いつも彼女は傍にいた。だから、居るのが当たり前だと思っていた。
平安の世、安定した、時々揺れ動く生活。
俺と彼女はなかなかにそれが気に入っていた。
でも、彼女の寿命と、俺の寿命は違ったのだ。
圧倒的に。
+++
初夏に入ったときのことだった。
俺は縁側に座って、庭で鳥と戯れる彼女を見つけ、声をかけた。
「
「なんだい、紀人」
服装を気にしない彼女は、一枚桜色の布を身につけて、それを腰の布一つで止めている。十二単の変な奴らより、綺麗だ。
「俺、もう長くないだろうな」
ぎょっとした顔で振り向いた彼女の顔を見て、俺は確信した。
金髪に、青の綺麗な瞳。人ではない、異形の彼女。それでも、美しい。そして愛しい。
だから最初に名を付けた。見つけて直ぐ、俺のモノだという印を。
彼女には分かっていたのだろう。俺のような、“力”の有る者でも見れぬ、避けれぬモノが。
「……」
彼女は俯き、何も言わない。言葉を探しているのか、なんなのか。
まるで自分が死ぬとでもいうような感じだ。
まあいい、取り敢えず、ずっと言いたかった事を言っておこう。
「なぁ、朧……」
言いかけた途端、ゴプッと音がした。なんだろうと思ったら、俺が血を吐いた音だった。
力が抜けていく。ああもう最後か。そう思った途端、意識がとぎれた。
+++
俺は図書館で借りた医学書をめくりながらため息をついた。
もう少し別の時代に生まれていたならば、助かったであろう病。
あの時、俺の命を奪った病。
お陰で彼女に言いたい事も言えず、そのまま死んでしまった。しかも、転生に千年位かかってしまった。
今、何処にいるだろう。他の男とくっついてないよな。
「好きだ」
声に出してみる。
それが、言いたかった一言だ。彼女に出会った時から感じていた気持ちだ。
異形である彼女は、未だこの世にいるだろう。
ならば、それを探し出して言う。
もう一度、あの甘い蜂蜜のような気持ちを味わうために。