一番近くて遠い人

〜Are you my friend?〜

私、ソフィアルティア=ガランディッシュ、12歳には、一人、幼なじみがいる。
ふざけた口調でいつもいつもまとわりついてきて、正直ちょっと鬱陶しい。
いつも笑ってる。たまに拗ねたり、甘えてきたり。
三歳上とは思えない。
そんなあいつ、エリックザラット=ウィルクサードはこの国の王子だ。と聞けば身分違いのロマンスを考える奴らがいるかも知れないけど、そんなの勘違いも甚だしい。
本気になれば身分すらぶっ飛ばしてしまうだろう。て言うか、そもそも平気で町に降りてきている所からして違う。
付き合いは、十二年だ。
そんなあいつが、今日は放課後になっても抱きついてこなかった。校門で待ってすらいなかった。つまり、来なかった。
なんか気になる。いつも習慣みたいになってるのに。なんか気になる。
靴が大通りの煉瓦を踏みしめる音がすごく大きく聞こえる。
そのまま、私は家へ帰宅しようとしている。
何故だか胸が詰まり、ぎゅっと締め付けられる。
と、魔法製品店の前の水晶に、ちょっとした人だかりが出来ていた。
「何だろ」
呟く。でも、隣に誰もいない。親友のチヨは居残りだ。あいつは、言わずもがな。
そっちに歩いていって、一つの水晶(といっても丸くなく、縦横共に私の片腕より長い長方形)を覗き込んだ。

いた。

あいつだった。あいつが、演説をしてる。十五には見えないほどしっかりしていてかつ聡明そうな王子。
エリックザラット=ウィルクサード第一王子殿下。
綺麗な微笑みを浮かべ、真っ直ぐ聴衆を見て、気高さたっぷりに。
違う、と思った。エリックが笑う時はあんな顔じゃない。もっとあっぴろげに、本当に嬉しそうに、幸せそうに笑う。綺麗に澄み渡った、茶と青の瞳で。
なのに、何なのだろう。これは。
他の人達にはどう見えるか知らない。でも、幸せそうじゃない。胸に手を当てて、光栄だ、とか、国のために、とか、そんな事を言っている間だって。
茶の瞳は、川の底を掻き上げた時みたいに濁ってる。青の瞳は冴え冴えと、まるで牙をむき出しにした狼のようにぎらついてる。
どっちも、私が実は好きな瞳じゃない。ふとした拍子に見せる愁いを含んだ顔とか、拗ねてる時とか、怒ってる時とかの方がまだましだ。
気持ち悪い。
なんなの? 誰なの、こいつは。
エリックだ。でも、違う。エリックだけど、『殿下』だ。
足が勝手に動いていた。家へ、まっしぐらに。
明日はエリックが迎えに来てくれるだろう。昨日の演説、見た? 格好良かったでしょ、とか、疲れたよう、ソフィア、とか言って。巫山戯た言葉で、笑ったり怒ったり。
そうじゃないと嫌だ。遠い人みたいで嫌だ。
一番、近くて遠い。それが私の幼なじみだ。
私の、本当は大好きな幼なじみだ。




 王子と娘 / お題