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自覚

〜She realize that she loves him.〜

気付くのは幸せか。それとも不幸か。
それは、本人にしか分からない。

しかし少なくとも、それで何かが変わるのだ。



控え室の机に座り、私、レコン=ブラックは冷静に言った。
「何かあるような言い方をしておいて、何もないというのは呆れるな」
「………」
ルクスは向かいで俯き、
「だ、だって殿下に会わせれば何かあると……。あと、どうにか殿下に格好いい事を言わせて感動させようかと……」
などどぶつぶつ呟くが、
「恋愛小説の読み過ぎか、阿呆。他の悪知恵は回るクセに」
と断言すると、何も言わなくなった。・・・少し言い過ぎたか?
「まあ、殿下に会わせるのは正解だと思うがな。
 ……そう、思わんか?」
にこりと微笑んでやると、ルクスは訝しげに私を見上げ、ゆっくりと目を見開いた。
私の意図するものに思い当たったように。
「まさか……!」
その、まさかだ、と目で答えると、
「君って奴は!」
と殆ど叫ぶように言う。
「それを乗り越えてこその、殿下の恋人というものだろう?」
そう言って笑うと、ルクスは気圧されたように何も言わなくなった。
そして私が、隣の空き部屋に待機して貰っているソフィア殿を呼ぶ為に扉を開けた時、
「この、根性悪」
と言う呟きが耳に入る。
全く、どうして私の根性が悪いなどと言われねばならぬのだろう?
しかしまあ、今日は汚れ役ばかりだな、と口の中で呟いたが、声には出さなかった。



「殿下、少し休憩をとられませんか?
 今朝から殆ど休みも無しで通しで働いていらっしゃるではありませんか」
休憩から戻ってきたレコンが俺を気遣ってかそんな事をすすめてきた。
「ああ、そうだな」
うわ、もう3時か。
立ち上がって伸びをすると、体のあちこちが変な音を立てた。
うーん、十九の身空でこの音は虚しい。まだお肌はピッチピチだけど、顔には出るって言うからなぁ。
ソフィアに嫌われないよう、そこんとこ気をつけておかなければ。
「では」
そう言ってレコンが視界から消えた。大方屋根裏にでも潜んだんだろう。
「さて、と」
椅子から立ち上がる。静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)も立ち眩みも起こらなかった。若い体よ有り難う。
休憩と言ってもなあ。取り敢えずソフィアに会いに行こうか。
でもそれじゃあ長居しそうだ。三日ぶりの愛しいソフィアだし。
どうしたものか。
そうだ、寝よう。睡眠をとろう。
そう思って、レコンの卓袱台の両脇にあるソファーに寝そべり、クッションを枕にする。
ああ、遊園地の時みたいに、ソフィアの膝枕が欲しいなあ……。
うつらうつらと、夢現でそう思う。
そのまま眠りの世界へ落ちていこうとした、その時だった。
けたたましい音と共に、扉が勢いよく開き、廊下から何か人位の大きさのものが放り込まれた。
その音の所為で一気に目が覚めて、思わず飛び起きると、それもむくりと起き上がる。
可愛い栗色の髪と瞳。それを目にした途端、心臓が跳ね上がる。
ソフィアだった。



エリックの執務室は、幼い頃に入ったそこよりも、格段に調度品も何もかもが高級になっていた。執務机なんかはその最たるもので、金の細工までしてある。しかも繊細でとても美しい。上のペン立てなんか水蛇がとぐろを巻いている、職人技が光る一品だし。
私の家のカンペン入れや、木の机とは大違い。
その執務机のまえに、今ひとつ精彩を欠く卓袱台が何故かある。部屋に放り込まれた時、『騎士団』らしき文字が目に入ったから、多分レコンさんのだろう。
その両脇にもいかにも高級そうなソファーがあって、私はそこに座っている。そして、膝には遊園地でもお馴染みの、エリックの頭の感触。
「あ〜、気持ちいい〜」
エリックが本当に気持ちよさそうな声を上げた。でも、その中にはかなり眠気も混じっている。
要するに、また私はエリックに膝枕をしているわけだ。今度は本当に寝る時の枕代わりに。
「やっぱりソフィアは最高だよ」
エリックが青の瞳を少しだけ開けて微笑する。
心臓が跳ね上がったような気がした。
「馬鹿な事言ってないで、さっさと寝なさい。
 膝枕をしてくれって強引に頼んだのはあんたでしょ」
大きな声を出してエリックを起こさないよう、声を抑えてとっさに怒ると、
「はーい・・・」
そう言った語尾が小さくなり、数秒後にエリックは健やかな寝息を立て始めた。
疲れてたんだな、本当に。
昔からこんな時は、エリックが無性に愛おしくなる。
でも、今は別の何かも一緒だ。
胸がつまるような、切ないような、辛いような、でも、何故か無くなりはしない気持ち。
それが、この胸の中に。
そして、心臓をばくばくいわせていた。今はもうだいぶ落ち着いたけど。
エリックの綺麗な寝顔を見ていると、また頭の中がグルグル回り出す。
本当に、この気持ちはなんなのだろう。恋? でも、本当にそうなのだろうか。
私にとってエリックは特別な存在だ。ずっと昔から傍にいるのが当たり前の、本当に大切な人。でも、恋というものになるのだろうか。
大切で、傍にいたい。それだけじゃ、駄目?
……何処までいっても、答えなんて出ないじゃないのよ。
むかつく。苛つく。
たかがエリック、されどエリック。
頭の隅にいつもいて、気付けばエリックで胸がいっぱい。
今も、エリックの体から熱が伝わってきたように、体が火照って、心地良いのか変な感じなのか、分からなくなってくる。
これは、何?
……こんな事を、何度これまで考えたろう。
……なんかもういいや。ぐるぐる考えるのは止めて、寝てしまおう。エリックも寝てるし。
そう考えれば、すぐうとうと出来て、私はそのまま眠り込んでしまった。
温かで心地良い、エリックの熱を感じながら。



気が付けば、執務机の後ろの窓から見える空には、星が輝いていて、エリックは起き上がってレコンさんと仕事をしていた。
私を起こすのは気が引けたらしく、仮眠室の毛布が私の体には掛かっていて、丁寧にクッションも枕代わりに敷かれていて、それを見て慌ててエリックに礼を言うと、
「うん? 良いよ、ソフィアの膝枕に比べたらどんな高級な枕も敵わないから」
なんてバカな言葉を極上の笑顔と共に返された。なんなんだあいつは。
……少しだけ、嬉しかったけれど。
本当に少しだけよ、少しだけ。
そんな事を考えながら、自分の部屋にたどり着き、ドアを開ける。
部屋を開けている間にベッドメイクと掃除が済まされていた。そういう事は自分ですると遠慮したのに、律儀なメイドさん達だ。
ついでに、『毒味済み ルクス&メイド長』と書かれた札が机の上に乗っていて、その周りに美味しそうな夕食が置いてあった。
ここの食事は本当に美味しい。カロリーバランスも考えてあって、健康にも良いし。
今日はチキンの唐揚げ、スープその他。漂ってくる芳醇な香りからして、もの凄く美味しそうだ。
フォークを手にとって、サラダを食べようとした、その時だった。
激しい音を立てて部屋の部屋の扉が開いた。
驚いて扉の方を見る。
サファイアのような蒼い瞳。顔立ちはきつい感じだけれど、エリック並みに整っていて、その顔立ちを紫のロングドレスが強調する。ルビーのような紅く長い髪は艶っぽい。
人の形をした薔薇という喩えが相応しい。
そんな人が、鷹の如く鋭い視線で私を睨みつけていた。
その視線に押されるように、思わず椅子ごと後退る。
「あなたね。ソフィアルティア=ガランディッシュとかいう平民は」
紅を引いた唇から、高めの迫力ある声が漏れる。
高飛車にその人が、テーブルに座っている私を見下ろした。
平民、と言ったからには、この人は貴族。しかもこの王城をうろつけるという事は、高位な貴族の娘なのだろう。よく見ればエリックと同い年ぐらいか。
「貴方如きに名乗る名は無いわ」
その傲慢な言葉に、私が怒る暇もなく、彼女は私につかつかと歩み寄り、
「この食事・・・!」
食事の何がかんに障ったのか、テーブルクロスを迷い無く引いた。
床にそれが無惨に散る。精魂込められた、料理人達の力作が。
「な、何するのよ!」
ここの食事は本当に美味しいのに!
「良いのよ。 これは貴女の物ではないはずなのだから!」
は!?
「貴女は、殿下に相応しくないのだから」
どくん、と心臓が波打った。その言葉に言い返す事は出来ない。支離滅裂な人だけれど、痛い所をつかれた気がする。でも、どうしてそうなるんだ。
迫力と剣幕が、更に強くなってゆく。ローズさん(仮名。そう呼ぶ事にした)は、静かに、しかし怒りをありったけ圧縮した声で、続けてゆく。
「平民。貴女はただの平民なのよ。殿下の傍にいる価値なんて無いわ。政治のイロハも分からず、私達に気兼ねする事もなく。
 しかも容姿は十人並み!
 どうして殿下が貴女などに誑かされたのか、理解出来ないわ!
 ……思い上がらないで」
そんな事を滔々と並べ立てながら、その人は私の部屋にあるあらゆる物を投げ、壊し、滅茶苦茶にしてゆく。
傲慢でヒステリックな迫力に、私は何も言えなかった。
でも、言い返したい。胸が滾るように熱い。何かが違う。何かが、違う。
エリックに私は似合わない。けれども、でも、私は。
べちゃり、と尻餅をついて後退った私の手に、グチャグチャになった食事があたる。
何かが頭の中で回転し始める。熱い。体がとても熱い。エリック…、エリック!
あらゆる罵詈雑言を吐き、とどめにベッドのシーツを裂き、ローズさん(仮)が告げた。
「殿下には、貴女は相応しくない。
 私達家柄のある者こそが、殿下に相応しいのよ!」
それと同時に、頬に熱い感触が走る。平手打ちされたのだ。
張りつめていた糸が、切れた。まさにそんな感じだった。
起きあがり、足を動かし、走る。
手に熱い感触が走った。
「食べ物を、粗末にしてはいけません!」
考えるより先に、口からついて出たのがその言葉だった。
「何………私の、私の顔を………!」
私がぶった頬を押さえて、ローズさん(仮)が濁った瞳で私を見る。
ああ? 親父にもぶたれた事無いのに、とかどっかのコミックみたいに言うつもり?
「聞いてるの!?」
そう問うても半ば茫然自失の彼女。でも私の頭は冴えていて、それでいてぼうっとしそうなぐらい熱い。
分かった。わかったのだ。
ローズさんを睨みつけ、私は声が震えぬよう、ゆっくりと告げた。足を踏ん張り、身構えて。
「私はエリックに似合わないかも知れない。
 でも、貴女みたいな人も、エリックには似合わない。たとえ私がいなくても、エリックは貴女みたいな人には決して靡かない。
 貴女みたいに、傲慢で、怒鳴り散らせばどうにかなると思っていて、人の悪口をこんな風に言って、食べ物だって粗末にする人にはね」
そう言っていると、だんだん体の熱さも芯だけ残して冷めてゆく。
この人にどうして私は圧倒されたのだろう。
目の前で震えている人が、矮小な存在に思えてくる。
ただ傲慢なだけの、ちっぽけな人。確かに美しいかも知れないけれど、心はそれほど美しくない。
最早ローズさんの目は潤み、体は震え、口を金魚のようにぱくぱくさせている。
ぱっと動かされた腕も、私にとっては軽く押さえられるものだ。
「食べ物には何の罪もないし、私だってここまで滅茶苦茶される覚えはないの。
 エリックを誑かした覚えだって無い。
 そんな私を、エリックは少なくとも嫌いじゃない。好きだって言ってくれる。
 私を罵倒するって事は、私を好きって言っているエリックを罵倒する事になる。
 ……謝ってとは言わないけれど、そういう事ぐらい、ちゃんとわきまえなさい!」
それに、たとえ相応しくなくたって、私は、エリックの事が……。
そこまで考えた所で、ドアの方で音がした。
振り向くと、ルクスさんがそこに立っていた。
「ローズマリー=エイダ。何をしている」
いつもの戯けたような、明るい声とは違う、鋭いそれがルクスさんから飛ぶ。
右手にその襟を掴むようにして、人を引きずっていた。
……私がつけた仮名、当たってたみたい。
「ルクス=シェラン」
ルクスさんを睨みつけて、ローズマリーが苦々しく呟いた。
「お付きの騎士を私達に仕掛け、その隙にここまで暴れるだなんて!
 しかも、ソフィアさんの頬を叩くとは。
 ……殿下も怒るだろうね」
そう言ってルクスさんが引きずっていた人を部屋へ放り投げた。
「ユーシェン!」
何の躊躇いもなくその人にルーズマリーが駆け寄る。
「……申し訳ありません……ローズ、様」
とても辛そうに、それでもその人は懸命に言葉を紡ごうとする。
「いいから、もう喋らないで」
「………私が、勝手な事を」
「いいから!」
一筋の涙が蒼い瞳からこぼれる。
「……どんな処分でもするがいいわ。はやく彼を医者に!」
彼女は叫ぶように言うと、躊躇いもなくその紫のドレスを裂き、血が出ている患部に巻き付けていった。


「身内には優しいのさ、彼女は」
ローズマリーが衛兵に連れて行かれた後、ルクスさんは私に最早食欲なんて無いのを見て取って、隣の部屋の自分の控え室に連れてきて、紅茶を淹れてくれた。
言って自分の紅茶を一気に飲み干し、ため息をつく。
「貴族の中でも傲慢な部類に入るからね。得てしてそういう人間は案外身内に甘かったりするものさ。
 私も貴族の娘だから、付き合いはあったけれど」
シェラン家も、エイダ家も、昔王城を歩いている時に聞いた事があった名だった。
流石に機密事項とかを聞いた事はないけれど、人の立ち話はよく聞いた。
だって顔パスだったし。
「しっかし、『食べ物を粗末にしてはいけません!』て声が聞こえてきた時は吃驚したよ。どうしてそんな事を言ったんだい?」
「あ、……だって最初にあの人、折角メイドさん達が作ってくれた食事を床にぶちまけたんだもの。だから、……考える暇もなく」
「……凄いね君は。あそこまでヒステリックに怒鳴られて、さぞ恐かったろうに。
 流石は殿下の選んだ人だ」
「エリックは、私を好きか分かりませんよ。親への気持ちを私に肩代わりさせているだけかもしれないですし」
「じゃあ、君は殿下を好きなわけだ」
いたずらっこの顔でルクスさんがからかう。そういう事が好きな人だなあ。
「はい」
「………」
あっさり答えると、ルクスさんの目が点になった。
「……え?」
「私は、エリックが好きです。恋だと思います」
「……いつの間にそんな」
「なんか、あの人の頬をぶつのを決めた時に何かが切れたんです。吹っ切れた、ってやつかな。
 あー、私はエリックを好きなんだ、って」
ぽかんと口を開けたルクスさんは、そのまま机に突っ伏す。
「君って、鈍いんだか何なんだか分からないね……」
「はぁ……」
曖昧に答えると、ルクスさんは顔を上げ、
「で、告白は?」
と言った。
かあっと体が熱くなる。告白。つまりエリックに、好きだ、と言う事。考えるだけで頭がぐるぐる回りそう。
「しませんよ!」
殆ど叫ぶように言ったら、不満げな顔をされた。



「ソフィアぁあ〜!」
エリックが情けない声を上げて、扉から飛び込んできた。
「エリック」
「大丈夫だった? 凄く心配したんだからね」
「しかし遅いね殿下」
ルクスさんからあっさり厳しい言葉を浴びせられたエリックが一瞬動きを止める。
「んなこと言ってもねぇ、レコンが止めるんだよ! まだ危ないかも知れないからってさ。まあルクスはソフィアを襲うような奴じゃないって思ってたから、ちょっと慎重にきたのにぃ〜」
「まあそれは当たってるね。私はレズじゃないから」
「でしょ、ああもうソフィア会いたかった〜……。
 ……あれ? 今ルクス、何か変な事言わなかった?」
「いいや」
でも、なんか確かに言ったような。
……まあいい、気のせいか。
「いや、言ったでしょ、なんか爆弾発言風味な」
「言ってませんよ、殿下」
私とは違って、まだくいさがるエリックの後ろから隊長さんが現れてにこやかに言った。
「……でも、確かに」
「言ってません。言ってませんったら言ってません」
なんか冷や汗っぽいものが垂れて、笑顔も結構な迫力があるんだけど。
ルクスさんを見ると、素知らぬ顔でクスクス笑っている。んでもって、レコンさんがさり気なくそれを睨んでいた。
なんだ。いったい何なんだ。
「さて、それよりソフィア殿、お怪我はございませんか?」
「ああ、そうだよう、ソフィア〜!」
「ないねぇ。強いて言えば頬ぐらいだけど、まあおあいこだね。後に残りなんてしない、すぐに引く腫れさ」
私の代わりにルクスさんが答える。それをギロリと隊長さんが睨む。
……あ、なんか私とエリック置いてけぼりっぽい。
「レコン? ルクス?」
二人の後ろに龍と虎が見えてしまいそうな雰囲気に、エリックもビビリ気味。
「ルクス……お前という奴は」
「根性が悪いって? でも私生活の君の方が数段、根性も悪知恵もいろんな所がどぎついじゃないか」
そのまま二人は謎の笑顔を浮かべ合う。ぁ、もう少しで龍と虎が見えるかも。
てか、あのー、もしもし?
「まあ、ここは一時休戦だ」
休戦って、どんな戦いしてるんですか。
「さて、では話をお戻し下さい」
レコンさんが律儀に告げた。
このとき、私とエリックの心は一つだったと思う。
戻せるかよ、この野郎。



念のためという事で警備隊の方々が城を巡って安全を確認する間、私はエリックの執務室に連れてこられた。
切り替えの早いエリックは、部屋に入った途端、早速両手を広げて自信満々の顔で、
「さあ、俺の胸に飛び込まないでおいで、ソフィア」
などと変な事を言う。大方いつもの逆をいくつもりなんだろう。無駄なあがきだ。
「……じゃあ、飛び込まない」
「と、飛び込んできて下さい!」
阿呆だ。この馬鹿王子。
こんな奴が好きなんだから、私も馬鹿なのだろうか。
それでもいいと思う。
だって、この気持ちは心地いい。
素直に胸に飛び込んで、エリックの背中に腕を回す。
「ソ、ソフィア!?」
いざそうされたら驚くらしく、エリックが驚きの声を上げた。
それから少し躊躇う気配がして、ぎゅっと抱きしめられた。
「……ごめんね、ソフィア。ごめん……」
そう謝りながら、エリックは体を震わせ、そして、大好き、と囁いた。
その熱い鼓動も、震えも、直に伝わってきて、私の心臓は大きく早く波打ち始めた。
でもそれは、今まで見たいに苦しくなくて、切ないような、嬉しいような、そんな感じだ。
この震えている体も、透き通る声も、輝く髪も、綺麗な顔も、澄んだり濁ったりする瞳も、色々な光を見せる心も。
昔からいつも傍にいて、当たり前の事だったのに、何故か新鮮に見える。
さっきの恐怖すら、もう何処かへ行ってしまった。
脈絡もなく熱いモノがこみ上げてきて、私はエリックの胸で涙を流して泣いた。
ああ、私は恋をしている。
叶わないかも知れない恋。でも、今はそれ以上考えられない。
私も大好き。好きよ、エリック。
いつまでも、傍にいて。
エリックの胸は逞しくて、私の体をずっと支えていてくれた。



気付いて、いざどうするべきか。
それは神すら知る由もなく、本人は勿論知らない。
ただその時と瞬間は、辺りに輝きが溢れ、想いが胸に満ちてゆく。



第十三話 おわり
第十四話:自覚した後 に続く

よかったら感想をどうぞ。無記名でも大丈夫です。

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