリフと会ってどうしてやろうかと考えていると、ルクスが、また悪巧みかい、と眉をひそめた。
その通りだが、……失礼な。


区切り

第四話:絆という信頼 おわり
第五話:レコンと愉快な仲間たち に続く

よかったら感想をどうぞ。無記名でも大丈夫です。

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