花嫁をかっさらえ!(前編)

〜ラフィアナ、政略結婚!?〜

花嫁。
それは、花婿と共に、結婚式の中心。
しかし、政略結婚となると、話は違ってくる。
自分の望まない相手である事が多いからだ。

そしてしばしば小説などの中では、花嫁の望む相手がかっさらいに現れたりする。


1.執務室にてエリックが悩む事

ダフィラシアス=テルブは姉狂い。
たとえ姉であろうと、躊躇わず口づけし、好きだと言い、抱きしめる。
その独占欲は他の者の比ではない。俺、エリックザラット=ウィルクサードとはいい勝負だけれど。
レコン達はそんな風には見えないというけれど、それは俺の感情の抑え方が上手いからだ。
ダフィラシアスには堪え性がないだけだ。
……いや、もしかすると、他の奴らも俺と同じように、そういう欲望を抑え込んでいるだけなのかも知れない。
それでも、ダフィラシアスは独占欲、恋情がとても強い。
相手が姉であっても、手に入れてしまった程に。
俺はまだ、ソフィアに真剣に迫れる勇気はないから、少しだけ、いいな、と思う。
……ソフィアと姉弟なんていうのは、正直言ってまっぴらだけれど。

エイダとのいざこざも終わり、テロも一応片づいた。ソフィアも家に帰った。
因みに、十三番隊の欠けた三人に変わる補欠要員のうち一人は、夏祭りで俺に忠誠を誓ったグィアン=フォトンがその座を占める事となった。
あと二人は、まあじっくり捜せばいい。
レコンに心当たりはあるかと聞いてみたけれど、どうも要領を得ないし。
……つーかちょっと、いやかなり色んな事情があるみたいだったし。
レコン。あいつって何者だ? いや、本当に。
新米騎士の時だって。入団試験の時、あれぐらいの腕を発揮していたら、もっと有名になっていただろうに、他の派手な奴に見せ場を譲って真面目に試験を受けたから、王城の周辺警備なんて地味な職務に就く羽目になったのだ。
……俺が脱走に十回連続で失敗したのはレコンの時だけだったんだ。レコンがそういう事に慣れてたから。
しかもその上、襲ってきた刺客共を一瞬にして切り伏せた。
で、その上で言ったセリフが
「殿下、護衛まで置いてきたのですか!?」
なんてのだったしなあ。
しかもその後延々と説教されたのには参った。
で、まあこれは俺の護衛にするしかないな、と。だって前の隊長酒乱だったし、副隊長も不真面目で、不正に手を出してたし。他のも同じ穴の狢。ルクスとルイルは違ったけどな。
それに、いつもあそこで陣取られてたらソフィアに会えないし。
いや本当、レコンを抜擢すると同時に護衛隊の大改変をやって良かった良かった。総合的な能力も上がったし。
でも、ちょっと短慮すぎただろうかとも思ってしまう。
レコンには書類には記されない事情があるようだし。
なあレコン、と呼びかけようと思っても、休暇中で旅行中。
なんでも、夏祭りの奴の続きだとか。で、いつもの如くルクスもいない。
畜生…出がけに『もう少し鋭くなって下さいね』なんて気になる事言いやがって、レコンの野郎。
なんて事を考えつつ、もう終わった書類を横に空を見上げてみる。
今日はここにいた方が良いのだ。色々と。
ソフィアよりも優先させなきゃなんないのはいやだから、絶対にソフィアにも会いに行くけどな。
と言うか、多分会えるだろう。
あいつ関係なんだから。
そこまで考えて、たいぶ考えていた事が最初からそれていた事に気付く。
そうそう、ダフィラシアスだ。
俺は此処であいつを待っている。
何故なら……。

ノックの音がした。

……来た。
「入って」
そういうのとほぼ同時に、激しい音を立てて扉が開き、ダフィラシアスが飛び込むようにして部屋の中へ入ってきた。
「殿下!
 姉上が、政略結婚させられる事になった!」
予想通りの言葉だった。
「エリック、どうするのよ!
 このままじゃあラフィアナさん、どうなるか分からないわよ!」
「そうよ」
……ソフィアと、チヨは予想外だった。
いや一応ダフィラシアスはソフィアの友達だし。関係があるのだけれど。
でも、俺はソフィアが貴族の事に関わるのを嫌っていると、ダフィラシアスは重々承知の筈。ソフィアが話を聞いてついてきたにせよ、チヨはどうしてフィラナルと一緒にいないんだ。
つまり、本来ならこの三人の組み合わせはあり得ない。
……何かあるんだ、他に。

三人の説明を聞いた俺はギシリ、と音を立てて愛用の椅子にもたれ掛かった。
そして思わず、文字通り頭を抱える。
果たして、『何か』はあった。
しかも、少々常軌を逸した形で。……一般人にとっては、の話だけど。
ああ、そうだよ。いくら堅いので知られるテルブ家の当主っつったって、貴族は貴族。しかも保守派だし。
だが、それでも。
「まさか、自分の子供を監禁するだなんて……」
思わす口から漏れた言葉に、三人の頷く気配がした。
「まるで小説みたいよね、本当に……」
ソフィアが卓袱台の横のソファーに座る音がした。今日はそこで寝れない事は重々承知だろうけれど。
取り敢えず、状況を整理しようと、書き込む前の公務用特別製用紙を取って、その裏にさっきの話を箇条書きにしてゆく。

1.チヨが数日間フィラナルと連絡が取れない。
2.ダフィラシアスはその間フィラナルと会ってはいるものの、フィラナルの様子がおかしかった。今朝からは姿すら見えない。
3.ラフィアナは学校で旅行に行っているはずだったが、両親はどうやらほぼ連れ去りに近い形で連れ出したようで、今どこにいるか分からない。
4.ダフィラシアスはそれを今日になって知った。つまり、ダフィラシアスを誤魔化せる程の工作がなされていた。
5.ダフィラシアスもチヨと一緒に捕まえられそうになったが、自分の護衛を使って逃げてきた。

そこまで書いて顔を上げると、チヨは悲しげに息を吐いてソファーに座り、ダフィラシアスは補助役用の折りたたみ椅子をソファーの裏から持ってきて座る。
三人とも深刻な顔をしていた。まあ、そうだろう。ここまでいくなら、二人は軟禁または監禁に近しい状態にいる。
貴族ならよくやる事だ。それが立派な違法行為であるにも関わらず、己の体面を気にしては愚かな間違いを犯す。
しかももみ消せるだけの力があるのだからタチが悪い。
それにしても常々思ってるんだが、そんなことをされた貴族の子息・令嬢やら、平民の方々はどうして訴え出ないのか。
しかるべきところに、きっちりと用意周到に訴え出れば、国民の好奇の視線が向けられる代わりに、憎い奴らの没落が待っている。
ああ、でもそれも金とかで片づくか。
……が。今回は違う。
俺の肩書きは『皇太子殿下』だ。故意であれ偶然であれ、俺を敵に回してしまったからには、それ相応の代償がもれなくついてくる。
その上、俺は何だかんだいってクリーンな政治をする性分だ。金なんかはきかない。ソフィアを盾に取ったりしたらそれこそ地獄に突き落とす事も出来る。
息子が俺の腹心である事を甘く見すぎたな。
しかし、なにか引っかかる。
ダフィラシアスの父親は、常識と体面に拘る保守的で頭のかたい、でもゴシップや、犯罪となると、そんな事はなかったはずの男。
少なくとも、俺の知る限りでは、貴族の仲ではましな方だったのだ。
それが一体、どうしたんだろう。
フィラナルの言っていた『切り札』が関係している事はおそらく間違いないだろうが、少々詰めが甘いとはいえ、ここまでするか?
大体今のご時世、こんな違法行為は、もみ消す事が出来るにしろ、リスクが高すぎる。
とにかく、今は情報だ。
ぱちんと指を鳴らすと、
「殿下。如何様に」
ルイスの声が天井から降ってくる。
「グィアン=フォトンはいるか」
「ここに」
「調べろ。期限は明日の朝だ。全力を使え」
グィアンは元裏部隊の隊長の子だし、今まで裏の方で潜伏してきたという。
調査役には、最適だろう。
だが、予想外の事は続くものである。
「それでは、式場の住所と地図、見合い相手の家の事情の調査書類を置いておきます」
その声と同時に上から滑らかな動きでグィアンが降りてきて、ファイルを執務机に置いた後、扉を開けて出て行こうとする。
「……え?」
今一瞬で調べた、などという事は勿論ないだろう。
という事は、無断でうちのデータベース(資料室。因みに一般人には公開出来ないし、必要無しに職権濫用で使ってはいけない)使っちゃった?
「フィラナルは一応俺の友人ですよ。心配だからちょっと調べておきました。データベースは使ってませんよ、ご安心を。
 あ、フィラナル相手でもちゃんと守秘義務は守っていますから」
そう言いながらドアを開け、グィアンはさっさと出て行ってしまった。
……その時微かに振り向いた時に見えた笑みが、果てしなく恐く見えたのは俺だけだろうか。
てか、うちのデータベース使わずに、式場の内部の資料とか見合い相手の事情とかをこの書類に詳しく描ける情報網ってなんなんですか。
「優秀な人みたいね」
チヨが感心する。優秀なのかそうでないのかと言われれば、優秀だろう。
……少なくとも、利害が一致すれば、だが。だって依然職権濫用した恐れがあるし。
なんかまた面倒なのを、ただでさえ面倒な隊の中に入れてしまったような気がする。
実はルクスやレコンと同じくらい個性的なのが、まだ数人いるし。
なんだかとてもレコンがいないのが心配になってきた。
いざというときに、俺はこいつらを制御しきれるのだろうか?
この先に起こるであろう事への不安に、俺は頭を抱えた。

嗚呼、前途多難……
レコン、帰ってきてくれ。……無理だけど。だってこんな程度じゃ、帰還命令出せないから。



2.騎士団の寮にて或る男が察する事

「ったく……留守かよ」
合い鍵を使ってドアを開け、俺、サリフ=ディルジオは騎士団の寮の一室に足を踏み入れた。
それなりに広い部屋。ベッドもでかい。昔、この部屋の主が住んでいた安宿とは大違いだ。
食器棚はきちんと整頓されているし、書類を入れた書架はきっちり鍵がかかっている。
そしてそんな、白い部屋に似合うシックなテーブル。真ん中には小さな枯れた花。
その上に俺はあいつの忘れ物を置いた。こんな事をしてもあいつが礼を言う事は滅多にないのは分かってるけど、そのままこれを持ったままじゃあ、文句言うかもしれないし。
まあそれにも慣れたけどな。そうでもしないと、あいつとは付き合っていけねえ。
しっかしまた……こんな寮の合い鍵なんぞ渡すなよ。重要な建物じゃねぇか。
そりゃあ俺だって公務員なんだから、別に良いのかも知れねえけどさあ。
「……そろそろ、戻らねえとな」
元々、うちの部署の書類を提出するついでにきたのだから、もうそろそろ職場に戻らなければ。ぽつりと呟いて俺は立ち上がる。
俺の呟きに答える者はいない。少し寂しくなった。
殺しても死ななさそうなあいつらだから、その内絶対にこの部屋に騒がしさは戻るのだろうけれど、やはり誰もいない部屋というのは寂しい。なまじ整頓されていると余計に。
いや、それだけなら俺の部屋とも代わりはないか。独身って辛いよな。
……婚約はしてっけど、なかなか結婚まで暇がとれないし。
それに、俺の彼女はここの左に2番目の部屋の住人だ。
ただ、あの子は俺がここに住んでいる奴らと知り合いだなんて知らないだろうがな。つか知られたくねえ。
忘れ物をもう一度確認し、部屋を出て、鍵をかける。
その鍵は普通の鍵と違ってかなり複雑な形だった。複製なんぞ、この合い鍵以外になかなか作れはしないだろう。
こんな鍵がついている建物にあいつが住むなんて考えていやしなかった。
いきなり王子付きの騎士団に入っていると知って、どれだけ驚いた事か。
そこから一気に思い出が膨れ上がりそうになって、急いで自分を制止する。
書類を届けに来たついでに取った昼休みはもうそろそろ終わりの時刻だ。
それに、この騎士団には特に関係のない人物である俺がここを彷徨くのは、かなり怪しまれる事だろうしな。
そう思って踵を返し、草の生い茂る庭に面した廊下を歩いていると、後ろから人が歩いてきた。
妙だな。俺位の者でなければ気付かないぐらいに足音と気配を消している。
騎士団の者なら、わざわざここでまでそんな事をする必要はない。
クセになっていたとしても、多分怪しまれないように気を抜いて歩こうとするだろう。あいつならそうするはずだ。
ましてや、あいつのように親友なら合い鍵を渡すような奴はいないだろう。
この一定した規則性のあるリズム。そして、人気が無いのにここを歩いている不自然さ。
……怪しい。
部屋の方に寄って、その人物を通す。
その人物は男だった。ラフな格好ではあるものの、どこか浮いている。
男はにっこり笑って会釈し、歩いてゆく。
不自然だ。なんか不自然だ。
「どうなされたんですか」
声をかけると、自然な様子で振り返る。
知らない奴に声をかけられたのに、どうしてびびっていないのか。
おかしい。もの凄くおかしい。
「友人を訪ねてきたのですが、どこの部屋だか分からなくて」
人の良さそうな笑顔。が、目が笑ってない。
「へえ、なんていう人ですか?」
男の口から答えが返ってきた。
あいつの名前だった。
……ありえない。あいつの部屋は男が来た方向とは違う。
しかも、あんなねじくれた奴に、俺と、その他二人の他に友人が出来るものか。
俺は怪しんでいないと見せかけられるように、善良な一般市民のように、好奇心を満たしたような顔で笑い返す。
丁度その後ろから、清掃婦さんらしき人が二人組で清掃用具の入ったカートを押してやってきた。警備員も一緒だ。
「「ご苦労様です」」
はからずとも俺と男の声が重なる。
流石に人のいる状況ではどう動けもしないと思ったのか、男は足早に歩いて行く。
自然な演技だったよ。俺じゃなければ騙し通せるぐらいにな。
俺は十分な距離が開いた頃を見計らって、その男の後を追い始めた。
勿論、気配と足音を、彼よりもきっちりと消して。


3.事態急変

「とりあえず、……こんな感じですね」
フォトンが差し出してきた書類を受け取り、ざっと目を通す。
ラフィアナさんの所在はホテル。ただし、貴族のVIPの中では有名な、そういう事に利用出来る所で、警備も厚い。しかもどの部屋にいるのか分からない。
ちくしょうめが。
フィラナルの所在はもっと分からない。多分にテルブ家の館の別館の何処かにいるのだろうが、かなりの処理がされているらしい。
本気という事か。
そして相手。セイル伯爵の子息、ルパート=セイル。性格と素行、共に問題なし。
あえて元々からの婚約者は使わなかったらしい。
……あの婚約者はラフィアナさん達に協力的で、ずるずる結婚を伸ばしていてくれていたからな。目的を遂げられないと思われたのだろう。
「ん? レコンと同じ学校だな」
「ええ、そうですね。ルパートが病気で一回留年しまして、その上での同級生で、ライバルでもあったようです」
「あいつと?」
「ええ」
まあ、どうせ今レコンはいないけどな。
セイルか。テルブ家の相手としては妥当な所だな。
「あと、十三番隊の寮を二時間程前、怪しい男が二人うろついていたようですよ」
怪しい男? テルブ家の間者かもしれない。
という事は、俺達が関わっている事を知られたか?
そこまで考えた時、ルイルが息をせききって執務室に飛び込んできた。
「大変です! 式が明日になりました!」
ちっ、と思わず舌打ちをする。俺達が動いているのに気付かれたのだろう。
やられた!


4.或る男、気付く

追っていた男は、そそくさと貴族街に戻った後、とある屋敷の別館らしき所に入っていった。
なんだろう、ここは。
とりあえず、内部を探るか。
そう思って、特別製の制御装置を耳から外す。知らない奴には、ただ耳栓を抜いたようにだけ見えるだろう。
今まで、俺にとってはだが、くぐもっていた音がクリアになり、感覚が澄み渡ってゆく。
――だんなぁ。夕食が出来ましたよ……
これじゃない。これは隣の。
――君が好きなんだ!――……旦那様、いけません!
おいラブシーンなんてどうでもいいんだっつの。
――ふふ、お主も悪よのう。
もっとオリジナリティのあるセリフを言えよ。後の摘発で吠え面でもかくんだな。
――この書類を今日中に――そこはもっとしっかりと――お嬢さん――これをすぐあちらへ――休憩を――…………。
そんな雑音には惑わされず、意識を集中し、あの屋敷から届く声を正確に拾う。
――……様、暴れなくなりました……。
――無理矢理連れ出した時はどうなるかと思ったが、そうか……
――この料理を地下室へ……
………。
ぞくり、と背筋を何かが駆け抜ける。
……これは、嫌な事態に陥っているらしいな。
おそらくは、拉致監禁。
頭が一気に回転しだす。声が聞こえてくるのは主に別館らしき建物から。
窓。入り口。壁。
全てを見る。頭の中に押し込む。
構造が全て分からなくとも、外観を覚えている価値はある。
俺は不謹慎にも武者震いしながら、建物へと歩みだす。
どうやらかなり長い間そこにいてしまったらしく、夕日が傾き始めていた。
そうだ。部署の奴らに連絡しておかないとな。


4.ソフィア、想う

朝日がいつの間にか爽やかに差し込み、小鳥のさえずりも聞こえる。
今の状況には少々不釣り合いだ。
結局もう式当日になってしまった。
エリックとテルブは、睡眠がないと思考がままならないとばかりに、冷静にたっぷり6時間程睡眠時間を取った。勿論私も。
こんな時、寝ようと思えば割とちゃんと眠る事が出来るというのは、結構便利だと思う。
そしてその二人と私は、卓袱台を挟んで向かい合い、フォトンさんが調べてきた資料を手に色々と話し合っていた。
「式の最中にかっさらうしかない」
「……だな」
エリックの一言に、ダフィラシアスが頷く。
「そうね、隙が一番あるのは式の途中しかない」
私も頷く。それにあまりにも時間がないし。
私は震えるチヨの手を握り、こちらを見てくるチヨに頷く。
チヨは私達と違って殆ど寝ていない。
それだけ恋人が心配なのだろう。
大丈夫。フィラナルさんは大丈夫。
いくらなんでも肉親なのだから、テルブ家の人もそんなに酷い事はしないはず。
「とりあえず職務の方は夜にまわせるようにしたから。
 さて、じゃあ作戦を練ろうか。つっても、警備を突破して、ラフィアナさんをかっさらうぐらいだけどな」
エリックはいつもとは明らかに口調も態度も違う。
でもそれでもいい。
何処かで私は、このエリックを知っているから。
王子であるエリックを。
「ああ。
 ……ありがとう」
いきなりテルブがしみじみと呟いた。
「なんだよ」
「俺と姉上は、いや、ラフィアナは姉弟だっていうのに……二人とも、協力してくれてありがとう」
ゆっくりと心の内からの言葉を紡ぎ出す時の声と、顔。
「礼を言われる筋合いはないな。
 俺はお前に好んで協力してるんだ。お前に嘆願されたからじゃない」
エリックが表情をゆるめて、照れているのか素っ気なく言う。
「私も。お節介焼いてるだけ」
私も若干照れながら、それでも緩む頬を抑えきれない。
けれどそれと共に、後ろめたい思いが胸でずきずきいっている。
多分私は、姉弟でありながら恋人である二人に、私とエリックの関係を重ねている。
私とエリックは身分違いも甚だしくて。
容姿とかだって、似合うわけないって知っている。
でも、好きだ。好きで好きでたまらない。
だから、私達と似ている二人には、無理かも知れなくても結ばれて欲しいと思う。その前に私は片思いだけど。
それが、後ろめたい。
それでも良いと思う自分がいる事が後ろめたい。
でも、テルブを好きだと言ったラフィアナさんの凛とした瞳への、言葉にしがたい思いだって、ある。
だから協力する。清濁どちらの想いも否定する事は出来ないけれど。
少しの間、皆黙り込む。
けれどそれはあまり長くなるのはいけない。
エリックがまず会話を再開させた。
「さあ、じゃあ本格的に作戦を練るぞ」


さあ、ダフィラシアス=テルブよ。
花嫁を、かっさらおう。




第一話 花嫁をかっさらえ!(前編) おわり
第二話:花嫁をかっさらえ!(後編) に続く

よかったら感想をどうぞ。無記名でも大丈夫です。

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