今宵、君とダンスを。

〜Dance with me,please?〜

舞踏会。
それは貴族にとっての社交の場。
私とレコンの主であるエリックザラット皇太子殿下は、それに出席することをなるべく避けるのだけれど、やはり付き合いとか、気安い貴族の子弟達と息抜きをしたくなったりとかで、出席する時もある。
その場合勿論、レコン率いる我らが十三番隊も付いてゆくことになるのだ。

「なあ、ルクス=シェラン」
「……何だい?」
新米隊長のレコン=ブラックが、後ろから私に声をかけてきたのは、とある舞踏会が終了し、下の者たちに王城での護衛を任せ、寮へと引き上げる時だった。

「今日の舞踏会。どうだった」
「んー、綺麗だったんじゃないのかい?
 でももう少し節約してもよかったんじゃないかと思うけど。ギラギラしすぎ」
なぜそんなことを聞くのかと内心疑問に思いつつも、私は思ったことをそのまま言った。
するとレコンは、ふむ、とわずかに声を出して言葉を続ける。
「では、俺と一曲踊らないか」
「はい? 何の冗談だい、それ」
「冗談ではないがな。お前、女だろう?
 一目見た時から分かってた」
「………!?」
今度は完全に振り向き、レコンを正面から見据える。
レコンの顔に浮かぶ笑みは、いつものいじりやすい実直な男のそれじゃなく、ふてぶてしく自信に満ちた、俺様のそれだった。

それが、私・ルクス=シェランとレコン=ブラックという男の、本格的な付き合いの始まりだった。



もはや他人の部屋とは思えないほどになじんだレコンの部屋のベッドに腰掛ける。
「なんかあの瞬間、うわ、サギ、って思ったのだよ」
「サギとは何だ、サギとは」
あのふてぶてしい笑みを浮かべ、椅子に座ったレコンが文句を言ってきた。
「詐欺の他にないと思うよ? おちょくりやすい真面目さんだと思ってたのに、一気なりもう図太いわ俺様だわ……ほんっともうあれはやられたと思ったね」
あれから、何度かの舞踏会が過ぎるほどの月日が開いた。
私はその間にレコンとずいぶん親しくなった。……私生活で、レコンに思いっきり振りまわされているうちに。
仕事中の真面目な隊長どこ行ったと叫びたくなるぐらいの俺様っぷりを傍若無人に思う存分発揮され、初めはどうなるかと思ってたけど、慣れとは恐ろしいもので、それなりに今の状況を受け入れている自分がどっかにいるわけなのだ。
それに何だかんだいって根本はいい奴なのだ。雑用を不思議と進んでこなしてくれるし。食事も無造作に二人分作って御馳走してくれるものだから、私はすっかり餌付けされてしまった。
ほぼ同居、とでもいえば良いんだろう。勝手知ったるレコンの部屋には簡易式のベッドが一つ増え、いろんなものが二人分になった。私が自分の部屋に戻ることは、必要に駆られる時もあるから全くとは言えないけれど、日常においては滅多にない。
恋人とはいえない。私たちの間にあるのは友情とかそれに類するものだと思う。けれど、なんだかレコンの傍はとても居心地がよくて、ずるずるそんな生活を続けてる。
くす、とレコンが笑って立ち上がり、歩いて私の隣に座る。
「まあ確かに、そういう性格をしているという自覚はあるがな。騙したつもりはないぞ?」
「君はそのつもりだろうけれどね」
ため息をつくと、よく分からない、といった顔を浮かべ、さらり、とレコンがルクスの髪をなでる。
「むしろ騙しているのはそちらだろう。男装の麗人なぞ、騎士団中を探してもそうそうおらんぞ?」
「いいのだよ、私は。明確に『私は男です』とか言ってるわけじゃないんだから」
「それをへ理屈と言うのは知ってるか」
「……いいじゃないか、別に」
「ん、まあそうだな。お前はこんなに綺麗なのだし、気付かんあいつらが悪い」
「………」
よくもまあ、恥ずかしげもなく。ほぼ口説き文句に近い事を言ってるって、レコンは分かっているのかねえ?
「ああ、そうだ。そういえば」
何かを思い出したらしく、ぽん、と手をたたき、レコンが立ち上がり、クローゼットへと歩いてゆく。
「どうしたんだい?」
「ん、ちょっと待て、この辺に……」
クローゼットの下段からなにやら大きな箱を取り出し、それを開けて中から布製の何かを引きずり出す。
もしかして、と思っていると……やっぱりそうだった。
「また買ったのかい、君。よくもまあ懲りずに」
「いいだろう別に。お前以外は何も文句を言わんのだから」
レコンが取り出したもの。それはドレスだった。
もちろん、ルイルに似合うようなフリフリヒラヒラ花柄ドレス、といったようなものじゃあない。
女にしてはすこしごつめな――レコンに言わせれば『スレンダー』な――私が着るための、簡素かつスタイリッシュなミディアムドレスである。
さすがものを見る目はあると思うけれど、私のサイズに合わせるためにオーダーメイドにしたりわざわざ取り寄せたりするから、値段が結構に張る。
レコンはそれをいつも自費で買ってまで私に着せて楽しそうにするのだ。訳が分からない。
「じゃあ俺は廊下に出ているからな」
着るか、とも聞かずに私がそれを試着することを決定事項としてそう告げ、レコンはドレスを残して部屋の外に出て行った。
「まったく……」
ため息をつきながら服を脱ぎ、ドレスに袖を通す。
何だかんだと従ってしまうだなんて、私は本当にどうしたんだろうね?
さらりと心地の良い、今着ていた普段着とは明らかに違う肌触りを実感しながら、ドレスを身に纏い終える。
一度もサイズを測らせたことはないというのに、今回もいつも通り私の体にぴったりだった。
まさか、貴族の実家を出て騎士団に入った後でこんなドレスを身に付けることになるとはねえ。
いつも社交界に出る時に来ていたフォーマルな男性衣装を思い出し、私は微かにため息をついた。
全く我ながら妙な精神構造をしているものだ。男装でこの容姿に対するコンプレックスを包み隠そうとしながら、『女装』をすることが、……とても嬉しい。
その点私とおなじ女でもルイルはなんか違うんだけどね、とフリフリドレスも似合うだろうに、『十三番隊用の鎧は女子用がないですから』とそれを注文することもなく男用の鎧を着込み、出勤時の格好も中性的(それでも大層可愛らしい)な愛すべき『紅一点』の顔を思い浮かべる。あの子は多分あの恰好をしていても『自然体』なんだろう。……というかそもそも、私とレコン以外の隊員に自分の性別がばれている事に気づいているんだろうか、あの子……。
そんなことをぼんやり考えていると、ことん、と廊下で音がして、私は我に帰った。
今はどうでもいいか、そんな事。
「着替え終わったよ」
「そうか。入っていいな?」
一応自分の体を見回し、どこも変に露出していないかを確認する。
「うん。いいよ」
その返事をするや否や、ガチャンとドアが開き、レコンが入ってくる。
そして私の姿を視界に収め、満足そうに微笑する。
「……似合ってる」
とか、蕩けそうなバリトンでささやきながら。
この男、天然でタラシじゃないか? レコンの恋人でもない私にここまで心臓に悪い事をするか、普通。
とはいってもこの後の方が、心臓に悪いと言えば悪いけどね。
レコンの格好は普段着でも通用するけれどフォーマルでも別に良いようなワイシャツにズボンというものだった。
この格好も今じゃ馴染だ。
「さて、それでは」
す、とレコンが私に掌を差し出す。
そして、今までに何度も繰り返されたセリフをきざったらしく言う。
「一曲踊っていただけますか?」

だって今日は、舞踏会があったから。



『俺と一曲踊らないか』
そのレコンの言葉は冗談でも何でもなく、ナチュラルに本気だったのだから驚く。
『何を言っている。本気に決まっているだろう? お前はきれいだし、それに舞踏会で踊りたそうにしてたろう?』
それが真面目に本気であることをはっきり認識した時、驚いた私の様子に、何を目を丸くしているのかと首をかしげて、レコンはまた、『俺と踊らないか』と聞いてきた。

『仕方ないね。いいよ』

私の口から出た言葉はそれだった。
そして、私は舞踏会のあと、怪我でもしていない限りは毎回レコンと踊ることになった。


レコンの手を取る。
その手は逞しく、女の私ではどうにもこうにも敵いそうにない力強さだ。
そして、彼の踏むステップは、男のもの。私がいつも、女性相手に踊るステップ。
どうやって知ったのかと問うと、『舞踏会で見たものをそのままコピーしてアレンジした』というレコンの超人的運動神経がないと言えない台詞をあっさりと返してきた。どうしてそこまでして私と踊りたいのかと問えば、また歯が浮くようなセリフを無造作に返してくるのだから始末に負えない。
だから、というか、なんというか。
結果的に私が踊るのは女性のステップになるわけなのだ。
それが何だというんだ、と言われれば、何でもないわけなのだけれど。
……でも、ね。
少し、不思議で、弾むみたいな、心地が、する。
とん、とん、とステップを踏む。ドレスがなびく。
今日の舞踏会での曲を反芻しながら、私と、レコンは、踊る。

ダンスはそのうち、あっけなく終了するだろう。
「ふわー、疲れたあ」
「そうだなあ」
踊った後はそんな言葉を交わしながら、ビールを一気飲みなんかしてみる。ムードはぶち壊しになる。
けれども、そんな雰囲気の中でかわす軽口に、私とレコンは不文律みたいに、こんな会話を織り交ぜる。
「ね―レコン。また踊ろうね」
「ん、そうだな」
踊ろうな。
そう言って、レコンは私を見て目を細め、ふわりと頬を撫ぜるだろう。
それがとても心地いい事を、私は知っているから。


静かに手を取って、微笑んで。

今宵、君とダンスを。



End.


小次郎さまからのリクエストで、『ちょっぴりラブラブっぽいレコンとルクス』です。
……ええと、ちょっぴりラブラブって……これでいいんでしょうか……。とりあえずレコンとルクスの日常というか内情というか、そんな所を描いてみました。



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