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転校初日。


俺は、自分の名前が嫌いだ。

とにかく嫌いだ。思いつきで名前を付けた親にちょっと本気で殺意を覚えることがあるぐらい大嫌いだ。
転校後に自己紹介するときのクラスの反応は爆笑か微妙な引き攣れ顔かのどっちかだし、しかもその後俺の体型と性格を無視した忌々しいとあるあだ名で呼ばれ続ける。カラオケなぞ行こうものなら上手い下手関係なしにいじられるのだ。本当に厄介なことこの上ない。
もういっそのこと改名したいが俺は未成年で、面白がって改名を認めない愉快にひでえ両親のお陰でそれは敵わないまま。
だからこそ、もう一度言おう。
俺は自分の名前が嫌いだ。

という訳で親が転勤族な俺は高校に入って二回目の転校初日、憂鬱な足取りで学校へ向かった。
あーあ、今度もまたからかわれるんだろうな、前の学校の奴らにせっかく馴染めたのになあ―――なんて考えつつ、校門をくぐり。
「そっちに行ったぞ! 捕まえろー!」
ただ今、鎧を着た兵士たちから絶賛逃走中である。

状況をまとめていうと、俺はどうやら異世界に飛んでしまったようなのだ。
校門をくぐったその時、いきなり景色が歪んだかと思うと、どっかファンタジックな城らしき建物の中に立っていた。
周りは全面石造り。あれここどこだ、と混乱する間も無く、俺を見つけた兵士らしき男が叫んだ。
『不審者だ! 黒魔導師と同じ服を着ているぞ!』
黒魔導師って誰だよ、と問う暇も無く集まってきた兵士の皆様方に追っかけられ、俺は未曽有の大ピンチというわけだ。
何せ奴ら剣を抜いてて、不穏な空気バシバシだ。逃げるしかない。
ああ陸上やってて良かった本当に、と思いつつ、俺はさらに加速する。
そのまま回廊の角で方向転換しようとするが、その先からも兵士たちがうようよと湧いて出た。
げ、もしかして追い詰められた?
逃げる場を探してぐるりと視線を巡らすが、前後に兵士、左には壁、右には真っ青な空を映す窓と、なんかもうどうしようもない。
それでも咄嗟に窓の方へ逃げた。
空中庭園らしき下の地面は意外に近い。一瞬躊躇ったが、窓枠を越えて飛び降りる。足をしならせ衝撃を殺し、それでも襲う痛みに耐える。
そのまま逃走を続けようとした、その時だった。

「――うわ、びっくりした」

背後からの涼やかなテノールが耳を撫ぜた。
何このイケメンボイス。
驚きつつ振り向くと。

そこに、メガネ男子がいた。

昨日届いた俺の制服と同じものを着た、メガネ男子という形容が一番しっくりくる、いやもはやメガネ男子そのものの、銀縁眼鏡の美形の男。顔立ちはどちらかと言うと柔和そうだが、なんだか得体のしれない雰囲気を醸し出している。
何か言おうと口を開いたその時、
「――黒魔導師だ! 黒魔導師もいるぞ!」
「やはり仲間か!」
なんて声が聞こえ、俺はえ、と男の顔を注視する。
黒魔導師? こいつが? そういえばあいつら、同じ服って言ってたっけ?
混乱して何も言えずにいると、メガネ男子は俺に微笑み、おもむろに片手を上げる。そこにはオーソドックスに光る球体が二つ浮かんでたりして。
「話は逃げながらにしよう!」
その球が俺の背後と右側に投げられ、轟音が響いた。
「えっ……ちょっと待てお前――」
言葉を紡ぎきる前に、奴は俺の腕を掴んで駆け出す。
「ねえ君、名前は?」
好奇心丸出しの顔でそいつが聞いてくる。
「いきなり何だよ。そっちから名乗れ!」
引っ張られて崩れた体勢を立て直し、手を振り払って並行して走りながら言い返すと奴はつまらなさそうな顔をして、
「じゃあダメだね。僕の名前、絶対冗談だって思われるもん」
親は本気でいい名前だって思ってるんだけどね、と続ける。
「へえ奇遇だな。俺もだ」
俺の場合はふざけてつけられたもんだがな。
「じゃああだ名」
「それも却下! それよりこれ、何が一体どうなってるんだよ!? 俺は校門をくぐっただけのはずだぞ!?」
階段で中庭に駆け下りながら叫ぶと、
「とりあえずここは異世界。僕よく飛ばされるんだ。ほかにもいくつか別の世界に行ったことあるよ。
 僕はこっちでは魔法が使えるから、つい暴れちゃってさ。さすがに人は殺してないけど黒魔導師って呼ばれてるんだ」
「暴れたぁ?」
「うん。先に仕掛けてきたのはあっちだけど、ちょっとやりすぎちゃった」
「………」
さっきの思い切りのいい攻撃を思い出す。多分相手にとっては『ちょっと』程度ではなかったのだろう。そういや逃げてる途中に何回か不自然に真新しい壁を見たような……?
「しかし今まで僕だけここに来てたのに。何か条件が一致――」
右手をあごにあてて何か考えた後、
「――あ!」
何か閃いたらしく、立ち止まって満面の笑みで俺を見る。
俺も立ち止まる。どうしたっていうんだ?
「分かった。君の名前、『―――――』でしょ!」
「なっ―――」
なんで分った、と言い終わらないうちに、俺の視界がいきなり真っ白になった。

気が付くと、元の世界の校門の下に俺は立っていた。

なんかもう凄い体験しちまったな、でももうごめんだ、あいつにも関わりたくない厄介そうだから。
そう思いながら担任の後について教室に入り、俺は―――固まった。
「えー、転校生の……」
担任が俺の紹介をする間、俺は教室の一番後ろに座っているその人物にくぎ付けだった。
にこにこと楽しそうに笑っている黒魔導師なイケメン眼鏡に。
しかもその隣にはちょうど良く空席が空いている。
クラスの生徒たちの反応もなんだか違って、何故か憐れむようなまなざしが満ちているのがすごく不安だ。
「さてと。合田君の席は、そこだ」
案の定、やっぱり俺の席はそこだった。
嫌々ながらカバンを持ち、俺は奴の隣へ歩いてゆく。

「野比(のび)太です。よろしく、ジャイアン」
あの有名な猫ロボットアニメの主人公とは明らかに別方向にのびのび育ち、災難の種と化したらしいメガネ男子は、微笑んでそう告げた。

俺の名前は合田武。
自分の名前が大っ嫌いな、平凡な生活(最早叶いそうにない)を愛する十七歳である。


END

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